敦盛の登場
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/12/13 15:06 UTC 版)
蓮生が敦盛の菩提を弔って念仏を唱えていると、敦盛(後シテ)が現れる。後シテは、敦盛(または童子、十六、中将)の面、梨子打烏帽子、長絹(または単法被)、白大口、太刀、扇の姿である。 蓮生の回向によって敦盛の罪が消え、そのことが蓮生自身の得脱(解脱を得ること)の縁ともなることから、2人は「法の友」となったことを喜び合う。 シテ〽淡路潟、通ふ千鳥の声聞けば、ねざめも須磨の、関守は誰(た)そシテ〽いかに蓮生、敦盛こそ参りて候へワキ〽不思議やな鳧鐘(ふしょう)を鳴らし法事をなして、まどろむ隙もなきところに、敦盛の来たりたまふぞや、さては夢にてあるやらんシテ「何しに夢にてあるべきぞ、現(うつつ)の因果を晴さんために、これまで現はれ来たりたりワキ〽うたてやな、一念(いちねん)弥陀仏(みだぶつ)即滅(そくめつ)無量(むりょう)の、罪障を晴さん称名の、法事を絶えせず弔ふ功力(くりき)に、何の因果は荒磯海(ありそうみ)のシテ〽深き罪をも弔(と)ひ浮かめワキ〽身は成仏の得脱(とくだつ)の縁シテ〽これまた他生の功力なればワキ〽日頃は敵シテ〽いまはまたワキ〽まことに法(のり)のシテ〽友なりけり地謡〽これかや、悪人の友を振り捨てて、善人の敵(かたき)を招けとは、おん身のことかありがたや、ありがたしありがたし、とても懺悔(さんげ)の物語、夜すがらいざや申さん、夜すがらいざや申さん [敦盛]淡路潟を行き交う千鳥の声が聞こえるので眠れずにいるという須磨の関守とは、誰であろうか。[敦盛]蓮生殿、敦盛が参りました。[蓮生]不思議なことだ、鐘を鳴らし法事を行い、まどろむ間もないところに、敦盛が来られたのか。さては夢であろうか。[敦盛]どうして夢でありましょうか。生前の因果による今の苦しみを晴らすために、ここまで現れてきたのです。[蓮生]愚かなこと、弥陀仏の名を一度念ずれば、無量の罪障も直ちに消えるといいます。その称名の法事を絶やさずにあなたのことを弔っているのですから、その功徳により、何の因果の苦しみが残っているでしょう。[敦盛]深い罪をも弔ってくださる[蓮生]それが私自身の成仏のきっかけにもなり[敦盛]それがまた私の来世の功徳となる。[蓮生]これまでは敵だったが[敦盛]今は[蓮生]本当に仏道の[敦盛]友であることよ。――このことか、「悪人の友を振り捨てて、善人の敵を招け」と言われているのは、あなたのことだったのか。ありがたいことだ。とはいえ、結局は懺悔をしなければならない身。それでは夜通し懺悔の物語をすることにしよう。
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