ガロワ理論とは? わかりやすく解説

ガロア理論

(ガロワ理論 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/12 08:52 UTC 版)

ガロア理論(ガロアりろん、Galois theory)は、代数方程式構造を "ガロア群" と呼ばれるを用いて記述する理論。1830年代エヴァリスト・ガロアによる代数方程式の冪根による可解性などの研究が由来。ガロアは当時、まだ確立されていなかった群や体の考えを方程式の研究に用いていた。

ガロア理論によれば、“ガロア拡大”と呼ばれる体の代数拡大は、拡大の自己同型群の閉部分群と、拡大の中間体との対応関係で記述される。

概要

例えば Galois の研究は、その萌芽はすでに Lagrange その他の中に見られるが、どんな貧弱な fox-terrior でも、Galois の中にすぐれたアイディアをかぎわけることができる。
アンドレ・ヴェイユ
来日数学者と接して」『数学』第7巻第4号、1956年、268頁。 

ガロア理論では、加減乗除ができるような数の範疇での代数方程式を考察対象とする。例えば、有理数複素数の範囲で多項式で表わされる方程式の解を考えたり、整係数の多項式で素数を法とした解を考えたりする。

代数方程式が "代数的に解ける" かどうか、つまり係数に対する四則演算と根号の有限個の組合せで解が表せるかどうかが問題になる。四次までの代数方程式についてはこれが可能。

例えば二次の多項式 x2 − 2ax + b = 0 の二つの根は

この節の加筆が望まれています。

ガロア理論の基本定理

L を体 K の有限次ガロア拡大とする。「LK の中間体 M」 と 「Gal(L/K) の部分群 H」 について次の式が成立つ。

オーギュスト・シュヴァリエ宛のガロアの手紙の最終頁(1832年5月29日)

ガロアは1832年の(死の原因となる)決闘の前日に、友人のオーギュスト・シュヴァリエに宛てて、ガロア理論と楕円関数論に関する数学的業績を要約した手紙を書いた。その後、1846年になって、リウヴィルがガロアの功績を知って自分の雑誌にガロアの論文集を掲載した[2]ことで、多くの数学者が刺激を受けることになった。デデキントは1855年から1857年にかけてゲッティンゲン大学でガロア理論に関する最初の講義をおこなった[3]。そのとき、デデキントはガロアの理論を「ガロア理論」(: Galois-Theorie)と名づけた[4]。早い時期に、ベッチ、クロネッカーケイリー、セレは群概念を厳密化していった。カミーユ・ジョルダンによって1870年に発表された『置換と代数方程式論』 (Traité des substitutions et des équations algebraique) はガロア理論に関する包括的な解説として最も古いものである。1871年にデデキントは四則演算で閉じた(数の)集合を「」(: Körper)と名づけた。また、デデキントウェーバー英語版は1882年に代数関数体リーマン面の代数的理論を構築した[3]

ソフス・リーによって導入されたリー群は代数方程式に対するガロア理論の類似を微分方程式に対して確立しようという試みの中から生まれたとされている。その後、エミール・アルティンによってガロア理論の線型代数学的な定式化が追求された[5][6]アレクサンダー・グロタンディークによって圏論的な定式化と数論幾何代数幾何への応用が押し進められた。

脚注

  1. ^ 『5.4. スキームの基本群と遠アーベル幾何: ここでは可換環を単に環と呼ぶことにします。 環の典型的な現れ方として、与えられた空間Xの上の(適当な条件を満たす)関数全体のなす環があります。この場合、関数の値の和、差、積を考えることにより、関数の和、差、積を定義します。(1,0は、それぞれ恒等的に値1,0を取る関数として定義します。)実は、任意の環はこのようにして得られることが知られています。 より正確に言うと、与えられた環Rに対し、アフィンスキームと呼ばれるある種の空間Spec(R)が定まり、Rは空間Spec(R) 上の正則関数全体のなす環と自然に同一視されます。更に、環を考えることとアフィンスキームを考えることは本質的に同等であることが知られています。 グロタンディーク自身により、体のガロア理論は、スキームのガロア理論へと一般化されました。この理論で体の絶対ガロア群に当たるものが、スキームの基本群です。絶対ガロア群は、与えられた体の(有限次分離)拡大体全体を統制する副有限位相群でしたが、基本群は、与えられたスキームの(有限エタール)被覆全体を統制する副有限位相群です。スキームの基本群は、通常の位相幾何(トポロジー)で扱う位相空間の基本群の代数的(ないし代数幾何的)な類似と見ることができます。』「ガロア理論とその発展」(数学入門公開講座テキスト 京都大学数理解析研究所 平成18年7月)玉川安騎男”. 2025年5月24日閲覧。
  2. ^ Galois, Évariste (1846). “Œuvres mathématiques d'Évariste Galois”. Journal de mathématiques pures et appliquées (Tome XI): 381-444. ISSN 0021-7824. http://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k290623/f5.image.langFR. 
  3. ^ a b 佐武一郎「解説「ガロア理論」について」、アルティン (2010) p. 215
  4. ^ Scharlau (1981)
  5. ^ アルティン (1974)
  6. ^ アルティン (2010)

参考文献

関連文献

和書:

以下の和書の出版順のリストは長くなるから普段は隠しておいた方が良いかもしれない。しかしどれも難易度はあるもののガロア理論に関連するものである。

  • 村勢一郎:「方程式論」、東海書房(1948年5月30日).後編第3章:「Galoisのガロア理論」.
  • エム・ポストニコフ、日野寛三(訳):「ガロアの理論」、東京図書 (1964年6月25日). ※ 既約5次方程式が解かれる場合についての解説がある。
  • 高木貞治:「代数学講義:改訂新版」、共立出版、ISBN 978-4-320-01000-0 (1965年11月25日). 第7章:「不可能の証明」.
  • アルチン:「ガロア理論入門」、東京図書(1974年) ※原著 1959年。
  • アーベル/ガロア:「群と代数方程式」、共立出版 (1975年)。
  • 矢ケ巌:「数Ⅲ方式:ガロアの理論」、現代数学社(1979年)。
  • スチュワート:「ガロアの理論」、共立出版(1979年)※原著 1973年。
  • 山下純一:「ガロアへのレクイエム」、現代数学社、ISBN 4-7687-0161-2 (1986年10月8日). ※ ガロアの業績と関連する数学発展史
  • 倉田令二郎:「ガロアを読む」、日本評論社(1987年)。
  • 草場公邦:「ガロワと方程式」、朝倉書店、ISBN 4-254-11467-2 (1989年7月10日).
  • 藤崎源二郎:「体とガロア理論」、岩波書店(1991年)。
  • J. P. セール(著)、H. ダルモン(筆記)、植野義明(訳):「ガロア理論特論」、トッパン、ISBN 4-8101-8924-4 (1995年3月10日). ※ ガロア群の逆問題を扱っている。
  • 松田隆輝:「ガロア理論」、槇書店、ISBN 4-8375-0635-6 (1996年4月5日).
  • 原田耕一郎:「群の発見」、岩波書店、ISBN 4-00-006791-5 (2001年11月21日). 第3章:「ガロア理論」.
  • Jean-Pierre Tignol、新妻弘(訳):「代数方程式のガロアの理論」、共立出版、ISBN 4-320-01770-6 (2005年3月15日).
  • 桂利行:「代数学 III:体とガロア理論」、東京大学出版会、ISBN 4-13-062953-0 (2005年9月26日).
  • ディヴィッド・A・コックス、梶原健(訳):「ガロワ理論 上」、日本評論社、ISBN 978-4-535-78454-3 (2008年11月25日).
  • 中村亨:「ガロアの群論:方程式はなぜ解けなかったのか」、講談社(ブルーバックス B-1684)、ISBN 978-4-06-257684-0 (2010年5月20日).
  • ディヴィッド・A・コックス、梶原健(訳):「ガロワ理論 下」、日本評論社、ISBN 978-4-535-78455-0 (2010年9月20日).
  • 雪江明彦:「代数学 2:環と体とガロア理論」、日本評論社、ISBN 978-4-535-78660-8 (2010年12月20日).
  • 三宅克哉:「方程式が織りなす代数学」、共立出版、ISBN 978-4-320-01960-7 (2011年2月25日). ※ 第VI章:「ガロアの理論」、第VII章:「ガロアの逆問題から」。
  • 繭野孝和:「わかりやすい 方程式とガロア理論入門」、天の川教育文化研究所、ISBN 978-4-904424-00-1 (2011年9月30日).
  • 木村俊一:「ガロア理論」、共立出版、ISBN 978-4-320-01994-2 (2012年11月15日).
  • 藤田岳彦:「難問克服 解いてわかるガロア理論」、東京図書、ISBN 978-4-48902148-0 (2013年1月25日).
  • 髙瀨正仁:「アーベル(前編)不可能の証明へ」、現代数学社、ISBN 978-4-7687-0432-5 (2014年7月14日).
  • 黒川信重:「ガロア理論と表現論:ゼータ関数への出発」、日本評論社、ISBN 978-4-535-78589-2 (2014年11月30日).
  • 鈴木智英:「図解と実例と論理で、今度こそわかるガロア理論」、SBクリエイティブ、ISBN 978-4-7973-9020-9 (2017年2月28日).
  • 金重明:「方程式のガロア群:深遠な解の仕組みを理解する」、講談社(ブルーバックス 2046)、ISBN 978-4-06-502046-3 (2018年1月18日).
  • 芳沢光雄:「今度こそわかる ガロア理論」、講談社サイエンティフィク、ISBN 978-4-06-156602-6 (2018年4月14日).
  • 冨田佳子:「代数学の華 ガロア理論」、現代数学社、ISBN 4-7687-0522-7 (2019年).
  • 藤原松三郎:「代数学 第2巻」(改訂新版)、内田老鶴圃、ISBN 978-4-7536-0162-2 (2020年4月). 第11章:「ガロアの方程式論」.
  • 新妻弘:「独習ガロア理論 : 群環体から低次数のガロア群まで初学者のための至極の講義録」、近代科学社、ISBN 978-4-76490674-7 (2023年12月26日).
  • 金重明:「はじめてのガロア:数学が苦手でもわかる天才の発想」、講談社(ブルーバックス 2271)、ISBN 978-4-06-536563-2 (2024年8月23日).

洋書:

関連項目

外部リンク


ガロワ理論

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/05/25 08:44 UTC 版)

有限アーベル群」の記事における「ガロワ理論」の解説

詳細は「アーベルルフィニ定理」を参照 有限アーベル群はガロワ理論において特別な役割を持つ。アーベルルフィニ定理帰結として、可換ガロワ群を持つ多項式冪根によって解ける(逆はやや複雑で、ガロワ群可解群となるのにアーベルであることは必要でない)。そのような多項式の分解体はアーベル拡大、つまり拡大ガロワ群アーベルである。この結果は、アーベル拡大とそのガロワ群注目するのである。これは19世紀数学者たちがクロネッカーヴェーバー定理の証明に熱心であった理由である。 ガロワクロネッカーヴェーバー発見よりもずっと以前に、ガウス特定の場合正17角形定木とコンパスを用いた作図求めるための、指数17の円分方程式」を扱ったが、この多項式ガロワ群アーベルであることはこの方法の本質的な要素であった

※この「ガロワ理論」の解説は、「有限アーベル群」の解説の一部です。
「ガロワ理論」を含む「有限アーベル群」の記事については、「有限アーベル群」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「ガロワ理論」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「ガロワ理論」の関連用語

ガロワ理論のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



ガロワ理論のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのガロア理論 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaの有限アーベル群 (改訂履歴)、エミー・ネーター (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS