化石種の問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/17 07:30 UTC 版)
古生物学者は化石から種を特定しなければならない。そこで「化石種とは何か?」という問題が、エルドリッジとグールドを断続平衡説の提唱へ導いた。現在一般的に用いられている種概念はマイアの生殖隔離された「生物学的種」である。断続平衡説も種の概念に生物学的種を用いているが、化石種における種は「形態的種」である。古生物学者は生物学的種の推測を可能とするDNAなどの情報を利用することができず、また化石生成時のアクシデントが形態学的分類を困難にする。アヤラは「まず形態で種を定義し、そのあと種ができるときに形態も大きく変化すると言えば循環論法の過ちを犯すことになる」と指摘する。河田は形態学的に分類された種に現代の生物学的種概念を当てはめることの限界を指摘したうえで、「化石記録が常に断続的というわけではない」とのべている。また、後にグールドが説明に苦心しているが、どのような形態的差異が断続でどのような差異が連続的かの判断は恣意的なものである。断続平衡的な現象が見られることに古生物学者のあいだでは議論はない。現在でも議論となっているのは、断続平衡が一般的なのかまれなのかである。 シーラカンスなどの生きた化石はこの理論を説明する良い例ではあるが、グールドらはそれを重要な証拠とは見なしていない。古代のシーラカンスと現生のシーラカンスは明確に区別ができる程度に異なっているうえ、形態上同目に分類されてはいるが実際の類縁関係は明らかではない。グールドらが挙げた証拠に、翼の進化や四肢の数の変化のようなボディプランの大幅な変化は含まれていない。彼らが証拠として挙げたのは三葉虫の体節数の変化、肺魚の頭骨の変化、カキの貝の平坦さの変化などである。 長期間、形態が変化しないとする形態の安定(stasis)は重要な進化の現象である。しかし、それは、種が変化しないというよりも、特定の形態が長期間変化しない事を表している。実際、形態がほとんど同じでも、生殖的に隔離された別種はひろく見つかっている。1990年代に、ガラパゴス諸島において、ピーター&ローズマリー・グラント夫妻によるダーウィンフィンチ類の研究によって、人間が観測可能な速度での形態の急激な進化が生じることが明確に示された。また、嘴の形態の漸進的な変化にともない漸進的にさえずりが異なるように進化し、生殖隔離に結果的に貢献したことが指摘されているが、嘴の断続的な急激な変化にともない生殖隔離が同時に進化したわけではない。グールドやエルドリッジは、生物の階層説を主張し、進化には、遺伝子や個体レベルだけでなく、種レベルでも働く進化メカニズムがあることの重要性を主張した。そのために、種の生成と形態の断続的な進化を結びつけたが、現在の多くの種分化の研究は、急激な形態変化と種分化が一致しないことを示している。
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