がん化・奇形腫の形成
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/15 17:13 UTC 版)
「人工多能性幹細胞」の記事における「がん化・奇形腫の形成」の解説
iPS細胞に於けるがん化の懸念は、少なくともタイプが2つ想定される。ひとつは初期化因子の導入に伴う遺伝子異常、もう一つは分化しきれないままに、万能性を残した細胞の残存による奇形腫(テラトーマ)の形成である。マウスの実験において表面化した最大の懸念は、iPS細胞のがん化であった。iPS細胞の分化能力を調べるためにiPS細胞をマウス胚盤胞へ導入した胚を偽妊娠マウスに着床させ、キメラマウスを作製したところ、およそ20%の個体においてがんの形成が認められた。これはES細胞を用いた同様の実験よりも有意に高い数値であった。この原因は、iPS細胞を樹立するのに発がん関連遺伝子であるc-Mycを使用している点と、遺伝子導入の際に使用しているレトロウイルスは染色体内のランダムな位置に遺伝子を導入するため、元々染色体内にある遺伝子に変異が起こり、内在性発がん遺伝子の活性化を引き起こしやすい点が考えられた。 このため、iPS細胞を作出するのに、がん遺伝子を使わない手法の開発が多くのグループにより進められている。2007年12月には、c-Mycを除くOct3/4・Sox2・Klf4の3因子だけでも、マウス・ヒトともにiPS細胞の樹立が可能であることが山中らによって示され、iPS細胞が癌化するのを抑えるのに成功した。ほぼ同時にヤニッシュらのグループも同様の実験にマウスで成功している。しかし、作出効率が極めて低下するとの問題があり、効率を改善する手法の開発が進められている。2011年6月9日、Oct3/4・Sox2・Klf4の3因子にGlis1という遺伝子を加えることで、c-Mycを加えた時と同様の作製効率となる上に癌化するような不完全なiPS細胞の増殖も防ぐという研究が山中らによって発表されている。 また、レトロウイルスを用いずiPS細胞を作出する手法の開発も進められている。慶應義塾大学医師の福田恵一らのグループではTリンパ球にセンダイウイルスを導入する方法を報告している。2009年3月には、英エディンバラ大学の梶圭介グループリーダーらにより、ウイルスを使わないでiPS細胞を作製する方法が発表された。 他にも、プラスミドと呼ばれる環状のDNAをベクターとして用いるという方法を、2008年、京都大学iPS細胞研究所の沖田圭介らのグループが発表した。この方法の場合、導入した遺伝子が染色体に取り込まれることが無いため、ウイルスベクターを用いる方法と比べ安全性が高い。しかし、iPS細胞生成の効率が低いことが課題だった。そこで彼らは、プラスミドを使用する方法を更に改良し、2011年4月には細胞内で自律的に複製されるエピソーマル・プラスミドを使用し、加えて初期化因子としてOct3/4、Sox2、klf4、lin28、L-Myc、p53shRNAの6つの因子を使うことで、iPS細胞の作製効率を高める事に成功した。 さらに、体細胞に分化する過程で生じた変異が蓄積することも明らかになっており、iPS細胞の作出に用いた体細胞核にも何らかの変異が生じている可能性がある。この場合、がん化に限らず、様々な疾患等のリスクになり得ることが指摘されている。
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