太陰運動論
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月の満ち欠け(月相)は太陰暦および太陰太陽暦の基礎であり、月の運動は古くから記録されてきた。月の軌道は等速円運動ではなく、そこからのずれ(不等, 英: inequality)が存在する。月の軌道が楕円軌道であることによる不等が中心差(英語版) (英: equation of the center) であるが、これ以外に例えば太陽の摂動によって次のような不等が存在する。 出差(英語版) (英: evection): 遠地点または近地点が太陽の向きにあるとき、相対的に強い摂動を受ける効果。 二均差(英語版) (英: variation): 1朔望月の間に太陽の摂動によって地球の重力が実効的に変化する効果。 年差 (英: annual equation): 地球の離心率のために一年の間に太陽の摂動の強さが変化する効果。 これらの不等を説明し、精度よく月の運動を予測することは太陰運動論(英語版)または月運動論 (英: lunar theory) として古くから調べられてきた。これには純粋な天文学上の興味に加えて、航海術(経度の測定)への応用という実用的な目的があった。月の理論は最も一般には他の惑星の摂動や地球や月が球形でないことの効果を考慮する必要があるが、アーネスト・ウィリアム・ブラウンは太陽、地球、月の三体を質点として扱う場合論を太陰運動論の main problem と呼んだ。月の運動は惑星の運動に比べて顕著に大きな摂動を受けており、主な摂動の原因である太陽と月の距離がほとんど変化しないものの太陽が地球と月に及ぼす引力の差異によって主要な摂動が生じるという点で惑星の問題とは大きく異なっている。19世紀末から20世紀初頭にかけて完成したヒル-ブラウンの理論は最も精緻な月の運動論であると評価されている。 またエドモンド・ハレーによって指摘された、古代から続く月食の記録を比較すると月の平均運動が徐々に増大しているように見えるという永年加速の問題がある。ラプラス、アダムズを含む数世代にわたる長い論争を経て、潮汐摩擦によって地球の自転が減速し時刻の定義自体が変化している効果を考慮することによって永年加速の問題は解決された。 「潮汐加速」も参照
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太陰運動論
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シャルル=ウジェーヌ・ドロネー (1816-1872) は1860年および1867年に二巻からなる La Théorie du mouvement de la lune を出版し、月の運動について論じた。その中でドロネーは Jacques Binet (1786-1856) が1841年に導入した変数をもとにドロネー変数として知られる正準変数を定義している。ただしドロネーの理論は級数の収束が遅く十分な精度を得るためには多大な計算を要するという難点があった。 ジョージ・ウィリアム・ヒル (1838-1914) は1870年代からドロネーの理論を発展させた。彼は月の軌道を楕円軌道ではなく三体問題の近似解である卵形の軌道として扱い、またそれまで天体力学ではあまり普及していなかった複素指数関数 e ± − 1 θ = cos θ ± − 1 sin θ {\displaystyle e^{\pm {\sqrt {-1}}\theta }=\cos \theta \pm {\sqrt {-1}}\sin \theta } を全面的に採用した。アーネスト・ウィリアム・ブラウン (1866-1938) は1896年に An Introductory Treatise on the Lunar Theory を出版した後も月の理論についての研究を続け、1919年に月の天文表を完成させた。
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