現実の世界とマクスウェルの悪魔
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/28 22:35 UTC 版)
「マクスウェルの悪魔」の記事における「現実の世界とマクスウェルの悪魔」の解説
シラードのエンジンの議論は、我々がその状態をわかっているメモリは、我々にとって 1 ビットあたり kT ln 2 のエネルギーを持つと考えることができることを意味する。 例えば、 3.83×1020 ビット、 0 ℃ のメモリは、その利用者がメモリすべての状態を知っている限りおよそ 1 J のエネルギーを生み出す「燃料」と見ることができる。 逆にその状態を知らず、利用者にとって乱雑な状態であるメモリからはエネルギーを取り出すことができない。 これは我々が対象の状態を知っていることが秩序としてエントロピーを下げ、知らないことがエントロピーの大きな乱雑さを表すという日常的なエントロピーの解釈を情報の概念を通じて熱力学的なエントロピーに実際に結び付けている。 上述のように、ランダウアーの原理は記憶の消去のような非可逆な計算に原理的なエントロピーの増加が伴うことを示した。 一方、情報を失わないような可逆な計算ならば、このような散逸は必要ない。 こうした可逆計算はフレドキンやトフォリによって調べられてきた。 量子計算においては、結果を得るための観測過程以外のすべての計算過程はこのような可逆なものでなければならない。 記憶を消去するときにエントロピーが増大するということは、記憶を行なうこと(状態の間に相関をもつこと)のできる存在ならば、記憶の消去というツケを支払うまでの間は、短期間なら実際にマクスウェルの悪魔を働かせることができる可能性を示唆している。 細胞内などの生命システムではこのような仕組みが有効に利用されていることが考えられる。 熱力学的に効率がよいとは必ずしもいえないが、ブラウン・ラチェットなどと呼ばれる分子の熱運動から一方向の動作を取り出すモデルがイオンポンプや分子モーターに関して提出されており、これらはこのマクスウェルの悪魔に類似している。 また分子機械として同様の構造を作ろうという試みも行なわれている。 2010年、鳥谷部祥一、沙川貴大らは、世界で初めて情報によって熱エネルギーが仕事に変換されることを確認したと発表した。
※この「現実の世界とマクスウェルの悪魔」の解説は、「マクスウェルの悪魔」の解説の一部です。
「現実の世界とマクスウェルの悪魔」を含む「マクスウェルの悪魔」の記事については、「マクスウェルの悪魔」の概要を参照ください。
- 現実の世界とマクスウェルの悪魔のページへのリンク