南方振動の発見
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/17 16:07 UTC 版)
「ギルバート・ウォーカー」の記事における「南方振動の発見」の解説
ウォーカーは世界の異なる場所で気圧間の相関関係の表を作成した。彼の調査によって、それまで知られていた北大西洋でのアゾレス諸島とアイスランド間の気圧の振動と北太平洋での同様の振動は、両方とも予想通りに相関関係として極めて明確に現れた。そしてロッキャーが発見していたインド洋付近とアルゼンチン間の気圧の変動は、それよりはるかに大きな世界規模の気圧変動として起こっていることがわかった。ウォーカーは、最初の北大西洋の現象を北大西洋振動(North Atlantic Oscillation)、2番目の北太平洋の現象を北太平洋振動(North Pacific Oscillation)と名付けた。そして最後の世界規模の現象を南方振動(Southern Oscillation)と命名した。最初の2つはその地域だけに影響する現象であったが、南方振動の特徴は、気圧振動の規模が大きく広がっているだけでなく、インド、ジャワ、オーストラリアの気温や降雨などの気象にもその影響が現れていた。 モンスーン予報のための解析だったが、結果はモンスーンの最盛期である6月~8月に起こる南方振動自体の発生を、他の気象要素との相関関係から予測することは難しいと示していた。気候学者のノーマンドはこう述べている。「私にとってウォーカーの結果で最も注目に値するものは、南方振動がその後の現象に作用しているという事実だった。全体として6月~8月の夏の南方振動のインデックスは、前年の冬とは-0.2の相関係数だったのに対して、次の冬のインデックスに対して+0.8の相関係数を持っていた。」。南方振動の特徴は、世界の気象変動の結果としてではなく原因として現れており、予報される現象というよりはむしろインド以外の地域の現象の予報する手段として有効であることを示していた。 これは世界の気象変動に課する大きな発見だったが、当時の気象学コミュニティでの一般的な反応は極めて懐疑的なものであった。それはこの振動が起きる原因がよくわからなかったためだった。物理学的な観点から見ると、モンスーン予報のための唯一の科学的な手法は、地球規模循環の完全で合理的な因果理論の理解と考えられていた。ウォーカーは統計的な手法の限界に十分気づいていた。物理学的な因果関係の重要性を否定していたわけではなく、因果関係はこれから徐々に発見されていくだろうと考えていた。そして、気象要素間の統計学的に有意な関係を多く発見するほどモンスーン予報などの問題に対して多くの知見が得られ、それは因果理論の根拠となる発見につながると考えていた。ただ、これに対するウォーカーの主張とは、日々の生活を支えるモンスーン予報において、因果関係を解明した上で完全に確信を持って発表できるようになるまで、待てるものではないとした。
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