理論の破綻
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/27 14:23 UTC 版)
ベルセリウスからエテリン説を否定されたデュマは自説の擁護のため、自身で研究していたハロゲン置換反応を応用することにした。デュマはエタノールがエテリンと水の複合体であるなら、それぞれの水素の反応性が異なるはずであるからどちらかの水素が先に置換されるはずであると考えた。デュマがエタノールを塩素と反応させたところ、得られてきたのはクロラールであった(1834年)。この結果をデュマは、エタノール内の水の水素が塩素と反応して塩化水素として脱離し、エテリンの酸化物(デュマの説によれば酢酸エチル)が生成した後、エテリンの水素3つが塩素に置換された物質となったと解釈した。この考え自身は酢酸エチルを塩素で処理してもクロラールが生成しないことから否定された。しかし実験結果が示唆した、陽性であるはず炭素と水素の複合体に強い陰性元素である塩素が取り込まれるというのはベルセリウスには受け入れがたいものであった。 また、デュマの弟子オーギュスト・ローランはナフタレンのハロゲン置換について研究を行なっていた。ベルセリウス自身が原子量の決定に用いていた同形律から、これらのハロゲン置換体がナフタレンとほとんど同じ構造を持つことを推定した。ローランは1836年に分子の骨格部分(核)にある水素がハロゲンに置換されても物質の性質に影響をほとんど及ぼさないとする核の説を発表した。 さらにデュマは1839年に酢酸を塩素化してトリクロロ酢酸を得た。酢酸とトリクロロ酢酸は同じようにカルボン酸としての性質を示したため、デュマもエテリン説とその母体となった電気化学的二元論を放棄した。そしてデュマは一元論に基づく型の説を提唱した。また1843年にはデュマの弟子がトリクロロ酢酸を還元して酢酸に戻すことに成功した。これらの結果を受けてベルセリウスも自説を修正せざるを得なくなった。 ベルセリウスの修正は根を化合物の性質への影響の異なる接合子に分割するというものであった。例えば酢酸であればCH3·1/2C2O3·1/2H2Oという形である。C2O3はシュウ酸に相当しカルボン酸の酸性の性質を示す部分で、一方CH3はハロゲンで置換されても化合物の性質には大きな影響を及ぼさないとした。このようにして陽性と陰性という単純な二元論の構造は崩壊し、また根の不変性についても放棄された。 1848年にベルセリウスが死去するとベルセリウスの説はヘルマン・コルベに引き継がれた。しかし根の性質に電気的な極性が考慮されることはもはやなくなった。
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