知的エージェント
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/11/12 06:09 UTC 版)
知的エージェント(Intelligent Agent、IA)、またはAIエージェント(AI agent)とは、一種の人工知能的機能を有するソフトウェアエージェント。ユーザーを補助し、繰り返し行うべきコンピュータ関連のタスクをユーザーに代わって行うエージェントである。通常のエージェントは、固定的なプログラムされた規則に基づいて操作者の補助やデータマイニング(ボットなどと呼ばれる)に使用されるのに対して、知的エージェントは学習し「適応」する能力を有する。
特徴
文献によっては、知的エージェントを「自律知能エージェント; Autonomous Intelligent Agent」と称する。すなわち、知的エージェントは独立で行動し、状況の変化を学習して適応する。Nikola Kasabov によると、知的エージェントシステムが備えるべき特徴は以下の通りである[1]:
- 環境との相互作用によって学習し改善されていく(Embodiment)
- オンラインおよびリアルタイムに適応
- 大量のデータから高速に学習
- 絶えず新たな問題解決規則に適応していく
- 類型や検索に関するデータはメモリ上に持つ
- 短期記憶や長期記憶、その間の移動や忘却に関してのパラメータを指定できる
- 自身の動作・失敗・成功などを自己分析できる
分類
"Management Information Systems for the Information Age" 第三版 によれば、知的エージェントは基本的に以下の4種類に分類される[2]:
- バイヤーエージェント/買い物ボット
- ユーザーエージェント/パーソナルエージェント[3]
- 監視エージェント
- データマイニングエージェント
1. バイヤーエージェント[2]
バイヤーエージェントはネットワーク(インターネット)上で商品やサービスに関する情報を検索して回る。「買い物ボット」とも呼ばれ、CD、本、電化製品、といったフリーサイズな製品に関して非常にうまく機能する。Amazon.com は買い物ボットの好例である。Amazonでは、ユーザーのこれまでの買い物履歴などを基にして、ユーザーが好むと思われる本などのリストを提示する。
2. ユーザー/パーソナルエージェント
ユーザーエージェント(あるいはパーソナルエージェント)とは個々のユーザーのために行動するエージェントである。この種のエージェントは以下のようなタスクを行う:
- 電子メールをチェックし、(そのユーザーの)優先度にしたがってソートし、よい知らせがあったらユーザーに知らせる(例えば大学合格通知など)。
- ゲームの相手をしたり、ユーザーに代わってゲーム関連サイトを巡回する。
- ニュースをユーザーの興味にあわせてまとめる。この種のエージェントは既にいくつかあるが、CNN のものが好例。
- ユーザーの指定した主題に沿って情報を探す。
- ユーザーの個人情報を記憶しておき、ユーザーに代わってウェブ上のフォームに入力する。
- ウェブページの検索をした際にそのテキスト内の重要な情報と思われる部分を強調表示する。
- ユーザーと様々な話題について対話する。
3. 監視エージェント(Monitoring-And-Surveillance Agents)[2]
「予言エージェント; predictive agent」とも呼ばれ、機器を監視して報告する知的エージェントである。例えば、NASAのジェット推進研究所では機器の注文に関して、在庫管理・プランニング・スケジューリングのコスト削減を図るために監視エージェントを導入している。それらエージェントは複雑なコンピュータネットワークを監視し、各機器が正しくネットワークに接続されるよう調整する。
4. データマイニングエージェント
データマイニングエージェントはデータウェアハウス内で動作し、情報を探す。データウェアハウスは様々な情報源から大量の情報を集める。「データマイニング」とは、その中から有用なデータを探し出すことであり、例えば売り上げを伸ばす方法や離れようとしている顧客を繋ぎとめる方法を探したりする。「分類; Classification」は一般的なデータマイニング手法のひとつで、情報内のパターンを探し出して分類するものである。データマイニングエージェントは、トレンドの大まかな転換を検出したり、新しい情報の存在を検出してユーザーに注意を促すこともできる。
知的エージェントは、その仕事によって千差万別である。BotSpot には各種エージェントに関する情報がある。
別の定義と使用
あるときは"virtual personal assistant"(日: バーチャルアシスタント)の同義語として、英語"Intelligent agent"はしばしば漠然とした用語としても使われる[4]。 二十世紀の幾つかの定義は、ユーザーを補助する、またはユーザーの片腕として振舞う、プログラムとしてのエージェントとして特徴づけられる[5]。これらの例は「知的エージェント」を意味する、(知能を有するソフトウェアエージェントである)ソフトウェアエージェント、またときには「知的ソフトウェアエージェント」(英: intelligent softweare agent )として知られる。
エージェントAI
生成的人工知能の文脈において、(複合人工知能システム(英: compound AI system )ともよばれる)エージェントAI、AI代理人、あるいは代行人工知能は、複雑な環境において自立的に稼動する能力によって他とは区別される、知的エージェントのクラスである。エージェントAIツールはコンテンツ作成おける意思決定や、人手による入力や継続的監督を要しないことに特化している[6]。
応用
AIビジネスにおけるMITの研究
2025年8月に、95%の会社の生成AIの操業は、損益において勘定可能な影響を与えることに失敗していることを、MITの研究は明らかにした[7][8]。ChatGPTや操業支援システム(英: pilot)は広く導入されたが、これらは個人の生産能力を向上させるものであって、会社全体の損失‐利益性能に影響を与えるものではない[7]。目的を絞った学習可能システムの導入は、組織の大きなリストラなしに実際の利益を与えることに効果的であることを、例証する事例がある[9]。
関連項目
- エージェント
- 知能
- 認知アーキテクチャ - 知的エージェントの自己認識
- マルチエージェントシステム - 複数の相互作用を及ぼすエージェント群
- 強化学習
- サイバネティックス、計算機科学
- Semantic Web - ウェブページの(近似的)意味を自動化された処理で使用可能にすること
- 同盟検索 - 限られた語彙に基づいて各種データ源を検索するエージェントの能力
- モバイルエージェント
- RPA(ロボティックプロセスオートメーション)
脚注
- ^ rsnz.org Characteristics of an intelligent agent
- ^ a b c Haag, Stephen. "Management Information Systems for the Information Age", 2006. Pages 224-228
- ^ ユーザーエージェントとは異なるので注意されたい。
- ^ Fingar 2018
- ^ Burgin & Dodig-Crnkovic 2009
- ^ Purdy 2024
- ^ a b Challapally et al. 2025, p. 3
- ^ Estrada 2025
- ^ Challapally et al. 2025, p. 4
- Burgin, Mark; Dodig-Crnkovic, Gordana (2009). “A Systematic Approach to Artificial Agents”. arXiv:0902.3513 [cs.AI].
- Fingar, Peter (2018年). “Competing For The Future With Intelligent Agents... And A Confession” (英語). Forbes Sites 2020年6月18日閲覧。
- Purdy, Mark (2024年12月12日). “What Is Agentic AI, and How Will It Change Work?” (英語). Harvard Business Review. ISSN 0017-8012 2025年4月24日閲覧。
- Challapally, Aditya; Chari, Pradyumna; Pease, Chris; Raskar, Ramesh (July 2025). “The GenAI Devide: State Of AI In Business 2025”. MIT.
- Estrada, Sheryl (2025年8月18日). “MIT report: 95% of generative AI pilots at companies are failing” (英語). Fortune. 2025年8月26日閲覧。
外部リンク
知的エージェント
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/08 08:13 UTC 版)
90年代になると「知的エージェント」と呼ばれる新たなパラダイムが広く受け入れられるようになった。初期の研究者らはAIに迫るためにモジュール化された分割統治法を提案していたが、知的エージェントが現代的形態に到達するのはジューディア・パールやアレン・ニューウェルといった研究者がAI研究に決定理論や経済学の概念を持ち込んで以降である。経済学における合理的エージェント(英語版)の定義と計算機科学におけるオブジェクトまたはモジュールの定義が出会い、知的エージェントのパラダイムが完成した。 知的エージェントは環境を知覚し、成功の確率を最大化する行動をとる。この定義によれば、特定の問題を解く単純なプログラムも「知的エージェント」であり、人間も人間の組織、例えば企業も知的エージェントである。「知的エージェント」パラダイムでは、AI研究は「知的エージェント研究」と定義される。これは初期のAIの定義の一部を一般化したもので、単に人間の知能を研究するのではなく、あらゆる知性を研究対象とすることになる。 このパラダイムにより、孤立した問題を研究し、検証可能で実用的な解法を求めることが意味のあることだと言えるようになった。問題を説明し、経済学や制御理論など抽象的エージェントの概念を扱う他の分野も含めて問題の解決策を共有できる共通語を提供している。いつの日か、完全なエージェントアーキテクチャ(例えば、ニューウェルのSOAR)によって、対話型知的エージェントからより多用途で知的なシステムが構築できるようになることが望まれている。
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