テロメアDNA
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/12 05:20 UTC 版)
ゲノムDNAは二本鎖からなる二重らせん構造をしているが、テロメアの最末端部位ではDNAの3'末端が突出(オーバーハング)して一本鎖になっている。オーバーハングした配列の長さは種によって異なり、繊毛虫の Oxytricha では16塩基、ヒトやマウスでは50-100塩基である。哺乳類のテロメアDNAはおり曲がってT-ループと呼ばれる構造をとる。突出した部分は二本鎖DNAの間に潜り込み、D-ループと呼ばれる三重鎖構造を形成している(図の赤い線)。この構造はエキソヌクレアーゼなどによるDNA分解を回避し、末端の安定性を維持していると考えられている。T-ループを形成できなくなり、DNA末端が露出すると、DNA修復機構がこれらを切断されたDNAと認識し細胞周期を停止させる他、染色体末端同士を結合させ、染色体融合が生じると考えられている。 テロメアDNAの配列は生物によって多少異なるが、多くのモデル生物ではグアニン (G) とチミン (T) に富んだ反復配列となっている。哺乳類やキイロタマホコリカビでは TTAGGG の6塩基が反復したものである。線虫の C. elegans では TTAGGC、昆虫のカイコでは TTAGG、植物のシロイヌナズナでは TTTAGGG、出芽酵母では TG, TGG, TGGG がランダムに繰り返した配列である。これは突出した側の配列(図のオレンジ色の線)であり、その相補鎖(図の青色の線)はシトシン (C) とアデニン (A) が多くなる。ただし、一部の昆虫では異なる様式がみられる。ショウジョウバエではこのような高 GT 配列はなく、トランスポゾンの一種であるレトロポゾンがたくさん見られる。ショウジョウバエでは後述するテロメラーゼよりも、これらの外来性配列の転移によってテロメアが維持されている。カイコは弱いテロメラーゼ活性が見られるものの、レトロポゾンの一種(テロメア特異的LINE; SART/TRAS)による染色体末端の維持が行われている。 テロメアDNAの長さも生物種や組織、系統や個人によって異なる。ヒトの体細胞では10kb程度以下であるのに対し、生殖細胞では15kbから20kbと長い。マウスはヒトに比べて50kbほど長いテロメアを持ち、出芽酵母ではヒトよりも短い。がん細胞は正常細胞に比べ短いテロメアをもつ。
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