メダカの地理的変異と保護活動の問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/14 00:24 UTC 版)
「メダカ」の記事における「メダカの地理的変異と保護活動の問題」の解説
しかし、絶滅危惧種であるメダカを守ろうとする保護活動が、メダカの遺伝的多様性を減少させる遺伝子汚染という新たな問題を起こしている。 メダカの生息水域ごとの遺伝的な違いは詳しく研究されており、アロザイム分析により遺伝的に近いグループごとにまとめると、北日本集団と南日本集団に大別される。2007年8月のレッドリスト見直しの際は、メダカの絶滅危惧II類(VU)の指定が「メダカ北日本集団(Oryzias latipes subsp.)」と「メダカ南日本集団(Oryzias latipes latipes)」の2つに、2013年2月の第4次レッドリストでは、「メダカ北日本集団(Oryzias sakaizumii )」と「メダカ南日本集団(Oryzias latipes)」の2つに分けて記載された。北日本集団と南日本集団は遺伝的には別種といってよいほど分化がみられるが、飼育下での生殖的隔離は認められておらず、両者の分布境界にあたる丹後・但馬地方ではミトコンドリアDNAの遺伝子移入が確認されている。この大きな遺伝的分化は少なくとも数百万年前には発生していたといわれている。アロザイム分析によれば、南日本集団については生息している水域ごとに「東日本型」「東瀬戸内型」「西瀬戸内型」「山陰型」「北部九州型」「大隅型」「有明型」「薩摩型」「琉球型」の9種類の地域型に細分されるとの結果が出ている。さらに、ミトコンドリアDNAの解析からもこれらの水域ごとに遺伝的な違いが検出されている。 絶滅危惧に指摘されたことで、にわかに保護熱が高まった結果、こうした遺伝的な違いなどへの配慮をせずにメダカ池やビオトープ池を作り、誤って本来その地域に放流すべきでない他の地域産のメダカや、観賞魚として品種改良を施された飼育品種であるヒメダカを放流した例が多数ある。実際に、関東地方の荒川・利根川水系に生息する個体群のほとんどは、瀬戸内地方や九州北部に分布するはずのメダカであることが判明している。 現在は、地域ごとに遺伝的に大きな多様性を持った地域個体群の局所的な絶滅の進行が危惧されており、遺伝的多様性に配慮した保護活動が望まれている。メダカの保護には生息地の保全がまず重要とされ、安易な放流は慎むことが求められる。生態系全体を考慮したうえでやむを得ず放流が必要な場合は、日本魚類学会が示した『生物多様性の保全をめざした魚類の放流ガイドライン』などを参考にしつつ、専門家の意見を聞くべきである。 地域個体群として保護・繁殖に取り組んでいる例もある。神奈川県藤沢市の境川水系にいた「藤沢メダカ」はかつて絶滅したと思われていたが、1995年に民家の池で生き残っているのが見つかり、水槽や藤沢市役所分庁舎前の人工池で飼育されている。
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