ブランデーさらにコブラを足して呑む
作 者 |
|
季 語 |
|
季 節 |
|
出 典 |
白韻 |
前 書 |
|
評 言 |
果実酒を蒸留したブランデーは、オーク樽に永年貯蔵して熟成させる。ブランデー用のグラスは、香りをたのしむため口がすぼまり不思議な形をしている。ブランデーはゆったりと芳醇さを味わう上等な酒なのである。 そのブランデーにコブラを足すという表出に驚く。私の想像に浮かぶのは、キングコブラ。実物にお目にかかったことはない。テレビの画像で見た体の前部を直立させ、耳の脇を張り出して威嚇する姿の恐ろしさ。猛毒を持っているので咬まれたら最後という。しかしこれは写生句ではない。作者の演出による虚構である。攻撃性の強いものを足すと、エネルギーアップした酒は、効果倍増するに違いない。酒を愉しみながら想念の遊びで気分の変化を試みているのであろう。作者は、簡潔な口語表現で、社会や身辺の事象をひねり、ずらし、視点を変えることによって生れてくる感性や感情の変化を書く。自由に自在に日常性の転換を表現している。意外性をたのしむと言ったらよいであろうか。日常をより豊かに表現する心構えで俳句に向きあっている姿勢を感じさせる。 酒を飲むという寛ぎの時間、心の余裕を取り戻す姿、そのときは、あらゆる意味性から開放され、ひたすら酒の酔いに埋没する。コブラを足して呑むという想定外の行為には、さまざまな思惟思考も放棄して、ひたすら酔いの軽やかさへ飛翔し幻想に身を委ねるということなのである。 その愉快な気分は読み手の内でこそ創成されるものである。作者は無愛想にコブラ入りブランデーを呑むということだけに言い止めている。それならば評も解説も不要であろう。読み手は作者の創造世界に共に酔い共に揺れ、たのしむだけである。 |
評 者 |
|
備 考 |
- ブランデーさらにコブラを足して呑むのページへのリンク