多チャネル測定システム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/07 16:45 UTC 版)
「膜電位感受性色素」の記事における「多チャネル測定システム」の解説
以上のような背景と実験的基盤のもとにニューロン活動の光学的測定へ向かってのルートがひらかれてきたが、この方法のメリットとしては、 (1) 微小電極も刺入できないほど微小な細胞とか細胞内器官からの電位活動の測定と、 (2) 多数個の細胞とか多数個所の部位から電位活動を同時記録することができる、 ことの2点をあげることができる。L. B. Cohenは1973年にPhysiological Reviews誌に発表した総説のなかで “------, it seems reasonable to imagine an array of 100 photodetectors that would allow simultaneous potential recordings from 100 individual cells.” と述べ、光学的多チャネル測定の可能性を示唆している。ところで、イカ巨大神経線維での実験で、膜電位の光学的測定のための基礎が確立されたあと、いよいよ神経線維以外での神経組織のニューロン活動を光学的に測定する段取りになった。そのための装置は光学顕微鏡を用いて組み立てられた。膜電位感受性色素で染色した神経組織を載物台に置き、対物鏡を通して実像面 (image plane) に作られた組織の拡大像からphotodiodeを用いて光学的シグナルをdetectするやり方である。これは、現在の顕微測光法のはしりとなったものである。この方法で、まず、ヒルの神経節のN細胞および巨大フジツボの上食道神経節 (supraesophageal ganglion) の単一ニューロンの活動電位がmerocyanine-rhodanine (Dye ⅩⅦ) およびmerocyanine-oxazolone (NK2367) の吸光シグナルとして記録された (Salzberg, et al, 1973 ; Grinvald, et al, 1977)。続いて、複数個のニューロン活動を同時記録する方法が考案された。・最初用いられたのはライトガイド方式である。これはライトガイドとして光学繊維を用い、その一端にphotodiodeを取り付けたもので、これを何本か作り、それらの他端を実像面上の複数個のニューロンの像に合わせて並べ、おのおののニューロンから活動電位を吸光シグナルとして同時記録する方法である。この方法によって、Cohenのグループ (Salzberg, et al, 1977) によって、巨大フジツボの神経節内の11~14個のニューロンから活動電位が同時記録された。これが多チャネル同時測定として最初の記録である。神野らは、16チャネル同時測定システムを組み立てた(Fujii, et al,1981 ; Kamino, et al, 1981 ; Hirota, et al, 1981 ; 神野, 1982)。このライトガイド方式では、ディスプレイは多チャネル型オシロスコープあるいは多チャネル型ペンレコーダーだけで充分であり、ライトガイドの口径は自由に選ぶことができるうえ、ライトガイドをいろいろな位置にいろいろな間隔をおいて電位活動を同時記録できるので、使いようによっては、現在でも中枢神経系その他の研究でかなり有効な方法である。・続いて、同じくCohenの研究室でなるべく多くのニューロンあるいは部位から電位活動を同時記録するための装置を作る計画が立てられた。この時、問題となったのは imaging deviceとdisplayの方法であった。その時、imaging device としては、(1)TV tube (vidicon, vacuum tube), (2)solid state TV camera, (3)array of individual detectorsが、recording deviceとしては、(1)computer, (2)multichannel recorder, (3)multi-channel tape recorderが検討された。そして、photodiode array方式が採用され、144個のphotodiodeをmatrix型に並べた12×12-素子・photodiode arrayとコンピューターを組み入れた測定システムがCohenの研究室で作り上げられた(Grinvald, et al, 1981a)。これに続いて、Salzberg (Salzberg, et al, 1983), Ross (Krauthamer and Ross, 1984) Grinvald (Grinvald, et al, 1982b), Salama (Salama, et al, 1987) および神野ら (Hirota, et al, 1985) の各研究室で同じような測定システムが組み立てられた。現在、用いられている測定システムの構成は、どの研究室のものでも基本的には同じであり、光学系、検出系、増幅系、マルチプレクサー(あるいはレコーディングシステム)、コンピュータで構成されている。測定システムと測定方法については、Cohen and Lesher (1986) により詳しく解説されている。
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