ぼけん‐せい【母権制】
母権制
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/26 10:18 UTC 版)
対して母権制は母系制を尊重し、妻方を主体とする共同体内で婚姻生活を営み(妻方居住婚)、さらには一族の家長(家母長制)、首長的地位を女性が優先して有する社会制度を指す。 スイスのJ・J・バッハオーフェンが『母権制論』(1861年)で説いた概念である。論によれば、父権による家長制が確立する前の段階にあたり、文化的には狩猟による生活が安定した時期では生活の余裕から舞踊や性快楽に耽って乱婚し、夫婦関係が正確ではなくなって一族の出自が母親でしか辿れなくなった社会基盤を原因としたためとした。 これを原始共産制とよび、この説はエンゲルスにも支持されマルクス主義の教義にもなったが、20世紀に入ると説中の例示に脆弱さがあったこと、科学的立場からの反論、母系制との混同と誤謬を徹底的に指摘され、人類発展史の一段階としての母権制を想定する説は否定され、現在の文化人類学者で支持する者はほとんどいない。 戦前の民族史家高群逸枝もその著作は旧憲法下および男系優位社会下において同様の批判を浴びたが、後に母権制とは趣旨を異にしているとする理解が進み、歴史研究の1つの成果として評価を得るに至っている。 エマニュエル・トッドは父系制的な社会の人間は双系的な社会を女権支配的な社会だと思い込むものであり、バッハオーフェンは父系制であった古代ギリシャ人の仕掛けた罠に見事に嵌ってしまったのだと指摘しつつ、古いシステムにおける方が女性の地位は高かったとする考えは正しいとした。
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