化学的機構
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/15 07:46 UTC 版)
酵素の速度論を研究する重要な目的の1つが、酵素反応の機構を化学的に説明することである。基質が生成物に至る化学反応の各段階を明らかにするのである。上に述べたような速度論的手法によって、反応中間体がどんな速度で生成し、相互変換するかを明らかにできるが、各中間体が何なのかを確実に決定することはできない。 反応液の条件を変えたり、酵素に変異を加えたり、少し異なる基質を使って速度論的解析を行うと、機構の化学的側面が分かってくることが多い。反応の律速段階や中間体が明らかになるからである。例えば、水素原子との共有結合の切断はよく律速段階となっている。考えられる水素転移のうちどれが律速段階であるかは、水素原子を1つずつ安定同位体 (重水素) に置換することで調べられる。律速段階にかかわる水素原子が置換されると、一次同位体効果によって反応速度が変化する。重水素への結合は通常の水素への結合よりも切れにくいからである。13C/12C や 18O/16O など他の原子についても同じような効果を観測することができるが、水素の場合ほど顕著ではない。 同位体を使えば、基質分子の各部分が生成物分子のどこに対応するかを調べることもできる。例えば、最終産物中の酸素原子の由来を明らかにするのは難しいことが多い。水から来たのかもしれないし、基質から来たかもしれないからだ。これをはっきりさせるには、反応に関与する分子に含まれる酸素原子を、1つ1つ安定同位体 18O で置換して、生成物中の同位体を調べればよい。酵素の化学的機構を調べるには、溶液の pH を変えながら反応速度や同位体効果を調べるのもよい。金属イオンなどの補因子を変えたり、保存されているアミノ酸残基を選択的に変異させたり、基質アナログの存在下で酵素の挙動を調べるのも有用である。
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