依存文法における動詞句
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/17 21:44 UTC 版)
依存文法の場合、非定形動詞から成る動詞句を構成素として認める一方で、定形動詞を主要部とする構成素の存在を否定する。 例(それぞれ、太字部分を比較) 定形動詞から成る動詞句(?)の例: John has finished the work. They do not want to try that. 非定形動詞から成る動詞句の例: John has finished the work. They do not want to try that. They do not want to try that. 句構造文法では、has と do は定形動詞なので、 has finished the work や do not want to try that は定形動詞句で、 John has finished the work. という文は、名詞句(John)+動詞句(has finished the work)という構造だと捉える。また、 has finished the work は finished the work という非定形動詞句を、 do not want to try that は want to try that という非定形動詞句をそれぞれ含んでおり、さらに want to try that は try that という非定形動詞句を含んでいる。このように、1つの節の中に、複数の非定形動詞句が重なって存在することも可能だが、定形動詞句は1つしか存在しない。 一方、依存文法では、ルシアン・テニエールの1959年の著書を皮切りに、そもそも文が主語+動詞句(述部)という2つの部分に分けられるという考え方に疑問を呈している。その代わり、文の主要部は定形動詞であり、主語さえもその従属部だと捉えていることから、定形動詞句という構成素は成り立たないのである。しかし、依存文法でも非定形動詞句は構成素として認められており、それが複数重なることも可能だとされる。 両理論における構文木(ツリー図)は、次のように示される。左側(Constituency structure)が句構造文法、右側(Dependency structure)が依存文法による解析である。「S」は sentence(文)、「N」は noun(名詞))、「V」は verb(動詞)、「D」は determiner(限定詞)の意。 句構造ツリーでは、 has finished the work が1つのVP(動詞句)という、まとまった構成素として示されている。一方、依存構造ツリーでは、 has finished the work というまとまった構成素は存在しない。しかし、両者とも、 finished the work を1つのまとまった構成素として扱っていることがわかる。 依存文法では、「定形動詞句は構成素として成り立たない」という観点の裏づけとして、構成素テストを挙げる。構成素テストとは、特定の語の連なりが構成素(名詞句、動詞句など)であるかどうかを確かめるために、それと同種の構成素だとわかっている語句を代入したり、同種の構成素で可能だとわかっている構文や統語移動(英語版)に適用してみたりする実験である。例えば、話題化、擬似分裂文、および返答文での省略(answer ellipsis)といった構成素テストは「非定形動詞句は構成素として成り立つが、定形動詞句は構成素として成り立たない」ということを示唆している。 例(”*”は非文、すなわち文法的に間違っていることを示す) ...and finished the work, John (certainly) has. - 話題化 *...and has finished the work, John. - 話題化 What John has done is finished the work. - 擬似分裂文 *What John has done is has finished the work. - 擬似分裂文 What has John done? - Finished the work. - 返答文での省略 What has John done? - *Has finished the work. - 返答文での省略 以上、太字部分を比較してみると、非定形動詞句を1つのまとまりとして取り出す試みは成功しているが、定形動詞句を同じように取り出す試みは失敗に終わっている。 しかし、構成素テストとは、それに”合格”すれば構成素として認められ、不合格なら認められないという単純なものではない。構成素テストにはさまざまな種類があり、1つのテストに合格しても他のテストで不合格になったり、その逆になる場合もあるため、できるだけ多種のテストを用いて総合的な判断をすることが望まれる。なお、構成素テストを信頼度に応じてランク付けしている言語学者もいる。en:Constituent (linguistics)#Constituency testsも参照。
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