テニエルの画風とアリス像
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/11 07:23 UTC 版)
「不思議の国のアリスの挿絵」の記事における「テニエルの画風とアリス像」の解説
『アリス』の挿絵を描くにあたってテニエルがとった戦略は、アリスとその世界を『パンチ』の風刺画の中に置いてみるということであった。テニエルや彼の同僚が『パンチ』で描いていた(擬人化された動物がしばしば登場する)風刺画は、それらを見慣れていた当時の中流階級の人々にとって『アリス』の一種の予告編となり、その世界に親近感を抱かせたと考えられる。また修行時代の一時期を除いてモデルを使用しなかったテニエルの『アリス』は、結果として『パンチ』で確立されたイメージ群の更新にほかならないものであった。テニエルの挿絵が作り出したイメージは今日アリスの世界と切り離せないほど親しまれており、後世の挿絵画家が新たにつけた挿絵でもテニエルのイメージを完全に払拭しているものは少ない。ただしテニエルの挿絵についても、線が硬い、絵に冷たさがある、アリスの表情が紋切型であるというふうに批判がないわけではない。 現在アリスのイメージとしてもっとも親しまれている、テニエルが描いたブロンド・長髪で額を出したアリスは、黒髪でおかっぱ頭であった実在のアリス・リデルとはまったく異なる姿で描かれている。これについてはキャロルの推薦でメアリー・ヒルトン・パドコックという少女の写真をモデルにしたという説がしばしば唱えられてきた。これはもともと成人したパドコックとその夫がキャロルの伝記作者に提供した情報であったが、しかしキャロルがパドコックの写真を購入したとされる1865年1月には、すでにテニエルは12点の『アリス』の挿絵を仕上げている。当のパドコックの写真も、ブロンドの長髪という点以外にはテニエルのアリスに似ているところはない。またパドコック説に対抗して、テニエルは『パンチ』の初代編集長マーク・レイモンの娘をモデルにしたのだという主張が、その娘(レイモンの孫娘)によってなされたことがある。しかしいずれも第三者の証言や資料はなく、またそもそもキャロルの書簡のなかに、テニエルがモデルを使わないことを嘆いているくだりがあるため、どちらの説もあまり信憑性はないと考えられる。 マイケル・ハンチャーは、テニエルの挿絵に原型があるとすれば、それはキャロルが手書き本に描いたアリスだろうとしている。キャロルが描いたアリスはラファエル前派特有の女性美を強く表しており、その豊かな髪のラファエル前派風のウェーブは、かなりやわらげられてはいるもののテニエルのアリスにも受け継がれている。アリスのほとんど不機嫌といってもいい落ち着いた表情も、キャロルから受け継がれたラファエル前派の特徴であると考えられる。また海野弘は、キャロルのラファエル前派的な少女趣味と、ラファエル前派よりも旧世代に属するテニエルのスタイルとのずれが、かえってテニエルの挿絵を成功に導いたと分析している。
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