国鉄ED79形電気機関車 国鉄ED79形電気機関車の概要

国鉄ED79形電気機関車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/01 09:46 UTC 版)

ED79形電気機関車
基本情報
運用者 日本国有鉄道
北海道旅客鉄道
日本貨物鉄道
種車 ED75形(改造車)
製造年 1971年 - 1976年(改造種車)
1989年(新造車)
製造数 10両(新造車)
改造年 1986年 - 1987年
改造数 34両
引退 2016年
投入先 津軽海峡線
主要諸元
軸配置 B-B
軌間 1,067 mm
電気方式 単相交流20,000V (50Hz)
架空電車線方式
全長 14,300 mm
台車 DT129T形・DT129U形
動力伝達方式 一段歯車減速吊り掛け駆動方式
主電動機 MT52系 直流直巻電動機×4基
歯車比 18:69 (3.83)
制御方式 無電弧低圧タップ制御
制動装置 EL14AS形自動空気ブレーキ
回生ブレーキ(基本番台のみ)
保安装置 ATC-LATS-SnATS-DN
最高速度 110 km/h (基本・100番台)
100 km/h
定格速度 56.5 km/h
定格出力 1,900 kW
定格引張力 12,160 kg
番台区分による差異あり。詳細は主要諸元を参照のこと。
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概要

国鉄が最後に開発した電気機関車で、青函トンネルを有する津軽海峡線区間の開業に伴う同区間の専用機関車として計画され、運用の置き換えで捻出されたED75形電気機関車700番台から34両が改造された。連続勾配・多湿・信号方式など、区間特有の条件に対応した種々の機能が付加され、費用対効果の観点から、本務機用(基本番台)の他に補機専用として最小限の改造を施工した車両(100番台)が設定された。改造は国鉄時代から開始され、1987年(昭和62年)4月の国鉄分割民営化に伴い北海道旅客鉄道(JR北海道)が全機を承継した。1988年(昭和63年)3月の青函トンネル開通以降、北海道新幹線が開業する2016年平成28年)3月まで旅客列車貨物列車に使用されていた。

1989年平成元年)には貨物列車増発ため、JR貨物が50番台10両を新規製作した[注 1]。。これは基本番台と概ね同一仕様の車両で、津軽海峡線区間の貨物列車に重連で使用されていた。

投入背景

青函トンネルの運用方法については、当初新幹線を通すという計画で始められており、同トンネルを運行する貨物列車に関しても160 km/h程度の高速化が不可欠であることから、大容量(大出力)電気機関車構想が存在した[1][2]。さらに、長大海底トンネルという特殊性から信頼性の高いVVVFインバータ制御による三相誘導電動機を用いた駆動方式の開発が行われ、インバータ、台車主電動機試作から台上試験まで行われたが、開発は中断した[2]

その後、同トンネルの運用方法が変更されて輸送条件が在来線と大きく変わらないこととなり、在来機関車の性能でも対応が可能となった[2]。また、1984年(昭和59年)2月1日ダイヤ改正で貨物列車の大幅な削減が行われ、電気機関車の余剰が発生することから、本形式はこれらの改造により充当されることとなった[2]。種車としては、前述のようにED75形700番台とされた。これは、

  • 経年が10年程度であり、交流電気機関車の中では最も新しい。
  • 屋根上の特別高圧機器が機械室内に収納されているため、津軽海峡線で必要となる耐雪害・耐塩害性を有する。
  • トンネル内交交セクションに関係して集電装置取付位置が先頭輪軸より後位でなければならないが、それを満足している[3]

ことが理由とされた[2]

構造

2軸ボギー台車を2組装備し、4軸の全てを動力軸とする「D型」機関車(軸配置 Bo - Bo)で、この基本構成は本形式の種車ED75形と同一である。

台枠と車体は種車のものを再用し、外部機器の絶縁強化・運転台側窓のアルミサッシ化と引き違い化など、常時高湿度環境への対策がなされる。基本番台には屋根上に新設した抵抗器を収納するカバーを設ける。

連続勾配 12 の青函トンネルを走行するため、降坂対応としてブレーキ管圧力制御装置を追加したほか、交流回生ブレーキを搭載する。このため無電弧低圧タップ切換方式はそのままに、基本番台の制御装置は種車の磁気増幅器+シリコン整流器からサイリスタに換装されている。主変圧器と低圧タップ切換器は種車のものをそのまま使用し、磁気増幅器とシリコン整流器を撤去して、その空きスペースに主サイリスタ整流器、界磁用変圧器、高速遮断器力行制動転換器などを搭載している。主サイリスタ整流器は位相制御および無電弧タップ切替用の逆並列サイリスタの4器に、回生インバーター用の単相サイリスタブリッジ8器、回生時の電流制御を行う界磁制御用サイリスタ2器とフリーホイールダイオード1器から成り立っている。単相サイリスタブリッジ8器は、力行時に全通制御を行いダイオードとして機能させている。サイリスタが二分されているED76形500番台ED78形EF71形と異なり、本形式ではすべての機能が一基に集約されている。

基本番台と100番台との制御方式の差異に起因する走行特性差を極力解消させるため、基本番台では屋根上に安定抵抗器を設置する。12 ‰ の連続下り勾配において総重量 1,000 t貨物列車を牽引する条件下でも、抑速は機関車1両で可能であることから、本務機となる基本番台のみに回生ブレーキを装備している。

台車は種車の仮想心皿台車 DT129 を再用し、駆動装置も種車と同一の吊り掛け駆動方式である。主電動機は種車の直流直巻電動機 MT52 系を再用し、転がり抵抗低減のため動輪側の支えとなる平軸受けコロ軸受に変更した MT52C 形である[注 2]。最高速度 110 km/h 運転対応のため、歯車比は 1:4.44 から 1:3.83 に変更された。歯車比の変更に伴う粘着引張力の減少は軸重を種車の16.8 t から17 tに増大させて填補した。軸重増大要因は、基本番台は搭載機器増加による重量増加、100番台は基本番台との走行性能を均衡させるために搭載した死重である。

集電装置は種車の下枠交差型パンタグラフ PS103 形をそのまま使用し、通常は2エンド側(函館側)のみ常用する[注 3]

保安装置はATS-SN海峡線専用の ATC-L 型を搭載する。第1エンド(青森側)の ATC 受信器は上り列車用 L 信号のみ、第2エンド(函館側)の ATC 受信器は下り列車用 U 信号のみを専用に受信する設定であり、各エンドの運転台は各々運転方向が限定される。補機専用の100番台は ATC 受電器のみを2エンド側に設置し、本線で先頭に出ない1エンド側には ATC を設置しない。重連運転で連結面となる基本番台2エンド側 および 100番台1エンド側には、相互を接続する青函 ATC 受電器専用の引き通しジャンパ連結器を装備する。これら設備仕様のため、基本番台・100番台ともジャンバ連結器は「片渡り構造」である。

重連総括制御は基本番台+100番台のみならず、基本番台または50番台が最低1両あれば可能な構造で、車両運用の都合から、実際に基本番台のみの重連や50番台+基本番台の重連で貨物列車に使用することもあった。


注釈

  1. ^ この年はEF66型100番台EF81形500番台も増備されている
  2. ^ MT52Cは1991年、1992年に増備された関門トンネル用のEF81形450番台でも採用された。
  3. ^ 国鉄時代以来、交流電化区間で運転される電気機関車は、進行方向後ろ寄りのパンタグラフのみを使うことになっており、北海道でも1968年(昭和43年)に函館本線が交流電化された際に投入された、試作機のED75形501と量産形のED76形500番台は同様の扱いであった。しかし、1975年(昭和50年)頃から2エンド側(上り、小樽方)を常用、1エンド側(下り、旭川方)を予備とする扱いに変わっており、ED79形も函館本線全体で見ると同様の扱いとなっている。
  4. ^ a b c 1987年3月1日以降は秋田運転所秋田支所
  5. ^ 「ドラえもん海底列車」は2003年以降781系電車を用いて運転された。
  6. ^ JR旅客6社のうち、発足以来電気機関車を保有したことがないJR四国を除く5社で電気機関車を廃絶したのは、2008年(平成20年)のJR東海、2012年(平成24年)のJR九州に次いで3例目となる。

出典

  1. ^ 『車両技術』180号 日本鉄道車輛工業会 1987年 p.3
  2. ^ a b c d e 『車両技術』180号 日本鉄道車輛工業会 1987年 p.4
  3. ^ 『車両技術』180号 日本鉄道車輛工業会 1987年 p.5
  4. ^ 鉄道ファン1990年10月号75p、「近代形電機転身の記録6」より。
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 『鉄道ピクトリアル』通巻712号、p.62
  6. ^ a b c d e f 『鉄道ファン』通巻579号、p.33
  7. ^ a b c d e f g 『鉄道ファン』通巻519号、p.84
  8. ^ 『鉄道ファン』通巻484号、p.87
  9. ^ 『鉄道ファン』通巻496号、p.86
  10. ^ a b 『車両技術』187号 日本鉄道車輛工業会 1989年 p.9
  11. ^ 『車両技術』187号 日本鉄道車輛工業会 1989年 p.8
  12. ^ 『車両技術』187号 日本鉄道車輛工業会 1989年 p.4
  13. ^ 『鉄道ファン』通巻471号、p.83
  14. ^ a b 『鉄道ピクトリアル』通巻712号、p.63
  15. ^ a b 「JR 各社の車両配置表 平成21年4月1日現在」 - 『鉄道ファン』 2009年7月号 No.579[要ページ番号]
  16. ^ 鉄道ファン編集部、2016、「北海道旅客鉄道(本誌2016年7月号特別付録 補遺)」、『鉄道ファン』56巻(通巻665号(2016年9月号))、交友社 p. 208(JR旅客会社の車両配置表・データバンク2016、補遺)
  17. ^ 鉄道ファン編集部、2016、「JR旅客会社の車両配置表」、『鉄道ファン』56巻(通巻663号(2016年7月号))、交友社 p. 5(別冊付録、北海道旅客鉄道・機関車配置分)
  18. ^ a b 『鉄道ファン』2007年4月号、交友社、2007年、p.127
  19. ^ 鉄道貨物協会『2015 JR貨物時刻表』p.220
  20. ^ 電気者研究会『鉄道ピクトリアル 2015年10月臨時増刊号 鉄道車両年鑑 2015年版』p.72
  21. ^ 『鉄道ピクトリアル 2015年10月臨時増刊号 鉄道車両年鑑 2016年版』p.58
  22. ^ 2016年3月時点で五稜郭機関区から本形式の配置がなくなっている。出典:鉄道貨物協会『2016 JR貨物時刻表』p.220


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