生態的意義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/03/13 13:33 UTC 版)
1987年に最初の鯨骨生物群集が発見された際、Smith らはこの群集と熱水噴出孔やメタン冷湧水域に棲む生物との共通性に着目し、これらの分散に寄与しているという仮説を立てた。これが "stepping stone"(飛び石)仮説である。仮説によれば、不定期かつランダムな場所に沈降する鯨骨が、熱水噴出孔などに依存して生きる生物の足がかりとなり、他の海域へ拡散するための拠点として機能するという。 飛び石仮説への反論として、鯨骨と熱水噴出孔に形成されるそれぞれの生物群集に、共通して存在する生物種が少ないことが指摘されている。これまでに熱水噴出孔生物群集で確認された200種余りの生物のうち、クジラ遺骸を含む他の生息環境でも見つかったものは10種程度に過ぎない。逆に、鯨骨生物群集のみに含まれ、他の化学合成生態系では見られない生物も存在する。熱水噴出孔生物群集の分布拡散は、クジラ遺骸の沈降という偶然の事象ではなく、「海洋底拡大説」に関係した現象である可能性も示唆している。 飛び石仮説を否定する別の論拠として、化石の研究に基づく年代的問題がある。始新世後期(およそ3900万年前)より以前には、太平洋におけるクジラの存在は示されていない。しかし、冷水および熱水噴出孔生物群集は、少なくとも始新世中期には太平洋北東部で形成されていたとみられている。多様な生物群集を維持するために充分な大きさのクジラが太平洋に出現するのは、中新世後期(およそ1100万年前)以降である。これらの反論に加え、実際に飛び石として機能しているかどうか検証されていないことなどから、飛び石仮説は未だ仮説の域を出ていない。 近年、逆に鯨骨生物群が熱水噴出孔の生物群の起源になったのではないかとの説も出ている。それによると、たとえばイガイ類にはどちらにも化学合成細菌を細胞内共生させているものがあるが、熱水噴出孔のものの方が共生関係の発達が高度であるという。また、クジラ死体の場合、通常の生物が餌とすることが可能な部分が大きい。そこで、この死体を食い尽くす生物群集の発達する過程で、最後に残る骨とそれから出る硫化水素などを元にする生物群集が出現し、これがより硫化水素の多く出る場として熱水噴出孔で発達したのではないかとしている。しかし、これは上記の出現年代の点で問題がある。
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