発光の化学的プロセス
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 04:25 UTC 版)
生物発光の機構は、一般的にはルシフェラーゼと総称される酵素によって、ルシフェリンと称される一種の色素が酸化されることによる。しかし、ワサビタケの発光機構については特異的な酵素の関与はないとされており、その発光の本態はパナール(Panal)と命名された一種のセスキテルペン(カジネン骨格を有するケトアルデヒドの一種)であるとされる。のちにパナールの前駆体として PS-A(1-O-デカノイルパナール)およびPS-B(1-O-ドデカノイルパナール)も単離されている。 パナールはオレンジ色(吸収極大 210 および 488 nm)の不定形固体で、帯黄色の蛍光(波長 520-530 nm)を発する性質があり、ワサビタケの子実体の構成菌糸(あるいは一次菌糸、もしくは子実体を形成するに至っていない二次菌糸)の細胞壁外面に、微粒状ないしかさぶた状をなした沈着物として存在する。一方、PS-Aおよび PS-Bは無色(吸収極大 215 nm)の油状物質で、メタノールによく溶け、蛍光を発する性質はなく、酸性条件下においてトリメチルアミンおよび陰イオン系(アニオン系)界面活性物質で処理することによってパナールへと変化する。 ワサビタケから単離されたパナールに、2価の鉄イオンと過酸化水素および陽イオン系(カチオン系)界面活性物質の存在の下で、一級アミン類の塩もしくはアンモニウム塩を作用させると、発光が起こる。この事実から、パナール(およびその誘導体)はワサビタケにおけるルシフェリン(すなわち発光基質)であり、その発光プロセスにはルシフェラーゼは関与しないと考えられている。なお、ワサビタケの発光機構においては、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)の活性の大小が、発光の強弱を大きく左右する。SODは、発光機構の中で重要な役割を果たすスーパーオキシドアニオン(O2-)の働きを抑制するためである。
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