ミヤコグサ集団ゲノミクス解析
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/02 00:14 UTC 版)
「ミヤコグサ」の記事における「ミヤコグサ集団ゲノミクス解析」の解説
2019年にはNBRPの収集したミヤコグサ野生系統136系統を用いた集団ゲノム解析が行われ,日本におけるミヤコグサ集団の歴史が明らかとなった。集団ゲノム解析より,日本におけるミヤコグサは遺伝的に3つの分集団(1: 鹿児島・沖縄に自生する系統,2: 九州東岸・四国・関西に自生する系統,3: 阿蘇・山陰・北陸・関東・東北・北海道に自生する系統)に分けられることが明らかとなり,南部集団に比べて北部集団(3)の遺伝的多様性が著しく低く,九州集団の遺伝的多様性が高いことが明らかとなった。このことから,日本におけるミヤコグサ集団は,南部集団から北方へ移動していったことが示唆される。また,Pairwise Sequentially Markovian Coalescent (PSMC: 英語参考) 解析の結果,これら3つの分集団の分岐が約が1万 - 1万8千年前と推定された。また,長崎県対馬に自生する系統と他全系統の遺伝的距離が大きいこと,これら3つの分集団の祖先的な性質を持つことより,対馬近辺に日本におけるミヤコグサ集団の祖先集団が存在していたと推定される。これらのことから,ミヤコグサは原産地の中央アジアから東に分布域を拡大し,朝鮮半島から対馬を経由して九州に定着,分集団を形成し,最終氷期の終了に伴って分集団(2)と(3)が北方に急速に分布を拡大したと考えられている。 さらに同集団ゲノム解析と実験分類学アプローチを組み合わせることで,ミヤコグサの分布拡大に伴い,環境適応が関連していることが示された。集団ゲノム解析に用いられたミヤコグサ野生系統を,東北大学(鹿島台圃場:宮城県大崎市)と宮崎大学で栽培したところ,東北大学圃場では北方分集団(3)に比べて南方分集団(1,2)の越冬率が低くなることが明らかとなった。一方,宮崎大学圃場では南方分集団(1,2)の越冬率は高かったものの,北方集団(3)は夏以降の生育が悪く,越冬率が下がることが明らかとなった。また,開花期についても北方集団は9月以降の開花が抑制され,南方集団(1,2)より長期間にわたり開花することが明らかとなった。これらの表現型の違いと遺伝子多型を比較するゲノムワイド関連解析を行ったところ,表現型と関連する一塩基多型(SNPs)が検出され,これらのSNPsが分集団間でFstの高い領域と一致することが明らかとなった。これらの結果より,越冬性に関する遺伝子や開花の調節に関する遺伝子が地域適応に関与したことが強く示唆され,これらの遺伝子がミヤコグサの日本における分布域の拡大に影響したと考えられる。
※この「ミヤコグサ集団ゲノミクス解析」の解説は、「ミヤコグサ」の解説の一部です。
「ミヤコグサ集団ゲノミクス解析」を含む「ミヤコグサ」の記事については、「ミヤコグサ」の概要を参照ください。
- ミヤコグサ集団ゲノミクス解析のページへのリンク