フロイト学派による解釈
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/17 19:02 UTC 版)
「聖アンナと聖母子」の記事における「フロイト学派による解釈」の解説
オーストリア人精神分析学者ジークムント・フロイトは『レオナルド・ダ・ヴィンチの幼年期のある想い出(英語版)』というエッセイを書いた。このエッセイでフロイトが唱えた説によると、マリアの衣服には横むきのハゲワシの姿が隠されているとしている。この「ハゲワシ」についてフロイトは、レオナルドが幼少の頃から「受身の同性愛者」だったことの表れであるとし、さらにミラノのアンブロジアーナ図書館が所蔵するレオナルドの『アトランティコ手稿』にも、幼少期のレオナルドとハゲワシのエピソードが書かれていると主張した。フロイトは『アトランティコ手稿』に書かれたレオナルドの記述を次のように解釈している。 私(レオナルド)の生涯はハゲワシと深い関わりがあるように思う。物心がついた頃の記憶のなかでよく思い出すのは、子供用ベッドで寝ている私のもとへハゲワシが舞い降り、その尾で私の口をこじ開けて何度も唇を打ち据えたことである。 フロイトによるとレオナルドのこの空想は、母親の乳首を含んでいたころの記憶に由来するとしている。さらにフロイトは、古代エジプト人はハゲワシにはメスしか存在せず風によって受精して卵を産むと考えており、ヒエログリフではハゲワシが母親を意味していることからも、この自説には根拠があると主張した。 しかしながら『アトランティコ手稿』に書かれていた「ハゲワシ」という言葉は、この手稿を翻訳したドイツ人による誤訳であって、実際にはレオナルドの空想に登場するこの鳥は腐肉食を主とするハゲワシではなく、基本的には捕食者たるトビ(カイト、(en:kite (bird)))だった。この指摘を受けたフロイトは、弟子のルー・アンドレアス・ザロメに自身の落胆ぶりを語っている。しかしながらフロイト学派の研究者の中には、このフロイトの説をトビにも当てはまるように何とか修正しようとするものも見られた。 また、レオナルドがアンナとマリアの親子をともに描くことを好んだことについてもフロイトの仮説がある。庶子として生まれたレオナルドは、実父と義母に育てられることに「適応する」前までは、実母に育てられていた。そして、レオナルドがキリストの母マリアとマリアの母アンナをとくに親密な様子で作品に描くことはレオナルドの愛情の表れであり、これはレオナルドがある意味「二人の母」を持っていたという体験に根ざしているとした。この仮説は『聖アンナと聖母子』、『聖アンナと聖母子と幼児聖ヨハネ』ともに、親子たるアンナとマリアが同年代で描かれており識別が難しいという点において注目に値する。
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