ライトノベル
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他ジャンルとの関係
一般向け展開
『十二国記』や『氷菓』、『おいしいコーヒーのいれ方』など、当初はライトノベルレーベルから刊行されたものを一般文芸として売り出しているものもある[注釈 7]。ライトノベルレーベルも一般層向けの戦略に力を入れ始めており、各レーベルはアニメ的イラストを入れないハードカバー作品(メディアワークス)や「イラストのないライトノベル」などの発売を行っている。
『十二国記』は少女向けレーベル「講談社X文庫ホワイトハート」から刊行されていたが、たとえ少女小説が装丁やキャラクターの書き方・会話文が男性向けレーベルのライトノベルと同じように見えたとしても、前述のように少女小説は一般文芸に近いレベルの書き方を要求されてきたため、こういった越境は決して不思議な現象ではない[40]。
最近ではライトノベルを読まない層にもライトノベルへの関心は広まっており、全国新聞や雑誌でもライトノベルの書評や特集が掲載されることもある[注釈 8]。
テレビドラマ化された『失踪HOLIDAY』や『メイド刑事』や『掟上今日子の備忘録』、映画化された『ブギーポップは笑わない』、テレビドラマ化された後に映画化された『半分の月がのぼる空』などのように、最近では実写化も目立つようになった。また、『All You Need Is Kill』は2014年にトム・クルーズ主演でハリウッドでの実写映画が公開。日本での邦題は『オール・ユー・ニード・イズ・キル』で、キャッチコピーには「日本原作、トム・クルーズ主演。」と銘打たれた。
単行本形式でのライトノベルの発表は、現在かなりの頻度で行われている[41]。
アスキー・メディアワークスは2009年冬に高年齢層向けの「メディアワークス文庫」を設立。当レーベルから刊行された三上延の『ビブリア古書堂の事件手帖』はベストセラーとなりドラマ化もされ、後にライト文芸と呼ばれる分野の代表作となった[42]。
2007年6月からは富士見書房がペーパーバックでのレーベルを開始した。
ファミ通文庫を擁するエンターブレインは、ファミ通文庫から出ていた桜庭一樹の『赤×ピンク』を角川文庫から新装版発売した。
2009年3月には『スレイヤーズ』、『涼宮ハルヒの憂鬱』、『鋼殻のレギオス』など角川系のライトノベルを小学生向けに読みやすくした作品や、いとうのいぢ、okama、鶴田謙二などの人気イラストレーターを起用した作品を含む「角川つばさ文庫」をグループ各社の協力出版形式で創刊した。
集英社も、小学生向けのライトノベルレーベルである「集英社みらい文庫」を2011年4月に刊行開始し、ジャンプJブックス、スーパーダッシュ文庫、コバルト文庫で反響の大きかった作品やオリジナル作品を出している。
早川書房はSF系の、東京創元社はミステリ系のライトノベル作家の作品を刊行している。早川書房は2003年開始のレーベル「次世代型作家のリアル・フィクション」(ハヤカワ文庫JA)で冲方丁、小川一水、桜坂洋、新城カズマなどSF系ライトノベル作家の作品を刊行した。また、野尻抱介の単行本刊行、『微睡みのセフィロト』や『大久保町シリーズ』、『ふわふわの泉』などライトノベルとして刊行された旧作の復刊、藤間千歳・瀬尾つかさ・野﨑まどらSF系の新鋭ライトノベル作家の新作を刊行していた。東京創元社はライトノベル作家としてデビューした桜庭一樹・米澤穂信の作品を刊行し、また谷原秋桜子のライトノベル作品を復刊、新作を刊行していた。表紙イラストには前嶋重機やミギー、竹岡美穂らライトノベル系のイラストレーターを起用していた。
2000年代後半には、桜庭一樹の直木賞、乙一、森川智喜の本格ミステリ大賞、冲方丁の本屋大賞、佐藤友哉の三島由紀夫賞、小野不由美、米澤穂信の山本周五郎賞などのように、ライトノベル出身でありながら一般の文学賞を受賞する者も増えたが、既存のライトノベルレーベルからは「卒業」扱いとなることが多く、必ずしもライトノベルの地位向上には繋がっていない。
一般作品のライトノベル化
角川スニーカー文庫や富士見ミステリー文庫は宮部みゆきの『ブレイブ・ストーリー』、綾辻行人の『Another』など、一般文芸で活躍する作家のライトノベル化などを行っている。
2010年代からは『ビブリア古書堂の事件手帖』や『珈琲店タレーランの事件簿』『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』など、ライトノベル作家を起用しイラストを前面に押し出した文芸作品が人気を博している。こうした一般文芸とライトノベルの中間に位置する作品群は「キャラノベ[43]」や「ライト文芸[44]」と称されており、メディアワークス文庫の他、富士見書房の富士見L文庫、新潮社の新潮文庫nex、集英社の集英社オレンジ文庫など大手出版社が続々と参入している。この他にも朝日新聞出版の朝日エアロ文庫、メディアファクトリーのMF文庫ダ・ヴィンチmewなどが存在する。また、角川ホラー文庫や宝島社文庫などのように、既存のレーベル内で刊行する会社もある。
ジャンルの枠を超えた作品
講談社では、1990年代末から講談社ノベルスを持つ文芸雑誌『メフィスト』で、ライトノベルと一般文芸の中間的な作品が掲載されることがあったが、2003年、そうした作品群を専門に扱う雑誌『ファウスト』が創刊された。
編集長の太田克史はライトノベル界隈から『ファウスト』を立ち上げた直接的な影響として、上遠野浩平のみを挙げており、それ以前に活躍していた水野良、神坂一、あかほりさとるなどの作品群とは一切関係がない事を明言している[45]。この背景には、先述の大塚英志が言及した「見えない文化大革命」が成功した結果、ライトノベルというジャンルにある種の「反知性主義」が蔓延したことから、カウンターとして創刊された経緯があり、大塚も太田のメンターとして活動していた。
レーベルでは2006年に創刊された講談社BOXがライトノベルとしての側面を持ち、西尾維新、奈須きのこ、竜騎士07などの作品が刊行されていた。これ以前から講談社ノベルスには、林田球や副島成記ら人気漫画家・イラストレーターを起用した作品が存在し、越前魔太郎『魔界探偵冥王星O』シリーズでは、舞城王太郎、乙一、入間人間、新城カズマらが参加して電撃文庫とのコラボレーション企画を行っている。
講談社BOXからは2010年に星海社が独立。2015年には講談社BOXを実質的に休刊し、講談社ノベルスの兄弟レーベルとなる講談社タイガを創刊した。また、古参の児童文学レーベルでライトノベル的作品がラインナップに含まれる青い鳥文庫や、小学生女児に特化したライトノベルレーベルのなかよし文庫も刊行している。
一方、新潮社や角川書店など、ライトノベル専門ではない大手出版社でもジャンルを超えた作家の作品に力を入れている。新潮社は人気漫画家のイラストを表紙にした作品の発売や、『図書館内乱』の表紙でのメディアワークスとのコラボレーション(新潮社から出版された同作者の『レインツリーの国』がメディアワークスから発売された『図書館内乱』の表紙に登場している)を行い、レーベル内レーベルとして新潮文庫Nexを創刊した。
角川書店の文芸系レーベルでも、積極的にライトノベル作家が書く他ジャンル作品を発売している。また、一般文芸誌『野性時代』『小説屋sari-sari』にも、桜庭一樹や有川浩などのライトノベル作家の作品を数多く載せている。
ライトノベルの販売戦略
現在のライトノベルはアニメ・ゲーム業界とはメディアミックスを通じて、事実上不可分と言えるほどに密接な関係を構築している。挿絵やコミカライズなどを多くは漫画家が担当しているため、漫画業界との関係は更に深い。コミカライズ・スピンオフ漫画の場合には原作とは異なる人物が担当するケースがほとんどだが、まれに『よくわかる現代魔法』(宮下未紀)や『GJ部』(あるや)のように原作挿絵担当が漫画版の執筆も担当するケースもある。
そのため、ライトノベルにしてもメディアミックス展開を販売戦略の主軸に据えており、長期の人気シリーズになっている作品についてはそのほとんどが、コミカライズ及びタイアップによりアニメ化やゲーム化をされている。この傾向は特に角川系ライトノベルレーベルの作品において顕著である。ゲーム化される作品も少なくない。例として1990年代に大ヒットした富士見書房の『スレイヤーズ』などがある。アニメ・漫画・ゲームを原作として小説化され、ライトノベルのレーベルから出版される逆パターンのケースも多い。
出版社の多くはメディアミックスを重視する販売戦略の一環として、大手チェーンのアニメショップや漫画専門店などの販売データを重視している。またこれらへの重点的な配本や販売キャンペーンを行うなど、配本の特定の書店チェーンへの偏りという意味では他の文芸ジャンルとは一線を画しており、むしろ漫画本の配本方式に近いものといえる。ライトノベルの主な購買層が漫画・アニメ世代であり、この種の店舗の主たる利用者とほぼ一致するため極めて大きな効果を上げている。
アスキー・メディアワークスは、売上げの多い書店、チェーン店を重点的に配本する販売店として指定し(電撃組と呼ばれる)、ある作家の前作の売り上げ数を次作の初回配本数とする、というシステムを構築している[5]。他のKADOKAWA社内ブランドも特約店制度を導入して優先的な配本を行なっている他、KADOKAWA以外の出版社も実績配本を行なっている[46]。
注釈
- ^ テレビアニメ『無敵超人ザンボット3』の「神北恵子」を男性形に変えたハンドル。
- ^ 2004年に明治書院より刊行された『日本現代小説大事典』(ISBN 978-4-625-60303-7)では、コバルト文庫やスニーカー文庫を「ジュニア小説」もしくは「キャラクター小説」と分類する(P1439-1441)。
- ^ ライトノベルとは異なるジャンルの事例ではあるが、2007年に集英社が過去の名作の新装版を発行するにあたって、太宰治著『人間失格』の表紙イラストに漫画家の小畑健を起用したところ、その年の『人間失格』の売り上げが異例の9万部を記録したことがある(例年は1-2万部)「人間失格:「デスノート」の小畑健が表紙描く 異例の9万部突破」毎日jp、2007年8月23日。
- ^ 同一作品が『小説家になろう』だけでなく『アルファポリス』などの他サイトにも投稿される場合があることも誤認を受ける要因と考えられる。
- ^ 更に遡れば、2012年にNHN Japanが配信した小説アカウントにユーザーが話しかける形でストーリーが送られてくる『トークノベル』が似ている。
- ^ SNS『pixiv』の小説機能でも2020年4月16日から単語変換機能というのは導入されたがそれより以前から。
- ^ これらが一般人に「一般文芸」として認知されているかどうかは、正確なデータがなく不明である。
- ^ 例えば「ライトノベル進化論」『読売新聞』2006年11月7日・14日・21日や『クイック・ジャパン Vol.54』 太田出版、2004年など。
出典
- ^ "ライトノベル". 『知恵蔵』(朝日新聞出版、2008年). コトバンクより2022年3月13日閲覧。
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- ^ “あらすじに基づくライトノベルの定義作成”. 東京都市大学. 2022年5月11日閲覧。
- ^ “ライトノベルの現状と将来”. 高崎経済大学. 2022年5月11日閲覧。
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- ^ 一柳廣孝、久米依子編著「ライトノベル・スタディーズ」青弓社
- ^ 東浩紀著「ゲーム的リアリズムの誕生」p27
- ^ 日本経済新聞2020年5月17日朝刊文化時評
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- ^ 大橋 2014, p. 18.
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- ^ 杉浦 2008, pp. 92–93.
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- ^ S‐Fマガジン編集部『SFが読みたい! 2017年版』早川書房、2017年
- ^ 大橋崇行・山中智省『小説の生存戦略 ライトノベル・メディア・ジェンダー』青弓社 2020年 p.69 ISBN 978-4787292551
- ^ a b KADOKAWA 井上伸一郎に聞く -WEB発の新ジャンル 新文芸-
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- ^ manga carlsen[リンク切れ]
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