イタリア式コメディ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/27 19:08 UTC 版)
ナビゲーションに移動 検索に移動イタリア式コメディ(伊: Commedia all'italiana、英: Italian Comedy Style)は、イタリアの映画ジャンルである。マリオ・モニチェッリ監督の『いつもの見知らぬ男たち』(1958年)に始まり、ピエトロ・ジェルミ監督の『イタリア式離婚狂想曲』(原題 Divorzio all'italiana, 1961年)からその名称をいただいたとされる。長い間この言葉は、軽蔑的な意図で使われていた。
略歴・概要
1940年代から第二次世界大戦後にかけて、イタリアでは「ネオレアリズモ」のムーヴメントが起こる。
1950年代後半から1960年代にかけて、この「ネオレアリズモ」に衝撃を受けた世界中の若者たちが、イギリスではロンドンのフリー・シネマからブリティッシュ・ニュー・ウェイヴへの動きを生み、フランスではパリのヌーヴェルヴァーグが生まれ、ジュネーヴを中心としたスイスではヌーヴォー・シネマ・スイスが、ポルトガルではリスボンのノヴォ・シネマが、ドイツではオーバーハウゼン・マニフェストからニュー・ジャーマン・シネマが、ポーランドではワルシャワのポーランド派が、チェコスロヴァキアではプラハのチェコ・ヌーヴェルヴァーグが、大西洋を隔てたアメリカではニューヨークでニューヨーク派(オフ・ハリウッド)が、ブラジルではサンパウロとリオデジャネイロでシネマ・ノーヴォが、そして遥か日本でも、東京で日本ヌーヴェルヴァーグが起きるという、ただならぬ状態になっていた。
しかし、イタリアでは1950年代に入ると、官能味を帯びた「ネオレアリズモ・ローザ」(伊語Neorealismo rosa、「桃色ネオレアリズモ」の意)と呼ばれる作品群が生まれはじめる。それまで脚本家だった20代、30代の若手がつぎつぎに映画監督となり、艶笑ものの他愛のないコメディ、ショートコント集、オムニバス映画が量産されていくのである。その流れのなかで1950年代後半に生まれたのがこの「イタリア式コメディ」なのである。
やがて1960年代中盤以降になると、ヨーロッパは、艶笑オムニバスの合作など、このコメディの新しいムーヴメントに巻き込まれていくことになる。
代表的スター
ヴィットリオ・ガスマン、ウーゴ・トニャッツィ、アルベルト・ソルディ、ニーノ・マンフレディが1960年代、1970年代の「イタリア式コメディ」の4大トップ・スターであり、ステファニア・サンドレッリ、モニカ・ヴィッティ、ジャンカルロ・ジャンニーニ、マリアンジェラ・メラート、カトリーヌ・スパークらニューカマーがそれを追った。あるいは、ドラマティックなスターがコミカルな役を演じた例に、マルチェロ・マストロヤンニやクラウディア・カルディナーレがいる。
作家と作品
1961年にディーノ・リージは、現在ではカルトムービーとなった『追い越し野郎』を撮り、その後『困難な人生』(1962年、日本未公開)、『怪物たち』(1963年、日本未公開)、『イタリア人民の名において』(In nome del Popolo Italiano, 1971年、日本未公開)、『女の香り』(Profumo di donna, 1974年、日本未公開)を監督した。
モニチェリの作品には、『戦争・はだかの兵隊』(La grande guerra, 1959年)、『明日に生きる』(I compagni, 1963年)、L'armata Brancaleone (1966年、日本未公開)、Vogliamo i colonnelli (1973年、日本未公開)、『人気小説』(Romanzo popolare, 1974年、日本未公開)、そして『私の友だち』(Amici miei, 1975年、日本未公開)がある。
同ジャンルにおける有名な映画作家には、エットーレ・スコラ、ルイジ・コメンチーニ、ステーノ(ステファノ・ヴァンツィーナ)、アントニオ・ピエトランジェリ、ナンニ・ロイ、あるいはリナ・ウェルトミューラーがいる。
脚本家には、アージェ=スカルペッリ、レオ・ベンヴェヌーティ、ピエロ・デ・ベルナルディ、ロドルフォ・ソネゴ、スーゾ・チェッキ・ダミーコ、セルジオ・アミディらが該当する。イタリア特有の集団的脚本執筆の方式から生まれた監督も多く、監督としてのデビュー前に脚本を量産した例にディーノ・リージ、エットーレ・スコラがいる。
また、劇伴音楽にすぐれたものが多く、作曲家も多く生まれた。また現在日本においても「イタリア式コメディ」作品のサウンドトラックは、映画そのものが未公開作品であっても人気である。作曲家の固有名詞については下記作品リストを参照のこと。
イタリア語版リスト

※イタリア語版Wikipediaの15本のリスト[2]である。英語版には65本におよぶリストが掲載されている[3]。
- 監督マリオ・モニチェッリ、音楽ピエロ・ウミリアーニ
- 脚本フリオ・スカルペッリ、レナート・サルヴァトーリ、スーゾ・チェッキ・ダミーコ
- 出演ヴィットリオ・ガスマン、マルチェロ・マストロヤンニ、レナート・サルヴァトーリ、トト
- 監督マリオ・モニチェッリ、音楽ニーノ・ロータ
- 脚本マリオ・モニチェッリ、アージェ=スカルペッリ、ルチアーノ・ヴィンチェンツォーニ
- 出演ヴィットリオ・ガスマン、アルベルト・ソルディ、シルヴァーナ・マンガーノ
- みんな帰ろう Tutti a casa 1960年
- 監督ルイジ・コメンチーニ、音楽アンジェロ・フランチェスコ・ラヴァニーノ
- 脚本アージェ=スカルペッリ、ルイジ・コメンチーニ、マルチェロ・フォンダート
- 出演アルベルト・ソルディ、セルジュ・レジアーニ
- アドゥアと仲間たち Adua e le compagne 1960年
- 監督アントニオ・ピエトランジェリ、音楽ピエロ・ピッチオーニ
- 脚本ルッジェーロ・マッカリ、アントニオ・ピエトランジェリ、エットーレ・スコラ、トゥリオ・ピネリ
- 出演シモーヌ・シニョレ、マルチェロ・マストロヤンニ、サンドラ・ミーロ
- 監督ピエトロ・ジェルミ、音楽カルロ・ルスティケッリ
- 脚本ピエトロ・ジェルミ、エンニオ・デ・コンチーニ、アジェノーレ・インクロッチ、アルフレード・ジャンネッティ
- 出演マルチェロ・マストロヤンニ、ダニエラ・ロッカ、ステファニア・サンドレッリ、レオポルド・トリエステ
- 監督ディーノ・リージ、音楽リズ・オルトラーニ
- 脚本ディーノ・リージ、エットーレ・スコラ、ルッジェーロ・マッカリ
- 出演ヴィットリオ・ガスマン、ジャン=ルイ・トランティニャン
- 監督マルコ・フェレーリ、音楽テオ・ウズエリ
- 原案ゴッフレード・パリーゼ、脚本ラファエル・アスコナ、マルコ・フェレーリ、脚本協力ディエゴ・ファッブリ、パスクァーレ・フェスタ・カンパニーレ、マッシモ・フランチオーザ
- 出演ウーゴ・トニャッツィ、マリナ・ヴラディ
- 監督ディーノ・リージ、音楽アルマンド・トロヴァヨーリ
- 脚本アジェノーレ・インクロッチ、ルッジェーロ・マッカリ、エリオ・ペトリ、ディーノ・リージ、フリオ・スカルペッリ、エットーレ・スコラ
- 出演ウーゴ・トニャッツィ、ヴィットリオ・ガスマン
- 監督ピエトロ・ジェルミ、音楽カルロ・ルスティケッリ
- 脚本ピエトロ・ジェルミ、アジェノーレ・インクロッチ、フリオ・スカルペッリ、ルチアーノ・ヴィンチェンツォーニ
- 出演サーロ・ウルツィ、レオポルド・トリエステ、ステファニア・サンドレッリ
- 監督ピエトロ・ジェルミ、音楽カルロ・ルスティケッリ
- 脚本ピエトロ・ジェルミ、アージェ=スカルペッリ、ルチアーノ・ヴィンチェンツォーニ
- 出演ヴィルナ・リージ、ガストーネ・モスキン
- 監督パスクァーレ・フェスタ・カンパニーレ、音楽リズ・オルトラーニ
- 原作ルチアーノ・ビアンチャルディ、脚本パスクァーレ・フェスタ・カンパニーレ
- 出演ラウラ・アントネッリ、ランド・ブッツァンカ
- パンとチョコラータ Pane e cioccolata 1973年
- 監督フランコ・ブルザーティ、音楽ダニエレ・パトゥッキ
- 脚本フランコ・ブルザーティ、ジャジャ・フィアストリ、ニーノ・マンフレディ
- 出演ニーノ・マンフレディ、アンナ・カリーナ
- あんなに愛しあったのに C'eravamo tanto amati 1974年
- 監督エットーレ・スコラ、音楽アルマンド・トロヴァヨーリ
- 脚本アージェ=スカルペッリ、エットーレ・スコラ
- 出演ヴィットリオ・ガスマン、ニーノ・マンフレディ、ステファニア・サンドレッリ
- 私の友だち Amici miei 1975年
- 監督マリオ・モニチェッリ、音楽カルロ・ルスティケッリ
- 脚本ピエトロ・ジェルミ、レオナルド・ベンヴェヌーティ、ピエロ・デ・ベルナルディ、トゥリオ・ピネリ
- 出演ウーゴ・トニャッツィ、ガストーネ・モスキン、フィリップ・ノワレ、アドルフォ・チェリ
関連事項
- ネオレアリズモ
- ネオレアリズモ・ローザ (it:Neorealismo rosa)
- it:Commedia erotica all'italiana
- 第67回ヴェネツィア国際映画祭#イタリアコメディ回顧展
- マリアンジェラ・メラート (en:Mariangela Melato)
- ピエロ・ウミリアーニ (en:Piero Umiliani)
- アンジェロ・フランチェスコ・ラヴァニーノ (en:Angelo Francesco Lavagnino)
- テオ・ウズエリ (it:Teo Usuelli)
- カルロ・サヴィーナ (it:Carlo Savina)
- アージェ=スカルペッリ - アジェノーレ・インクロッチ(en:Agenore Incrocci)、フリオ・スカルペッリ(en:Furio Scarpelli)
参考文献
- 『イタリア映画史入門 1905 - 2003』 : ジャン・ピエロ・ブルネッタ、訳川本英明、鳥影社、2008年7月 ISBN 4862651445
註
- ^ 同作自体は「イタリア式コメディ」とみなされる作品ではない。
- ^ it:Commedia all'italiana#Alcune opere rappresentativeから。
- ^ en:Commedia all'italiana#Notable filmsを参照。
外部リンク
- イタリア式コメディのページへのリンク