ライトノベル
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歴史
1984年以前
明確なライトノベル専門のレーベルとしてではなく、後にレーベル中にライトノベルが含まれているとされている物を挙げる[34]。
- ソノラマ文庫 - 代表作『クラッシャージョウ』(1977年)、『吸血鬼ハンターD』(1983年)、『妖精作戦』(1984年)、等
- コバルト文庫 - 代表作『なんて素敵にジャパネスク』(1984年)、『丘の家のミッキー』(1984年)、等
1984年以降
1986年から角川文庫で行われた「ファンタジーフェア」と、テーブルトークRPGなどを扱っていたパソコンゲーム誌『コンプティーク』を母体に、1988年に角川スニーカー文庫と富士見ファンタジア文庫が刊行される。同時に富士見書房から、テーブルトークRPGなどの非電源ゲームに特化した『ドラゴンマガジン』が創刊され、紙面の半分程度を同文庫に収録される作品などの連載に割いていた。
富士見書房は1989年からファンタジア大賞(当時はファンタジア長編小説大賞)の選考を開始し、準入選に神坂一らが選ばれた。当時のミリオンセラーを列挙すると『ロードス島戦記』、『スレイヤーズ』、『フォーチュンクエスト』、『魔術士オーフェン』、『風の大陸』などが挙げられ、「ファンタジーフェア」以来の和製ファンタジー小説を中心にヒットを飛ばしていた。
富士見ファンタジア文庫を刊行している富士見書房は、角川書店の子会社として設立された経緯から角川書店との関係が深く、元々は国文学主体の出版社であった角川書店が出版しない官能小説やアイドル写真集などの書籍を富士見書房の名前で発売するという形態を取っていた。その後、角川書店に合併されてからは角川書店富士見事業部となり、「書房」とは名乗っているものの角川書店の一部門であった。富士見書房に限らず、初期ライトノベルレーベルの大半は角川書店の傘下にあり、長く角川メディアオフィス系の角川グループがジャンルの主導権を握っていく。
大塚英志は、角川文化の台頭の背景には、朝日新聞に代表される旧「教養」の破壊を目的とした「見えない文化大革命」があり、その帰結がライトノベル、対する「反動勢力」がスタジオジブリであったとする[35]。
1992年以降
1992年、経営上の対立から、角川書店の当時の社長角川春樹の弟である角川歴彦らを中心とした角川メディアオフィス系のメンバーが角川書店を退社し、メディアワークス(後にアスキー・メディアワークス)を設立した。これにより、角川スニーカー文庫からは水野良・深沢美潮・中村うさぎ・あかほりさとる等の人気作家を引き連れ、電撃文庫を創刊する。電撃文庫は当初、主婦の友社と提携し販売を行なっていたが、春樹は1993年8月29日にコカイン密輸事件で逮捕され、角川書店から事実上追放された。
これによって歴彦は、角川書店側に請われ、角川書店の社長も兼務することになった。メディアワークスもまた、1999年に主婦の友社との提携を解消して角川ホールディングス傘下となる。メディアワークスは電撃小説大賞(当初は電撃ゲーム小説大賞、ゲームシナリオを募集する意味合いが強かった)を1994年より開始し、1996年の川上稔、1997年の上遠野浩平、橋本紡といった受賞者が現れた。また『キノの旅』『とある魔術の禁書目録』など落選作拾い上げからベストセラーになるシリーズも出現し、『スレイヤーズ』『魔術士オーフェン』のヒット以来、トップの座にあった富士見ファンタジア文庫からシェアを奪っていく。
ファミ通文庫は1998年に創刊されたが、かつてログアウト文庫で不振に終わったアスペクトのライトノベル業界への事実上の再参入であった。しかし、1999年頃、経営を悪化させた当時のアスキー(旧社)はグループ再編を行い、『週刊ファミ通』を始めとするゲーム雑誌や子会社のアスペクト(現在は独立)が手がけていたファミ通文庫などのエンターテイメント系事業を、完全子会社であるエンターブレインへ集約した。その後、グループの持ち株会社であるメディアリーヴスは、ユニゾンキャピタル傘下を経て2005年に角川ホールディングスの傘下となり、旧社より社名と『月刊アスキー』他の出版事業を継承したアスキー(新社)は2008年にメディアワークスと合併し、アスキー・メディアワークスとなった。
2002年以降
MF文庫Jは2002年にリクルートの子会社メディアファクトリーのレーベルとして創刊され、非角川系・非一ツ橋系では最大勢力であったが、2011年に角川グループホールディングスがメディアファクトリーを買収し傘下に収めた。
このような複雑な経緯により、角川グループは少年向けライトノベルレーベルだけでも、
- 角川スニーカー文庫
- 富士見ファンタジア文庫
- MF文庫J
- 電撃文庫
- ファミ通文庫
の5つを傘下に収め、市場の7割[36][37]から8割[38](2007年。MF文庫Jは含まれていない)という圧倒的なシェアを誇るに至った。以降もそれぞれのブランドを存続し、競合させる中で個々の特色と方向性を打ち出すと共に、2007年には上記4レーベル(開催当時はグループ外のMF文庫Jを除く)で読者投票により大賞を決める「ライトノベルアワード」を開催した。
そのようなライトノベルの角川グループ寡占状態の中にあって、一般全国新聞への記事の掲載などにより注目されたためか、2000年代中盤から竹書房や小学館(ガガガ文庫、ルルル文庫)などの再参入(竹書房は2007年をもって再度撤退)以外にソフトバンククリエイティブ、ホビージャパン、一迅社、PHP研究所、そして講談社や京都アニメーションやポニーキャニオンも独自レーベルで新規参入した。その他にも、様々な自費出版系の出版社などもライトノベルのレーベルを出版している。
2012年以降
2013年10月1日、角川書店および富士見書房、アスキー・メディアワークス、エンターブレイン、メディアファクトリーの5社はKADOKAWAに吸収合併され、それぞれ社内ブランド化された。各社内ブランドのレーベルは概ね存続しているが、2015年10月に富士見書房の単行本部門(FUJIMISHOBO NOVELS)をベースに新レーベル「カドカワBOOKS」が設立されている。電撃文庫だけは創業の経緯から角川歴彦の直轄とされ、編集、営業部門が独立していたが、2015年以降はKADOKAWAへの統合が進んでいる。
時を前後するが、上記の他、ヒーロー文庫(主婦の友社)やMFブックス(メディアファクトリーおよびフロンティアワークスとの共同)といったオンライン小説の書籍化専門レーベルが出現し、特に2012年頃からは『小説家になろう』への投稿作品書籍化を手がけるレーベルが相次いで立ち上げられ、それらの作品・レーベルを総称して「なろう系」と表現されるケースも増えている[39]。小説家になろうが旺盛を極めるより前からあった『Arcadia』や『アルファポリス』の投稿作品もなろう系という誤った区分を受けることもある[注釈 4]程度に、知名度が高く影響力が伺える。
この影響による、ライトノベル的なテキストを扱う小説投稿サイトは。2020年までに以下のサイトが新設された。
- 2015年4月24日、NHNプレイアートによる『comicoノベル』(オンラインコミックサイト兼コミックアプリ『comico』内の投稿サイト)
- 2016年2月29日、はてなとKADOKAWAと共同開発による『カクヨム』
- 2016年7月26日、SBクリエイティブグループのツギクル株式会社による『ツギクル』
- 2016年12月19日、未来創造による『トークメーカー』(現在は講談社に運営変更し現名称は『NOVEL DAYS』)
- 2017年11月15日 LBM Technology株式会社による『L-boom』
- 2018年1月29日、株式会社ノベルバによる『ノベルバ』
- 2018年5月10日、UDリバース株式会社による『マグネット!』(現名称は『MAGNET MACROLINK』)
- 2019年2月25日、講談社による『セルバンテス』(後に同社の『NOVEL DAYS』に移行)
- 2019年4月17日、スターツ出版による『ノベマ!』(ただし現在はライト文芸中心)
- 2019年7月18日、ホビージャパンによる『ノベルアップ+』
- 2019年8月5日、LINE株式会社による『LINEノベル』
書籍化に至ることなくサービス終了したサイトもある中、LINEノベルはオープンと同時に元・電撃文庫編集長の三木一馬を統括編集長として、LINE文庫、LINE文庫エッジを創刊し、コンテンツの提供に力を入れていた。しかし、2020年に休止している。
かねてよりオンライン小説の書籍化は存在していたが、このようにウェブ上への投稿機能を備えたサイトが林立したことで、既存・新設に関わらず投稿小説からのスカウトが急増した。
また、体裁が若干異なるが、セリフを吹き出しにして顔のイラストを表示し、スクロールやタップによって演出が加わる形態のテキストの電子書籍や小説投稿サイトも登場した。上述の『comicoノベル』や『NOVEL DAYS』でも一部の作品はこの体裁である。古くは2014年にRenta!で『絵ノベル』という電子書籍の形で見られる[注釈 5]。トークアプリ風読み物だとか、チャットノベルだとか形容されている。『ストリエ』では投稿小説以外でも、既存の作品の試し読みがこの形態で公開されていた。『プリ小説 byGMO』(『プリ画像』の姉妹サービス)やアプリ『POCH』には夢小説として名前変換機能がある媒体[注釈 6]もあり、オンライン投稿としてのメリットといえる。
一方で、読者の高齢化によるニーズの高まりに応え、刊行が中断し、長く未完結であった作品を改めて完結するケースや、完結した作品の続編がファンサービス的に執筆されるケースも増えている。作者が亡くなった未完作を別人の手で完結させた『ゼロの使い魔』は前者の典型で、『フルメタル・パニック!』『灼眼のシャナ』などは後者のケースに該当する。
注釈
- ^ テレビアニメ『無敵超人ザンボット3』の「神北恵子」を男性形に変えたハンドル。
- ^ 2004年に明治書院より刊行された『日本現代小説大事典』(ISBN 978-4-625-60303-7)では、コバルト文庫やスニーカー文庫を「ジュニア小説」もしくは「キャラクター小説」と分類する(P1439-1441)。
- ^ ライトノベルとは異なるジャンルの事例ではあるが、2007年に集英社が過去の名作の新装版を発行するにあたって、太宰治著『人間失格』の表紙イラストに漫画家の小畑健を起用したところ、その年の『人間失格』の売り上げが異例の9万部を記録したことがある(例年は1-2万部)「人間失格:「デスノート」の小畑健が表紙描く 異例の9万部突破」毎日jp、2007年8月23日。
- ^ 同一作品が『小説家になろう』だけでなく『アルファポリス』などの他サイトにも投稿される場合があることも誤認を受ける要因と考えられる。
- ^ 更に遡れば、2012年にNHN Japanが配信した小説アカウントにユーザーが話しかける形でストーリーが送られてくる『トークノベル』が似ている。
- ^ SNS『pixiv』の小説機能でも2020年4月16日から単語変換機能というのは導入されたがそれより以前から。
- ^ これらが一般人に「一般文芸」として認知されているかどうかは、正確なデータがなく不明である。
- ^ 例えば「ライトノベル進化論」『読売新聞』2006年11月7日・14日・21日や『クイック・ジャパン Vol.54』 太田出版、2004年など。
出典
- ^ "ライトノベル". 『知恵蔵』(朝日新聞出版、2008年). コトバンクより2022年3月13日閲覧。
- ^ "ライトノベル". 『日本大百科全書(ニッポニカ)』(小学館). コトバンクより2022年3月13日閲覧。
- ^ “あらすじに基づくライトノベルの定義作成”. 東京都市大学. 2022年5月11日閲覧。
- ^ “ライトノベルの現状と将来”. 高崎経済大学. 2022年5月11日閲覧。
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- ^ 一柳廣孝、久米依子編著「ライトノベル・スタディーズ」青弓社
- ^ 東浩紀著「ゲーム的リアリズムの誕生」p27
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- ^ 大橋崇行・山中智省『小説の生存戦略 ライトノベル・メディア・ジェンダー』青弓社 2020年 p.69 ISBN 978-4787292551
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- ^ 日経キャラクターズ編集部 『ライトノベル完全読本 vol.2』 日経BP〈日経BPムック〉、2004年、ISBN 4-8222-1708-6。
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- ^ 新城カズマ 『ライトノベル「超」入門』 ソフトバンク〈ソフトバンク新書〉、2006年、ISBN 4-7973-3338-3。
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- ^ gomanga.com「SEVEN SEAS ENTERTAINMENT LAUNCHES NEW "LIGHT NOVEL" IMPRINT」
- ^ TOKYOPOP - 「Romane」参照。
- ^ manga carlsen[リンク切れ]
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