『大学』の再解釈
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/03 03:38 UTC 版)
宋明理学において四書は非常に重視された経書である。このうち、『大学』は、宋以後著しく経書中の地位が上昇し、且つ朱子と王陽明で解釈が著しく分かれた。以下、主な朱子学との相違を記す。 テクスト朱子学: 朱子は大きく『大学』を改訂した。朱子以前より『大学』は文章や字句が並べ間違えられ、あるいは抜けていると言われていたが、それを改めたのが『大学章句』である。『大学章句』は程顥・程頤のテクスト批評を継承し、朱子が完成させたもので、脱落したと思われる箇所は朱子が書き足している。 陽明学: 王陽明は朱子学以前のテクストをそのまま使用した。ただし、王陽明の序を付したものを『古本大学』という。 「大学」という言葉の意味朱子学: 大学を「大人の学問」と規定する。大人は成人の意である。 陽明学: 小人に対する大人、すなわち「君子の学問」と規定する。小人は得の無い者の意である。 三綱領の「親民」三綱領とは『大学』における三つの総括的な主題で、『大学』はこの主題を説明するためにあるといってもよい。その二番目にあたる「親民」の解釈をめぐっても朱子と王陽明は大きく異なる。 朱子学: 朱子は「親」を「新」と読み替え、「民を新たにす」、つまり「自分自身の明徳を明らかにした君子が、他者にまでそれを及ぼし革新する」の様に解した。 陽明学: 王陽明は素直に「民を親しむ」と読む。 八条目の「.mw-parser-output ruby.large{font-size:250%}.mw-parser-output ruby.large>rt,.mw-parser-output ruby.large>rtc{font-size:.3em}格物致知(かくぶつちち)」八条目とは三綱領の細目で「格物」「致知」「誠意」「正心」「修身」「斉家」「治国」「平天下」の八つである。 朱子は読書・修養によって聖人の高みに至るとし、三綱領に置かれた「格物致知」に根拠を求めた。つまり、「物に格(いた)る」(事物に即して理を極める、格=至)とした。 一方、王陽明はこの部分を再解釈し「物を格(ただ)す」(物=事、格=正)とした。朱子においては「知」は道徳知と知識知が未可分であったが、陽明は専ら道徳知として理解する。「事」とは心の動きである「意」の所在であって、「知」とは良知を指す。「格物致知」を、「意」を正すことにより良知を発揮することとしたのである。端的に言えば心の不正を正すと王陽明は再解釈した。 「誠意」の重視朱子学: 朱子学で最も要とされたのは、上記の「格物致知」である。 陽明学: 陽明学で最も要とされたのは、「誠意」である(「大学の要は、意を誠にするのみ」)。ただし、陽明学の観点から言えば、意が誠ならば、良知は致されており、また、物も格されている。つまり「物を格し、知を致す」とは「意を誠にする」ことである。
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