五部作「日本」
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/23 07:20 UTC 版)
海音寺には「日本」と題する一連の作品群がある。これは江戸幕府末期から昭和の敗戦に至る時代を背景に、海音寺自身の故郷でもある薩摩を舞台の中心として、そこに暮らした庶民の生活を通して日本の近代史を描いていく意欲作である。この「日本」に含まれる作品は執筆された順に 「二本の銀杏」(1959年より『東京新聞』夕刊に連載。1961年、新潮社より刊行) 「火の山」(1961年より『東京新聞』夕刊に連載。1963年、新潮社より刊行) 「風に鳴る樹」(1963年より『東京新聞』に連載。1984年、六興出版より刊行) であり、中でも「二本の銀杏」は、海音寺文学を代表する傑作とされている。海音寺の故郷鹿児島県大口市には、この作品に登場する大銀杏のモデルとなった木が実在している。 「日本」は当初3部作として計画されていたが、作品の執筆が進むについて3部では収まりきらないことが確実になり、あらためて5部作として構想し直された。海音寺は1969年の引退宣言後、残り2作品の完成を重点活動の一つと位置づけていたが、結果的には執筆できないままこの世を去った。そのため、この「日本」は3部作として扱われる場合もある。 海音寺の死後に残された遺稿の中から、「一本の樫」と名付けられた未完の草稿が発見されている。これは太平洋戦争前後の時期を舞台とした作品で、5部作の最後の部分にあたるものとされる。晩年の海音寺は、西郷隆盛伝を中心とする史伝の執筆を中心に精力を注いだため、純粋な小説はほとんど執筆されておらず、もし残り2作が完成していれば貴重な作品となっていた。
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