【損傷許容設計】(そんしょうきょようせっけい)
damage tolerance design
機械の構造材に小さな傷があった場合でも、それが成長して破壊に至ることを防ぐ設計思想、または手法のこと。
航空機や原子炉など、高い信頼性を要求される機械の設計に用いられる。
初期のジェット旅客機などでは一部の機体で極端に部品寿命の短いものが見られ、重大事故に進展することもあった。
調査の結果、部品についたごく小さな傷が、機体の振動や与圧などのストレスによって段々と成長し、ついには破断してしまうことが判明した。
対策として重要部品の点検や交換が頻繁に行なわれたが、莫大なコストを必要としたうえ、傷はラジオアイソトープなど最新の検査手法でも見逃されることがあった。
点検・整備の頻度を下げるため、構造材を多重化して冗長性を高める設計もなされたが、これは機体重量の増加につながるうえ、日本航空123便墜落事故などのように構造材が連鎖的に破壊してしまう場合もあり、これだけでは十分な対策とはいえなかった。
そこで生み出されたのが、傷の成長そのものをなるべく抑えるという損傷許容設計の手法である。
具体的な手法としては、
- エンジンの振動やフラッター・バフェットなどを吸収、あるいは抑制し、傷の成長を防ぐこと
- 構造材をうまく小分けにすることで、破断の連鎖を防ぎつつ、重量増加を最小限に抑えること
- 破損しても被害の出づらい部分をあえて壊れやすくし、傷が重要部分の方向へ成長するのを防ぐこと
等が挙げられる。
これらの手法により、点検回数の低減や部品の長寿命化によるランニングコストの抑制、機体重量の抑制による低燃費化、信頼性の向上による事故の防止といった、多数のメリットが見込まれる。
損傷許容設計
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2015/11/24 14:02 UTC 版)
損傷許容設計(そんしょうきょようせっけい、英: damage tolerance design)は、破壊力学に基づいた構造設計手法の一つで、繰り返し荷重がかかる構造物の運用中に検出できない初期欠陥からき裂が発生・進展することを前提として寿命を評価する手法である。近年では破壊現象の積極的な制御を行う手法も取り入れた破壊制御設計に発展している。主に航空機の設計に適用されているが、原子力プラントなどにも応用されている。
沿革
1960年代までの安全寿命設計では、実機構造物にたいする疲労試験で目標寿命に十分な裕度があることを確認していたが、検出できない初期欠陥の存在により、少数の実機は目標寿命を満たしていなかった。これが表面化したのが、1954年のコメット連続墜落事故である。この対策として、安全性を多重に保障するフェイルセーフ設計が導入され、安全寿命設計とともに用いられた。1969年に起きたアメリカ空軍の爆撃機F-111の主翼離脱事故により、安全寿命設計の限界が分かり、フェイルセーフ設計を発展させた損傷許容設計が主流になった。1985年の日本航空123便墜落事故では従来の損傷許容設計の考え方でも不十分であることが分かり、損傷許容設計は破壊現象の積極的な制御を目指す破壊制御設計に発展した。
参考文献
小林英男 「7章 破壊制御設計」『破壊力学』 共立出版、1993年4月、初版。ISBN 4-320-08100-5。
外部リンク
- 畑村創造工学研究所 失敗知識データベース > 失敗事例
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