尊属加重規定の削除
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/22 00:11 UTC 版)
尊属殺重罰規定違憲判決の事案は、実父からの長年の性的虐待に堪えかねて殺害に及んだ事案であり、被告人に特に酌量すべき事情があったが、尊属殺人罪を規定した刑法第200条を適用するならば、最大に減刑(刑法第39条2項の心身耗弱を理由とする必要的減軽により68条第2号を適用した後、67条によりこれに加えて66条に従い情状を考慮して任意的減軽により68条第3号を適用)しても懲役3年6月となり、執行猶予を付すことができない(刑法第25条)。 この点を問題として、最高裁判所は尊属殺の重罰規定を違憲判決としたのである。この判決の多数意見(15人中8人)は、尊属殺人罪の規定を置くことは合憲であるが、執行猶予が付けられないほどの重罰規定は、法の下の平等(日本国憲法第14条1項)に違反すると判断した。少数意見(6人)は、尊属加重罪そのものを違憲とした。 最高裁判決の主旨に従うならば、尊属殺人罪の条文を丸ごと削除しなくても法定刑の下限を下げれば憲法違反の状態は解消するともいえる。しかし、最高裁判決後の日本国政府の判断は、多数意見と少数意見の対立を考慮し、尊属殺人罪の条文を削除または改正するよりも、法定刑の範囲が尊属殺人罪に比べて格段に広い通常の殺人罪の中で裁量的に判断する道を取り、以後は尊属殺を犯した被疑者に対しても、通常の殺人罪を適用して裁くことにした。尊属殺人罪の条文は、以後22年間にわたって適用されることの無いまま、刑法の条文に死文化して残った。 この間、尊属殺人罪と同様に尊属加重を定めた尊属傷害致死罪などに対しても違憲を訴える裁判が起こされたが、最高裁は「違憲とするほどの重罰規定ではない」として合憲判決を出している。 しかし、村山富市政権下の1995年(平成7年)に国会で刑法が改正され(平成7年法律第91号)、条文が文語体から口語体に変更されると同時に、尊属殺人罪だけではなく尊属傷害致死罪・尊属遺棄罪・尊属逮捕監禁罪も含めた、すべての尊属加重規定が削除された。
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