F-5 (戦闘機) 派生型

F-5 (戦闘機)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/05 10:06 UTC 版)

派生型

F-5A/B系列

RF-5A
カナディア製のVF-5A。
胴体側面の補助空気取り入れ口に注目。
SF-5B
F-5A
初期型。エンジンはJ85-GE-13(ドライ推力:1,234kg、アフターバーナー使用時推力:1,850kg)を2基搭載。
RF-5A
F-5Aの偵察機型。機首にカメラを搭載。武装はF-5Aとまったく同一のため、そのままでもF-5Aと同等の空対空戦闘/空対地攻撃能力を有するほか、機首の換装でF-5Aに戻すことも可能。イラントルコ南ベトナムタイギリシャ韓国モロッコが採用。
F-5B
F-5Aの複座練習攻撃機型。T-38の機首を流用しているため、機関砲を装備していないが、それ以外のサイドワインダー、爆弾、ロケット弾の運用能力はF-5Aと同等。
F-5A導入国で採用されただけでなく、F-5Eの初期導入国のうちでF-5Aを導入していなかったブラジルサウジアラビアも、F-5Eへの転換訓練用にF-5Bを導入している。
F-5C
スコシ・タイガー作戦のために改修されたF-5A。ただし、公式の形式名ではなく、部内での「通称」とされている。作戦名から「スコシ・タイガー」と呼ばれることもある。
F-5A(G)/B(G)、RF-5A(G)
ノルウェー空軍向けのF-5A/BおよびRF-5A。寒冷地での運用のため、JATOアレスティング・フックキャノピーおよび空気取入口の除氷装置を追加。
SF-5A/B、SRF-5A
スペインCASAでライセンス生産されたF-5A/BおよびRF-5A。
機体そのものは後述するカナディア製と異なり、ノースロップ製とまったく同一であるほか、エンジンもアメリカからの輸入品である。
初飛行は1968年5月22日。複座型のSF-5B(AE.9)34機と、単座型のSF-5A(A.9)と単座偵察型のSRF-5A(AR.9)が18機ずつの、計70機が製造された。
CF-5A/D、CF-5A(R)英語版
カナダカナディアライセンス生産されたF-5A/B。CF-5A(R)はRF-5Aに準じた偵察機型。カナダ空軍ではCF-116、ベネズエラ空軍ではVF-5と呼称される。
基本的にはノルウェー空軍仕様のF-5A/Bと同じであるが、以下の改良が加えられた。
  1. エンジンは、オリジナルのF-5A/Bより高出力のJ85-CAN-15(ドライ推力:1,361kg、アフターバーナー使用時推力:1,950kg。オレンダ・エンジンズでライセンス生産)に変更。これに伴い、エンジン直前の後部胴体側面にルーバー開閉式の補助空気取り入れ口を追加。
  2. 前脚を33cm延長する機能を追加。これにより離陸時に約3°の迎え角を付け、離陸滑走距離を20%ほど短縮。
  3. フェランティ製のリード・コンピュータ式照準器を装備。
  4. 機体右側面に、ボルト止めの空中受油プローブを追加(取り外し可能)。
初飛行は1968年5月4日。単座型のCF-5Aが89機、複座型のCF-5Dが46機の、計135機が製造された。
カナダ以外ではベネズエラが導入したほか、カナダ空軍の中古機をボツワナ国防軍が導入している。
NF-5A/B
オランダ空軍向けにカナディアが製造したF-5A/B。オランダのフォッカーで製造したコンポーネントを、カナディアに持ち込んで組み立てる方式で生産された。
基本的にはカナダ空軍仕様のCF-5と同一仕様であるが、照準器は旧式の光学式照準器に戻し、ドップラー航法装置を追加。さらに主翼構造を強化し、前縁フラップを自動空戦フラップとして使えるようにしたほか、主翼下内側のハードポイントに275ガロン(1,041リットル)増槽を装着可能とした。
初飛行は1969年3月24日。単座型のNF-5Aが75機、複座型のNF-5Bが30機の、計105機が製造された。
オランダ空軍を退役した機体の一部は、ギリシャ空軍トルコ空軍に引き渡されており、トルコ空軍の曲技飛行隊ターキッシュ・スターズ英語版トルコ語版」でも運用されている。

F-5E/F系列

フィリピン空軍のF-5A(手前左)と、アメリカ空軍のF-5E(手前右)
空気取り入れ口の大きさや、主翼のストレーキの形状に注目。
RF-5E タイガーアイ
F-5N
F-5E
F-5Aの改良型。1972年8月11日に初飛行。
レーダーの装備を中心に、カナディア製のCF-5/NF-5やノルウェー空軍向けのF-5A(G)/B(G)で取り入れられた改良点も導入されている。
  1. エンジンをさらに強力なJ85-GE-21(ドライ推力:1,588kg、アフターバーナー使用時推力:2,268kg)に変更。これに伴い空気取り入れ口の面積を20%拡大したほか、胴体側面にCF-5/NF-5と同型のルーバー型開閉式補助空気取り入れ口を追加。
  2. AN/APQ-153 空対空レーダー(後期型は改良型のAN/APQ-159英語版)を装備。これに伴い、照準器もAN/ASG-29 LCOSS(Lead Computing Optical Sight System)を装備。
  3. 胴体中央部を38.1cm延長し、左右幅も41cm拡大。さらにコクピット直後から垂直尾翼付け根部までのドーサルスパインを胴体と一体化し、燃料搭載量を増加。これに伴い、コクピット直後から伸びていたドーサルスパインと胴体中央部の段差も、コクピットから少し離れた部分で滑らかに成形されており、F-5Eの外見上の特徴の一つとなっている。
  4. 翼面荷重をF-5Aと同等にするため、重量増加に合わせて主翼弦長を付け根部分で14cm拡大。主にストレーキ(LEX)の部分の面積が拡大されたため、ストレーキの前縁は二段後退角が付いた形状となっている。
  5. CF-5/NF-5やF-5A(G)/B(G)で導入された、伸縮式前脚やアレスティング・フック、空気取り入れ口や前面風防の除氷装置などを追加したほか、フラップを自動空戦フラップとして運用可能とした。
RF-5E
RF-5Aと同様、機首のレーダーおよびコーンを撤去し、代わりにカメラを搭載した専用コーンを装着した簡易偵察型。ただし、小さすぎて新型の偵察装置を搭載できないという問題点があり、サウジアラビアが後述するタイガーアイ配備までの暫定型として運用したのみ。
RF-5E タイガーアイ(Tigereye)
F-5Eの偵察機型。機首を20cm延長し、レーダーと右側の機関砲を撤去して設置した大型カメラ室にカメラを搭載。ミッションに応じて様々なカメラに換装できる。1979年1月29日に初飛行。
ノースロップ社は「RF-4Eの60%のライフサイクルコストで90%の能力を発揮できる」と謳っていたが、価格がF-5Eの1.5倍と高価であったため、サウジアラビア、マレーシアシンガポール台湾でのみ採用された。内ノースロップ製の新造機はサウジアラビア(10機)とマレーシア(2機)のみで、シンガポール(8機)と台湾(7機)の機体は、シンガポールのSTアエロスペース英語版がF-5Eから改造したものである[2]。台湾では「タイガーゲイザー(Tigergazer)」と呼ばれる[2]
F-5F
F-5Eの複座練習戦闘機型。複座での運用に対応したAN/APQ-157 レーダーを搭載し、機関砲1門(弾数は、140発に半減)を固定装備。1974年9月25日に初飛行。
F-5Eを元に、前部座席やレーダー、機関砲を搭載するスペースを確保するため、機首部分を107cm前方に延長しているほか、主翼上面に境界層板(フェンス)を装着している。
F-5N
スイスで余剰となったF-5Eがアメリカ海軍アグレッサーとして再就役した際の呼称。機関砲を取り外し、レーダーをAN/APG-69に換装。
中正号戦闘機
中華民国台湾)のAIDC(航空工業発展センター、現在の漢翔航空工業)でライセンス生産されたF-5E/F。「中正」は蔣介石の学号に由来する。
1973年2月9日に「ピース・タイガー」の計画名でF-5E 100機のライセンス契約が結ばれたのをきっかけに、以後6次にわたる「ピース・タイガー」計画の下、1986年までに242機のF-5Eと66機のF-5Fがライセンス生産された[3]
また、1990年代半ばに7機のF-5EがシンガポールのSTアエロスペース英語版においてRF-5Eタイガーアイに改造された。最初のRF-5Eは1997年8月に中華民国空軍に引き渡され、RF-104Gの後継として第12偵察中隊(12th TRS)に配備された[2]

近代化改修型

シンガポール空軍のF-5S
ブラジル空軍のF-5EM
右舷機関砲が撤去され、機関砲の砲口があった場所に電子機器冷却用の空気取入口を設けている。
チリ空軍F-5E タイガーIII
NASAのSSBD用に改造されたF-5E
F-5S/T、RF-5S
シンガポール空軍の近代化改修型F-5E/FおよびRF-5E。右側の機関砲を撤去してレーダーをグリフォF英語版多モードレーダーに換装し、AMRAAMおよびパイソン空対空ミサイルの運用能力を付加。HUD多機能ディスプレイHOTAS概念慣性航法装置などが導入された他、機動性強化のため主翼のストレーキも拡大されている。
F-5EM/FM
ブラジル空軍の近代化改修型F-5E/F。レーダーをF-5S/Tと同じくグリフォFに換装したため右側の機関砲が撤去されている。レーザー誘導爆弾ダービー空対空ミサイルの運用能力を持ち、コックピットは完全にグラスコックピット化されている。
タイガーIII
イスラエルの協力で改修された、チリ空軍の近代化改修型F-5E/F。レーダーはラビ用に開発されたものを改良したEL/M-2032に換装。右側の機関砲は撤去したとされるが、外見上は撤去されていないように見える。イスラエル製の偵察ポッドやパイソン、ダービーの運用が可能。HUD、多機能ディスプレイ、HOTAS概念などが導入された点はF-5S/Tと同様。
タイガーIV
ノースロップ社が独自に開発したF-5Eの近代化改修デモンストレーター。右側の機関砲を撤去してレーダーをF-16 MLUと同じAN/APG-66(V)に換装し、機体構造を強化。HUD、多機能ディスプレイ、HOTAS概念などが導入された点はF-5S/Tと同様。台湾でも「タイガー2000」の名称で同仕様に準じた改修を計画していたが中止されている。
F-5T ティグリス(Tigris)
イスラエルの協力で改修された、タイ空軍の近代化改修型F-5E。形式番号こそ同じだがシンガポール空軍のF-5Tとは別物。レーダーはタイガーIIIと同じEL/M-2032に換装されたが、視程外戦闘能力は付加されていない。後にダービー空対空ミサイルの運用能力や戦術データリンクの装備など更なる改修が行われF-5TH スーパーティグリスと呼ばれるようになっている。

その他の派生型

F-5G(F-20)
F-5のエンジンをJ85の双発から、F/A-18 ホーネット向けの新型エンジンであるF404 ターボファンエンジンの単発に変更し、電子機器を近代化した機体。台湾F-16の導入を検討した際にF-16/79(F-16 ファイティング・ファルコンのデチューン型、いわゆる「モンキーモデル」)とともに提案されたが、台湾の要求能力を満たしていないとされたことや、アメリカ合衆国による台湾への兵器輸出禁止(実際は自粛に近かった)を理由に不採用となった。その後、台湾はF-16などをベースに、国産戦闘機(ただしエンジンはアメリカ企業製)の経国を開発した。同国と対立する中国を刺激しないよう、あえて新形式とせずF-5の派生型としての命名であったが、台湾への輸出を断念した時点で新形式のF-20と改名した。
X-29
グラマン社がF-5他の部品より製造した前進翼実験機。
アザラフシュ(Azarakhsh)
イランのHESAがF-5をベースに開発した戦闘機。
サーエゲ(Ṣā‘eqeh)
アザラフシュを更に発展させた、イランの自称"国産戦闘機"。F-5を強引に双垂直尾翼化したような外観を持つ。飛行性能、エンジン、武装、電子機器などの詳細は一切非公開だが、空気取り入れ口やそこからエンジンに繋がるダクトが全く変更されていないことから、エンジンはF-5のものをそのまま用いていると思われる。
コウサル(Kowsar)
イランが2018年8月21日に「初めて自国で製造」したとして公開した、自称第4世代戦闘機[4][5]
その他
NASAは、ソニックブーム低減のためのSSBD(低ソニック・ブーム設計手法飛行実証)英語版プログラムに、特殊改造を施したF-5Eを使用している。

注釈

  1. ^ デルタ翼を採用すれば、翼幅荷重は大きくなっても、翼面積は大きくとれるので翼面荷重は小さくなり、こちらの場合は主に高速域での運動性が向上する。本機のような直線翼に近い主翼形式とは、一長一短である
  2. ^ 理論的にジェットエンジンは2乗3乗の法則に従って小型であるほど推力重量比が大きくなる。あるジェットエンジンを、同じ技術を用いたまま寸法比をそのままにサイズを2分の1にすると、開口部の面積が4分の1になる。つまり推力もおおよそ4分の1になる。一方で重量は8分の1になり、推力が4分の1で重量が8分の1なので、結果として推力重量比は2倍になる
  3. ^ F-5A/Bでは両主翼端に50ガロン増槽を装着することもできるが、F-5E/Fではミサイル発射レールが固定されている。
  4. ^ F-86の後継にあたる超音速ジェット戦闘機センチュリーシリーズの嚆矢として知られるF-100は性能面ではMiG-19に比肩したが、戦闘爆撃機としての性格が強かったため途上国向けとしては攻撃力過大で、かつチタニウムを多用したため性能の割に高価だった。 F-101は長距離侵攻戦闘機として開発された大型戦闘機、F-102およびその改良型のF-106は当時の高度な電子機器を搭載する要撃機F-104はマッハ2級の快速と先進的な武装を誇った高性能機、F-105は戦闘と爆撃を高いレベルで両立する万能機であり、どれも中小国・途上国向けとしては過剰性能・高価格・取扱困難であった。以上の理由から、これらの機体はNATO加盟国を筆頭とする先進国中進国以上の有力な同盟国への供与、あるいは性能的に陳腐化した後の中古機の輸出に限られていた。最新鋭のF-105F-106は機密度も高く、ある程度の実力を持った同盟国にすら輸出されなかった。ちなみに同時代のソ連も、高度な電子機器を持つ高性能機Su-9は自国のみで運用し、同盟国には供与しなかった
  5. ^ パキスタンにおいてもF-5Aが新型戦闘機の候補として挙げられたが、フランス製のミラージュIIIに敗北している。しかし、ミラージュIIIは廉価な戦闘機とは言えず、当時は追加購入が困難であったこと(後に中古機をオーストラリアレバノンから購入)から、より低コストでシンプルなミラージュ5J-6が導入される事となった
  6. ^ 英語のlittleには「少し」という意味と「小さい、可愛い」という2つの意味があり、そこからの誤訳である。本来の意図としては「少し虎」ではなく「小さな虎」であった。また、「少し」のローマ字表記(ヘボン式)は本来"Sukoshi"となる筈だが、"u"が抜けて"Skoshi tiger"となっている。Sukoshiのu音は、とくに標準日本語においては無声化されやすいため、日本語の母語話者以外には聴き取れない場合も多い
  7. ^ セミアクティブ式レーダー誘導ミサイルを装備できないという点はMiG-21も同様であり、かつレーダーの搭載方法から探知範囲が極めて小さいという欠点を抱えていた
  8. ^ 鮫の鼻先、の意。扁平な機首形状で、空気抵抗を減らし揚力を生む効果がある
  9. ^ 1982年にアメリカからのFMSでF-5E 10機とF-5F 2機を訓練課程や整備機材、兵装と共に11億ドルで導入した。2機のF-5Eを事故で失い、2019年時点で6機が稼働状態にある[6]
  10. ^ ユーロファイター タイフーンが導入されるまでの間、スイスからリースして運用
  11. ^ 第三次印パ戦争時にリビアから数機を供与。リビア側はパイロットを派遣している。
  12. ^ ホー・チ・ミン作戦サイゴン陥落に伴い鹵獲した旧南ベトナム空軍機を運用。
  13. ^ ベトナムから旧南ベトナム空軍のF-5Eを数機提供された。

出典

  1. ^ Fred Anderson (2016). Northrop: An Aeronautical History. Wipf and Stock. pp. 173-177. ISBN 978-1532603563 
  2. ^ a b c TaiwanAirPower.org - Northrop / STAe RF-5E Tigergazer
  3. ^ TaiwanAirPower.org - Northrop F-5E/F Tiger II
  4. ^ イラン、初の国産戦闘機「コウサル」公開 - AFP通信
  5. ^ イラン、「初の国産戦闘機」公開 国防への備えを誇示 - CNN
  6. ^ 「FMA F-5E/F TigerIIs メキシコ空軍唯一の戦闘機F-5E/FタイガーII」『航空ファン』通巻807号(2020年3月号)文林堂 P.30-33





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