コヤマコウモリとは? わかりやすく解説

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小山蝙蝠

読み方:コヤマコウモリ(koyamakoumori)

ヒナコウモリ科コウモリ

学名 Nyctalus furvus


コヤマコウモリ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/06/11 23:15 UTC 版)

コヤマコウモリ
保全状況評価[1]
ENDANGERED
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 翼手目 Chiroptera
: ヒナコウモリ科 Vespertilionidae
: ヤマコウモリ属 Nyctalus
: コヤマコウモリ N. furvus
学名
Nyctalus furvus
Imaizumi & Yoshiyuki1968[2]
和名
コヤマコウモリ[3]
英名
Japanese noctule[1]

コヤマコウモリ(小山蝙蝠、学名Nyctalus furvus)は、ヒナコウモリ科ヤマコウモリ属に分類される、日本に生息するコウモリの一である[4]。日本固有種とされる[5](詳細は後述)。同属のヤマコウモリに酷似するが、体サイズが小さい[4][5]

記載と分類

1968年今泉吉典吉行瑞子によりヤマコウモリ属の新種として記載された[6][7]。この記載に用いられたのは、1961年昭和36年)に岩手県岩泉町[8]の中学校の煙突中で発見されたものである[5][6]。のちに原生林でも確認された[5]

それ以前にも日本国内で小型のヤマコウモリ属の記録が散見され、黒田 (1934) により Nyctalus noctula motoyoshii とされたが、のちに今泉 (1968) によりこれはヒナコウモリのシノニムであると考えられている[6][9][10]ユーラシア大陸産のユーラシアコヤマコウモリ N. noctula[注釈 1]および中国本土や台湾産のチュウカヤマコウモリ N. plancyi と同種とされたこともあるが、形態および染色体の違いにより別種であることが示されている[6][12]

形態

外部形態

前腕長 48–53 mmミリメートル[4][8][11][13][注釈 2]、頭胴長は 80 mm 前後[5][注釈 3]である。体重は 20 gグラム前後[13][注釈 4]。尾長は 46–54[8][11](–56 mm)[4]

背面の体毛は暗褐色[4][8][11][13]耳介の前縁は下部で凸状、先端は丸みを帯びる[4]。耳介長は 14–19 mm[4][注釈 5]。耳珠は短く、幅広い[4]

翼が細長い[4]前肢第1指が長い[5]。飛膜を欠く第1指を除く4本の指の中で第5指が最も短く、その先端は第4指の基節骨の基部から中央付近に達するのみである[4]。翼の下面の前腕及び体側近くにも短い暗褐色の毛を持つ[4]を含む後足長は 11.5–12.0 mm[8]、下腿長は16–22 mm[4]

骨格

頭骨はヤマコウモリに似るが、小さく幼形的である[8]。頭骨基底全長は 17.0–17.9 mm[4]。頭骨は幅広く低く、上顎の犬歯が外側に移動しているため、口蓋部が幅広くなっている[4]眼窩間部が比較的幅広く、後頭稜の発達が弱く、後頭部は上方に曲がらずほぼ直線状で、後頭骨後縁には丸みが見られる[8][14]。上顎前位の小臼歯の退化度が弱いため、相対的にやや大きい[8][15]。歯式は I・2/3 + C・1/1 + P・2/2 + M・3/3 = 34。

脛骨長は 17.1–17.4 mm[8]

近縁種との比較

ヤマコウモリは形態および体色が酷似しているが、本種は体毛の黒味が強く、前腕長と体重がともに顕著に小さいことから区別される[13]。また、ヤマコウモリに比べ飛膜下面の有毛部の毛が少ない[8]

前腕長は、ヤマコウモリが 57.0–64.0 mm(平均 60.99 mm)、ユーラシアコヤマコウモリが 51–54 mm(平均 52.3 mm)である[9]

生態

採集地の大半が自然広葉樹林であるため、樹洞棲であると推測されている[16][13]。これまで繁殖地や出産哺育集団は見つかっておらず、自然環境における冬眠についても不明である[17][13]。1960年に初めて確認された校舎では、最大30頭ほどの越冬集団が煙突を塒に利用していた[6]。ここでは、毎年9月ごろに飛来し、翌5月ごろに姿を消していた[6]

鳴き声において、放逐時にエコーロケーションパルスはFM型で、EF と FME はそれぞれ 25.9–29.5 kHz と 30.6–32.3 kHz であるが、通常の飛翔時の音声構造と異なる可能性がある[6]

体表には外部寄生虫としてコウモリダニ科のダニが寄生する[16]。また、内部寄生虫としては Molinostrongylus skrjabini といった Molinostrongylus 属の毛様線虫英語版類が寄生する[16]

分布

日本列島北海道青森県岩手県福島県栃木県長野県から報告されている[4][17]朝鮮半島釜山でも本種とされる記録があるが、形態的に異なる点もみられ、さらなる分類学的検討が必要であるとされる[4]。中国や台湾の個体群と同種と考えられたこともあるが[11]、これは前述の通り別種チュウカヤマコウモリ N. plancyi とされる[6]

特に岩手県下では二戸市宮古市岩泉町早池峰山住田町盛岡市(旧玉山村)に記録がある[13]。1960年代に岩手県で最大30頭の越冬集団が観察されているが、それ以降は散発的な報告のみにとどまる[17]

北海道では2018年に上ノ国町で2個体が生体捕獲されたものが、初記録となった[16][17]。それ以前にも、2017年8月に風力発電機周辺でバットストライクにより死亡したと考えられる本種5個体が見つかっていた[17]

保全状況評価

絶滅危惧IB類 (EN)環境省レッドリスト[18]

国際自然保護連合によるIUCNレッドリストではVU(危急種)にランクされていたが[17]、2020年の改正でEN(絶滅危惧種)に引き上げられた[19]環境省レッドリスト(第4次)では、絶滅危惧IB類(EN)に指定されている[17][4][16][13]

脚注

注釈

  1. ^ ヨーロッパコヤマコウモリとも[9][11]
  2. ^ 今泉 (1970) による10個体の計測結果では、前腕長 49.9–51.8 mm、平均 50.8 mm であった[9]
  3. ^ 76–84 mm[8][11]、または 64–85 mm[4]
  4. ^ 具体的な記録では、8月の個体が 20 g および 22.3 g、10月の個体が 25.8 g の記録がある[4]
  5. ^ 16.4–17.2 mm とも[8]

出典

  1. ^ a b Fukui, D. & Sano, A. 2020. Nyctalus furvus (errata version published in 2021). The IUCN Red List of Threatened Species 2020: e.T136765A209552009. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2020-2.RLTS.T136765A209552009.en. Accessed on 08 June 2025.
  2. ^ Imaizumi, Y. & M. Yoshiyuki, 1968. A new species of Insectivorous bat of the Genus Nyctalus from Japan. Bull. Nat. Sci. Mus. Tokyo, Ser. A, 11(2): 127-134.
  3. ^ 川田伸一郎・岩佐真宏・福井大・新宅勇太・天野雅男・下稲葉さやか・樽創・姉崎智子・横畑泰志世界哺乳類標準和名目録」『哺乳類科学』第58巻 別冊、日本哺乳類学会、2018年、1-53頁。
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s 福井 2023, p. 77.
  5. ^ a b c d e f 吉行瑞子「コヤマコウモリ」『日本大百科全書(ニッポニカ)』小学館https://kotobank.jp/word/%E3%82%B3%E3%83%A4%E3%83%9E%E3%82%B3%E3%82%A6%E3%83%A2%E3%83%AAコトバンクより2025年6月5日閲覧 
  6. ^ a b c d e f g h 福井 2023, p. 79.
  7. ^ 前田 2001, p. 26.
  8. ^ a b c d e f g h i j k l 阿部 2007, p. 198.
  9. ^ a b c d 前田 2001, p. 140.
  10. ^ 今泉吉典 (1968). “いわゆるコヤマコウモリ Nyctalus noctula motoyoshii の分類学的地位について”. 哺乳動物学雑誌 (日本哺乳動物学会) 4 (2): 35–39. doi:10.11238/jmammsocjapan1952.4.35. 
  11. ^ a b c d e f 阿部ほか 2008, p. 51.
  12. ^ 本川雅治; 下稲葉さやか; 鈴木聡 (2006). “日本産哺乳類の最近の分類体系 —阿部(2005)とWilson and Reeder(2005)の比較—”. 哺乳類科学 (日本哺乳類学会) 46 (2): 181–191. doi:10.11238/mammalianscience.46.181. 
  13. ^ a b c d e f g h コヤマコウモリ”. いわてレッドデータブック 岩手の希少な野生生物 web版. 岩手県. 2025年6月5日閲覧。
  14. ^ 福井 2023, pp. 78–79.
  15. ^ 福井 2023, pp. 77–78.
  16. ^ a b c d e 佐藤ほか 2019, pp. 85–90.
  17. ^ a b c d e f g 遠藤秀紀『北海道檜山郡上ノ国町の風力発電施設における絶滅危惧種コヤマコウモリの保全に関する要望書』(レポート)日本哺乳類学会、2019年10月8日https://www.mammalogy.jp/doc/20191015_1.pdf2025年6月5日閲覧 
  18. ^ 前田喜四雄 (2014). “コヤマコウモリ”. In 環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室. レッドデータブック2014 -日本の絶滅のおそれのある野生動物-1 哺乳類. ぎょうせい. pp. 44–45. https://ikilog.biodic.go.jp/rdbdata/files/envpdf/%E5%93%BA%E4%B9%B3%E9%A1%9E_025.pdf 
  19. ^ Species changing IUCN Red List Status (2019-2020)” (PDF). IUCN (2020年7月10日). 2025年6月5日閲覧。

参考文献

  • 阿部永『[増補版] 日本産哺乳類頭骨図説』北海道大学出版会、2007年10月10日。ISBN 978-4-8329-9832-2 
  • 阿部永・石井信夫・伊藤徹魯・金子之史・前田喜四雄・三浦慎悟・米田政明 著、財団法人 自然環境研究センター 編『日本の哺乳類 [改訂2版]』阿部永(監修)、東海大学出版会、2008年7月5日。 ISBN 978-4-486-01802-5 
  • 佐藤雅彦; 村山良子; 佐藤里恵; 前田喜四雄; 浅川満彦 (2019). “北海道からコヤマコウモリの初記録”. 利尻研究 38: 85–90. https://riishiri.sakura.ne.jp/Sites/RS/archive/382019/3811.pdf. 
  • 前田喜四雄『日本コウモリ研究誌——翼手類の自然史』東京大学出版会、2001年8月10日。 ISBN 4-13-060177-6 
  • 福井大 著「コヤマコウモリ」、コウモリの会 編『識別図鑑 日本のコウモリ』佐野明・福井大(監修)、文一総合出版、2023年10月2日。 ISBN 978-4-8299-7247-2 


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