伊勢貞親教訓
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伊勢貞親教訓(いせさだちかきょうくん)は、室町時代後期に伊勢貞親が嫡男貞宗に対して著した教訓状である。全38条の本文及び執筆意図について記した覚書(末文と和歌1首)により構成されている)。 執筆年代については諸説あるが、貞宗が元服を控えた長禄年間とする説が有力である。伊勢氏が代々武家故実を伝承するとともに足利将軍家の嫡男の養育にあたり、また自身も足利義政の養育に尽した経験から、武家の教育において重要視すべき点を説いて、将来貞宗に期待されるであろう役割に対する自覚を促したものである。『為愚息教訓一札』と命名しているように、貞親が説いている事は伊勢氏の当主として必要であると思われた事を記した家訓であり、流布を目的に書かれたものではないが、武家、特に大名家の後継者教育に重要視されるべき点について体系的に論じられている。貞親が「“大名教育学”の祖」とされる所以である。 貞親は大きく分けて次の4つの点を重要視している。 神仏にたいする崇敬の念を怠らないこと。 政務においてあるいは一族郎党を率いる棟梁として、上下・主従の礼を厳守させること。同時に従者としての礼を守り、忠義に尽くす者に対しては恩賞を与えるなどの配慮を欠かさないこと。 武家として身に付けるべき教養として真っ先に「弓馬」を挙げて、日々怠ることがないことを説き、続いて学問の必要性を説く(ただし、「弓馬」ほどは強調しない)。芸能は(良くも悪くも)人目につかない程度で十分としている。これに対して犬追物は「越度(=度を越した)なき」とし、猿楽は「よきほどに可斗」として深入りを戒めている。 最後に平生の礼儀を守ることの重要性を説く。特に伊勢氏は政所執事・武家故実宗家であり、日常的な部分より礼儀作法を重んじることは一族郎党に対する棟梁の権威を守り、幕府内部においての地位を保つために重要であることとする。特に来客に対して不愉快にさせないことは、政治的な味方を1人でも多く得る(逆に考えれば敵対者を生み出さない)上でも必要であるとしている。 以上の「神仏への崇敬」「公私における主従関係の徹底」「武芸を重視した教養の習得」「日常からの礼儀作法の厳守」という4点は、伊勢氏に限らず武家一般の基本的なあり方について論じている部分が多く、鎌倉幕府の北条重時による『北条重時家訓』と並んで後世に影響を与えた。
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