他船からの氷山警告
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/06 09:56 UTC 版)
「ジャック・フィリップス (通信士)」の記事における「他船からの氷山警告」の解説
フィリップスの職場であるタイタニック号の無線室はボートデッキの航海士用船室の背後にあった。アシスタントとして下級無線通信士ハロルド・ブライド(英語版)がおり、彼もマルコーニ社の社員だった。2人は12時間交代で任務にあたった。乗客の家族や友人への通信文の仕事が多かったため、未処理の仕事は常時山積みであり、それに時間と気をとられて安全な航海のための通信が妨げられることもあった。当時は船長宛の通信以外は処理手順が定められていなかった事情もあった。 1912年4月14日の他船からの氷山警告もタイタニック内ではぞんざいに扱われていた。同日午前9時頃、キュナードの定期船カロニア号から「北緯42度、西経49度から51度に氷山、小氷山、氷原あり」との警告電文を受けとったフィリップスは、ブライドを使ってブリッジに運ばせ、四等航海士ジョセフ・ボックスホール(英語版)が海図上にその位置を記入して通信文を上級航海士室へ送っている。ついで正午20分前にオランダの定期船ノールダム号(英語版)から同じ内容の電文が入った。さらに午後1時42分にはバルティック号からも同様の電文があり、この電文はスミス船長に直接届けられたが、それを社長のイズメイに見せたところ、イズメイはポケットに突っ込んでしまった。バルティック号の電文から数分後、ドイツのアメリカ号から「北緯41.27度、西経50.8度の海域で二つの大きな氷山の横を通り過ぎた」旨の電文があった(アメリカの水路局宛ての物だったが、アメリカ号の通信状態は良くなかったのでタイタニック号に水路局へ転送してくれるよう依頼したもの)。フィリップスはタイタニック号用にコピーを取ってから転送している。しかしこれらの通信文からの情報は無線室とブリッジの間で忘れ去られてしまい、事前に氷山の警告を受けていながら氷山を回避できないという事態に至ることになる。 午後3時頃、タイタニックの無線機が壊れ、フィリップスはその修理に4時間を費やすことになった。午後7時頃に無線が復旧し、午後7時30分にはレイランド・ライン社(英語版)のカリフォルニアン号(英語版)から氷山の位置を北緯42.3度、西経49.9度と知らせる警告電文があった。その時タイタニック号は氷山まで90キロのところに迫っていた。 4月14日のフィリップスの仕事は非常にハードだったので、午後10時頃に相方のブライドは予定より2時間早い0時になったら仕事を代わると申し出てくれた。それでもまだ勤務が1時間以上残っていたのでフィリップスは通信文をニューファンドランド島のレース岬の中継所に送信し続けた。午後11時頃、カリフォルニアン号から「氷に囲まれて停船した」という通信を受けたが、近くにいたカリフォルニアン号からのメッセージ音は大きく、フィリップスの耳がつぶれそうになった。怒ったフィリップスは「黙れ、黙れ!俺はレース岬との交信中で忙しいんだ!」という信号を返した。カリフォルニアン号の通信士はこれに気分を害したのか、それ以降何も送らなくなった。フィリップスは気を取り直して友人でもあるレース岬通信士ウィリアム・グレイに通信を中断した非礼を詫びる通信を送ってレース岬との通信を再開した。
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