プラークリット語とは? わかりやすく解説

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プラークリット‐ご【プラークリット語】

読み方:ぷらーくりっとご

Prakrit元来、自然な言語の意》中期インド‐アーリア語総称雅語であるサンスクリット語に対して日常会話語をさす。アショカ王碑文最古資料とする。


プラークリット

(プラークリット語 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/12/03 19:15 UTC 版)

プラークリット
話される地域 北インド
言語系統 インド・ヨーロッパ語族
ISO 639-2 / 5 pra
ISO 639-5 pra

プラークリットサンスクリット語: Prākr̥tam, प्राकृतम्, シャウラセーニー語: pāuda, アルダマーガディー語: pāua)は、中期インド・アーリア語とも言い、おおむね10世紀以前に使われていた、サンスクリットに対して俗語的なインド・アーリア諸語の総称。具体的にはパーリ語マーガディー(マガダ語)、アルダ・マーガディー(半マガダ語の意味)、マーハーラーシュトリー(マハーラーシュトラ語)、シャウラセーニーアパブランシャガーンダーリー(ガンダーラ語)などを指す。ジャイナ教の経典に用いられたプラークリットはジャイナ・プラークリットと呼ぶ。

ブラーフミー文字ははじめプラークリットを書くのに用いられた。

名称

「プラークリット」という語の意味にはいくつかの説がある[1]

  1. サンスクリットを基礎(prakr̥ti)として生じた言語。伝統的にはこの説をとることが多い。
  2. (サンスクリットが人工的に洗練された言語であるのに対して)自然に発達した言語。
  3. 民衆の言語。

「プラークリット」が具体的にどの言語を指すかは文献によって異なるが、もっとも広い意味では中期インド・アーリア語と同じ意味に用いられる。この記事でも両者を同じ意味に用いる。

歴史

プラークリットは通常3つの時期に分けられる。

  1. 初期プラークリット
  2. 中期プラークリット
    • ジャイナ教で使用される言語。白衣派の経典(アーガマ)に使われている言語はアルダマーガディー語と呼ばれる。ほかにジャイナ教マーハーラーシュトリー語、ジャイナ教シャウラセーニー語が使われる。
    • 演劇で使用される言語。マーハーラーシュトリー・マーガディー・シャウラセーニーに代表される。マーハーラーシュトリーは詩にも使用される。
    • 文法家の記述の中にのみ現れる言語。パイシャーチーがこれにあたる。本来は説話集『ブリハットカター』の言語であったらしいが、現存する諸本にはこの言語で書かれたものはない。
  3. 後期プラークリット
    • アパブランシャと呼ばれる。6世紀ごろから文学で使われるようになった。「アパブランシャ」とはサンスクリット語で「崩れた」を意味する。

特徴

サンスクリットとの違いのおおまかな傾向は、言語によっても異なるが以下のようになる。

音韻的変化

  • 母音は ai au が消滅し(e o になる)、また aya → e、ava → o のような変化が起きた。
  • r̥, l̥ は消滅して通常の母音になった。
  • 閉音節で長母音は短くなった。このため、サンスクリットにはない短い e o が出現した。
  • サンスクリットにあった3つの歯擦音 ś ṣ s の区別が消滅した。
  • ḍ, ḍh は母音間で弱化して ḷ, ḷh に変化した。
  • 子音結合は、重子音または同器官的鼻音+子音を除いて大部分が消滅した(隣接する子音への同化・脱落・母音挿入などによる)。
  • 語末子音は大部分が脱落した。
  • y, w はしばしば j, b に合流した。
  • パーリ語にはあまり見られないが、時代が進むにつれて母音間の閉鎖音・破擦音が弱化し、無声音の有声化、接近音化、さらには脱落が起きた。マーハーラーシュトリーではこの傾向がいちじるしい。

形態的変化

  • 双数は消滅した。それ以外の名詞の性・格・数の区別は大部分が保たれたが、アパブランシャでは格が大きく融合している。
  • 子音語幹は多くが母音語幹に変化した。
  • サンスクリットにあった複雑な動詞の反射態は衰退した。
  • サンスクリットの未完了過去・アオリスト・現在完了の区別はなくなり、パーリ語では単一の過去形だけになった。マーハーラーシュトリーでは過去形もなくなり、かわりに過去分詞を使うようになった。

演劇プラークリット

プラークリットは、インド古典劇でも利用され、サンスクリットと併用された。このようなプラークリットは演劇プラークリット英語版と呼ばれる。インドの古典劇において、サンスクリットはバラモン・王・学者・大臣・将軍等高級軍人などの男性、及び第一王妃、大臣の娘、尼僧、高級娼婦などが使用した。これに対してプラークリットは婦人・子供・地位の低い男性が用いた。

演劇プラークリットには、シャウラセーニー語マハーラーシュトリー語マーガディー語の三種類があり使い分けされた。通常劇では、サンスクリットとシャウラセーニーが利用され、シャウラセーニーを利用する登場人物が韻文を使う時はマハーラーシュトリーが利用された。マハーラーシュトリーは抒情詩にも利用された。マーガディーは極めて地位の低い男性に用いられた。このように、同一劇の中で3種類のプラークリットが使い分けられた。なお、演劇用プラークリットは劇中に登場する、劇中言語としての口語であって、劇が作成された時代(3世紀から10世紀頃)にあって、実際の日常生活の口語ではなかった。元は口語だったが、インド古典劇の時代にあっては演劇専用口語言語として“文語化”していたものと推測されている。

シャウラセーニーは中北インド地方で前五世紀に利用された口語との説があり、中世にはカリー・ボリー語となり、現代のヒンドゥスターニー語パンジャーブ語等へと発展した。マーガディーはマガダ地方の口語(インド東部・ベンガル・ネパール地方)、シャカが用いた言葉との説があり、アショーカ王の勅令で利用された言語で、現代のビハール語ベンガル語オリヤー語などの祖語となった。マハーラーシュトリー語は前500年頃から後500年の間の1000年間利用され、北はマールワーラージプート、南はクリシュナ川トゥンガバドラー川付近で使われていた。現代のシンハラ語マラーティー語コンカニ語の祖語となった。

脚注

  1. ^ 辻直四郎「インドの言語と文学」 『辻直四郎著作集』 4巻、法蔵館、1982年、56頁。ISBN 4831832049 

参考文献

関連項目


「プラークリット語」の例文・使い方・用例・文例

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