格子対称性に基づく導出
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/17 21:33 UTC 版)
「結晶運動量」の記事における「格子対称性に基づく導出」の解説
結晶構造やその性質をモデル化するには、固定された無限に続くポテンシャル V(x) 中を運動する量子力学的粒子として電子を取り扱うのが一般的である。ただしポテンシャルは周期性を持ち、任意の格子ベクトル a に対して V ( x + a ) = V ( x ) {\displaystyle V({\boldsymbol {x}}+{\boldsymbol {a}})=V({\boldsymbol {x}})} を満たす。このようなモデルを適用できるのは次の二つの理由による。実際に格子構造を構成している結晶イオンは電子の数万倍の質量を持つため、不動のポテンシャル分布で置き換えても問題はない。また巨視的な結晶の寸法は格子間隔よりはるかに大きいことがほとんどなので、端の効果を無視して無限の分布を想定しても構わない。ポテンシャル関数がこのような特徴を持つため、電子の初期位置を任意の格子ベクトル a だけ動かしても問題の様相は不変である。すなわち離散的対称性が定義される。 以上の条件はブロッホの定理を包含する。この定理は数式では ψ n ( x ) = e i k ⋅ x u n k ( x ) , u n k ( x + a ) = u n k ( x ) {\displaystyle \psi _{n}({\boldsymbol {x}})=e^{i{{\boldsymbol {k}}{\boldsymbol {\cdot x}}}}u_{n{\boldsymbol {k}}}({\boldsymbol {x}}),~u_{n{\boldsymbol {k}}}({\boldsymbol {x}}+{\boldsymbol {a}})=u_{n{\boldsymbol {k}}}({\boldsymbol {x}})} と表される。言葉で表現すると、格子中の電子が一体波動関数 ψ(x) でモデル化されるなら、その定常状態の解は平面波 eik·x と周期関数 u(x) の積で与えられる。 ブロッホの定理が述べている、定常状態が波数ベクトル k によって特定されるという事実は重要である。これはつまり量子数 k が運動の恒量となることを意味する。通例、この波数ベクトルにディラック定数をかけたものを結晶運動量と定義する。 p crystal = ℏ k {\displaystyle {\boldsymbol {p}}_{\text{crystal}}=\hbar {\boldsymbol {k}}} これは通常の運動量の定義と事実上等しいが、理論的には重要な差異が存在する。例えば、通常の運動量が完全に保存されるのに対して、結晶運動量は逆格子ベクトルに満たない分しか保存されない。つまり、電子は一つの波数ベクトル k によって記述されるだけでなく、 k ′ = k + K {\displaystyle {\boldsymbol {k}}^{\prime }={\boldsymbol {k}}+{\boldsymbol {K}}} であるようないかなる波数ベクトル k′ によっても記述される。ここで K は任意の逆格子ベクトルである。
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