ライトノベル 歴史

ライトノベル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/23 18:43 UTC 版)

歴史

1984年以前

明確なライトノベル専門のレーベルとしてではなく、後にレーベル中にライトノベルが含まれているとされている物を挙げる[34]

1984年以降

1986年から角川文庫で行われた「ファンタジーフェア」と、テーブルトークRPGなどを扱っていたパソコンゲーム誌『コンプティーク』を母体に、1988年に角川スニーカー文庫と富士見ファンタジア文庫が刊行される。同時に富士見書房から、テーブルトークRPGなどの非電源ゲームに特化した『ドラゴンマガジン』が創刊され、紙面の半分程度を同文庫に収録される作品などの連載に割いていた。

富士見書房は1989年からファンタジア大賞(当時はファンタジア長編小説大賞)の選考を開始し、準入選に神坂一らが選ばれた。当時のミリオンセラーを列挙すると『ロードス島戦記』、『スレイヤーズ』、『フォーチュンクエスト』、『魔術士オーフェン』、『風の大陸』などが挙げられ、「ファンタジーフェア」以来の和製ファンタジー小説を中心にヒットを飛ばしていた。

富士見ファンタジア文庫を刊行している富士見書房は、角川書店の子会社として設立された経緯から角川書店との関係が深く、元々は国文学主体の出版社であった角川書店が出版しない官能小説やアイドル写真集などの書籍を富士見書房の名前で発売するという形態を取っていた。その後、角川書店に合併されてからは角川書店富士見事業部となり、「書房」とは名乗っているものの角川書店の一部門であった。富士見書房に限らず、初期ライトノベルレーベルの大半は角川書店の傘下にあり、長く角川メディアオフィス系の角川グループがジャンルの主導権を握っていく。

大塚英志は、角川文化の台頭の背景には、朝日新聞に代表される旧「教養」の破壊を目的とした「見えない文化大革命」があり、その帰結がライトノベル、対する「反動勢力」がスタジオジブリであったとする[35]

1992年以降

1992年、経営上の対立から、角川書店の当時の社長角川春樹の弟である角川歴彦らを中心とした角川メディアオフィス系のメンバーが角川書店を退社し、メディアワークス(後にアスキー・メディアワークス)を設立した。これにより、角川スニーカー文庫からは水野良深沢美潮中村うさぎあかほりさとる等の人気作家を引き連れ、電撃文庫を創刊する。電撃文庫は当初、主婦の友社と提携し販売を行なっていたが、春樹は1993年8月29日にコカイン密輸事件で逮捕され、角川書店から事実上追放された。

これによって歴彦は、角川書店側に請われ、角川書店の社長も兼務することになった。メディアワークスもまた、1999年に主婦の友社との提携を解消して角川ホールディングス傘下となる。メディアワークスは電撃小説大賞(当初は電撃ゲーム小説大賞、ゲームシナリオを募集する意味合いが強かった)を1994年より開始し、1996年の川上稔、1997年の上遠野浩平橋本紡といった受賞者が現れた。また『キノの旅』『とある魔術の禁書目録』など落選作拾い上げからベストセラーになるシリーズも出現し、『スレイヤーズ』『魔術士オーフェン』のヒット以来、トップの座にあった富士見ファンタジア文庫からシェアを奪っていく。

ファミ通文庫は1998年に創刊されたが、かつてログアウト文庫で不振に終わったアスペクトのライトノベル業界への事実上の再参入であった。しかし、1999年頃、経営を悪化させた当時のアスキー(旧社)はグループ再編を行い、『週刊ファミ通』を始めとするゲーム雑誌や子会社のアスペクト(現在は独立)が手がけていたファミ通文庫などのエンターテイメント系事業を、完全子会社であるエンターブレインへ集約した。その後、グループの持ち株会社であるメディアリーヴスは、ユニゾンキャピタル傘下を経て2005年に角川ホールディングスの傘下となり、旧社より社名と『月刊アスキー』他の出版事業を継承したアスキー(新社)は2008年にメディアワークスと合併し、アスキー・メディアワークスとなった。

2002年以降

MF文庫Jは2002年にリクルートの子会社メディアファクトリーのレーベルとして創刊され、非角川系・非一ツ橋系では最大勢力であったが、2011年に角川グループホールディングスがメディアファクトリーを買収し傘下に収めた。

このような複雑な経緯により、角川グループは少年向けライトノベルレーベルだけでも、

  • 角川スニーカー文庫
  • 富士見ファンタジア文庫
  • MF文庫J
  • 電撃文庫
  • ファミ通文庫

の5つを傘下に収め、市場の7割[36][37]から8割[38](2007年。MF文庫Jは含まれていない)という圧倒的なシェアを誇るに至った。以降もそれぞれのブランドを存続し、競合させる中で個々の特色と方向性を打ち出すと共に、2007年には上記4レーベル(開催当時はグループ外のMF文庫Jを除く)で読者投票により大賞を決める「ライトノベルアワード」を開催した。

そのようなライトノベルの角川グループ寡占状態の中にあって、一般全国新聞への記事の掲載などにより注目されたためか、2000年代中盤から竹書房小学館ガガガ文庫ルルル文庫)などの再参入(竹書房は2007年をもって再度撤退)以外にソフトバンククリエイティブホビージャパン一迅社PHP研究所、そして講談社京都アニメーションポニーキャニオンも独自レーベルで新規参入した。その他にも、様々な自費出版系の出版社などもライトノベルのレーベルを出版している。

2012年以降

2013年10月1日、角川書店および富士見書房、アスキー・メディアワークス、エンターブレイン、メディアファクトリーの5社はKADOKAWAに吸収合併され、それぞれ社内ブランド化された。各社内ブランドのレーベルは概ね存続しているが、2015年10月に富士見書房の単行本部門(FUJIMISHOBO NOVELS)をベースに新レーベル「カドカワBOOKS」が設立されている。電撃文庫だけは創業の経緯から角川歴彦の直轄とされ、編集、営業部門が独立していたが、2015年以降はKADOKAWAへの統合が進んでいる。

時を前後するが、上記の他、ヒーロー文庫主婦の友社)やMFブックス(メディアファクトリーおよびフロンティアワークスとの共同)といったオンライン小説の書籍化専門レーベルが出現し、特に2012年頃からは『小説家になろう』への投稿作品書籍化を手がけるレーベルが相次いで立ち上げられ、それらの作品・レーベルを総称して「なろう系」と表現されるケースも増えている[39]。小説家になろうが旺盛を極めるより前からあった『Arcadia』や『アルファポリス』の投稿作品もなろう系という誤った区分を受けることもある[注釈 4]程度に、知名度が高く影響力が伺える。

この影響による、ライトノベル的なテキストを扱う小説投稿サイトは。2020年までに以下のサイトが新設された。

書籍化に至ることなくサービス終了したサイトもある中、LINEノベルはオープンと同時に元・電撃文庫編集長の三木一馬を統括編集長として、LINE文庫LINE文庫エッジを創刊し、コンテンツの提供に力を入れていた。しかし、2020年に休止している。

かねてよりオンライン小説の書籍化は存在していたが、このようにウェブ上への投稿機能を備えたサイトが林立したことで、既存・新設に関わらず投稿小説からのスカウトが急増した。

また、体裁が若干異なるが、セリフを吹き出しにして顔のイラストを表示し、スクロールやタップによって演出が加わる形態のテキストの電子書籍や小説投稿サイトも登場した。上述の『comicoノベル』や『NOVEL DAYS』でも一部の作品はこの体裁である。古くは2014年にRenta!で『絵ノベル』という電子書籍の形で見られる[注釈 5]。トークアプリ風読み物だとか、チャットノベルだとか形容されている。『ストリエ』では投稿小説以外でも、既存の作品の試し読みがこの形態で公開されていた。『プリ小説 byGMO』(『プリ画像』の姉妹サービス)やアプリ『POCH』には夢小説として名前変換機能がある媒体[注釈 6]もあり、オンライン投稿としてのメリットといえる。

一方で、読者の高齢化によるニーズの高まりに応え、刊行が中断し、長く未完結であった作品を改めて完結するケースや、完結した作品の続編がファンサービス的に執筆されるケースも増えている。作者が亡くなった未完作を別人の手で完結させた『ゼロの使い魔』は前者の典型で、『フルメタル・パニック!』『灼眼のシャナ』などは後者のケースに該当する。


注釈

  1. ^ テレビアニメ『無敵超人ザンボット3』の「神北恵子」を男性形に変えたハンドル。
  2. ^ 2004年明治書院より刊行された『日本現代小説大事典』(ISBN 978-4-625-60303-7)では、コバルト文庫やスニーカー文庫を「ジュニア小説」もしくは「キャラクター小説」と分類する(P1439-1441)。
  3. ^ ライトノベルとは異なるジャンルの事例ではあるが、2007年に集英社が過去の名作の新装版を発行するにあたって、太宰治著『人間失格』の表紙イラストに漫画家小畑健を起用したところ、その年の『人間失格』の売り上げが異例の9万部を記録したことがある(例年は1-2万部)「人間失格:「デスノート」の小畑健が表紙描く 異例の9万部突破」毎日jp、2007年8月23日。
  4. ^ 同一作品が『小説家になろう』だけでなく『アルファポリス』などの他サイトにも投稿される場合があることも誤認を受ける要因と考えられる。
  5. ^ 更に遡れば、2012年にNHN Japanが配信した小説アカウントにユーザーが話しかける形でストーリーが送られてくる『トークノベル』が似ている。
  6. ^ SNSpixiv』の小説機能でも2020年4月16日から単語変換機能というのは導入されたがそれより以前から。
  7. ^ これらが一般人に「一般文芸」として認知されているかどうかは、正確なデータがなく不明である。
  8. ^ 例えば「ライトノベル進化論」『読売新聞』2006年11月7日・14日・21日や『クイック・ジャパン Vol.54』 太田出版、2004年など。

出典

  1. ^ "ライトノベル". 『知恵蔵』(朝日新聞出版、2008年). コトバンクより2022年3月13日閲覧
  2. ^ "ライトノベル". 『日本大百科全書(ニッポニカ)』(小学館). コトバンクより2022年3月13日閲覧
  3. ^ あらすじに基づくライトノベルの定義作成”. 東京都市大学. 2022年5月11日閲覧。
  4. ^ ライトノベルの現状と将来”. 高崎経済大学. 2022年5月11日閲覧。
  5. ^ a b ライトノベル完全読本”. 日経BP. 2006年6月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年6月27日閲覧。
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  7. ^ 一柳廣孝、久米依子編著「ライトノベル・スタディーズ」青弓社
  8. ^ 東浩紀著「ゲーム的リアリズムの誕生」p27
  9. ^ 日本経済新聞2020年5月17日朝刊文化時評
  10. ^ 大橋 2014, pp. 46, 49.
  11. ^ 大橋 2014, p. 18.
  12. ^ a b 大橋 2014, p. 103.
  13. ^ 新城 2006, p. 42.
  14. ^ 杉浦 2008, pp. 92–93.
  15. ^ SUGOI JAPAN AWARD2017 ライトノベル部門、2017年3月28日閲覧[リンク切れ]
  16. ^ S‐Fマガジン編集部『SFが読みたい! 2017年版』早川書房、2017年
  17. ^ 大橋崇行・山中智省『小説の生存戦略 ライトノベル・メディア・ジェンダー』青弓社 2020年 p.69 ISBN 978-4787292551
  18. ^ a b KADOKAWA 井上伸一郎に聞く -WEB発の新ジャンル 新文芸-
  19. ^ 愛咲優詩 (2018年3月3日). “意外と知らない「ライトノベル」ブームの現在”. 東洋経済オンライン. p. 2. 2021年3月13日閲覧。
  20. ^ a b 『このミステリーがすごい!』編集部 『このライトノベルがすごい! 2005』 宝島社、2004年、ISBN 4-7966-4388-5
  21. ^ 日経キャラクターズ編集部 『ライトノベル完全読本 vol.2』 日経BP〈日経BPムック〉、2004年、ISBN 4-8222-1708-6
  22. ^ 山中智省「ライトノベルという出版メディアの確立─一九九〇年代の電撃文庫の様相から─」『目白大学人文学研究』第19号、目白大学、2023年3月31日、1-19頁、ISSN 1349-5186 
  23. ^ ライトノベル進化論】(下)「良質な青春小説」のような…?読売新聞社、2006年11月21日、2007年9月29日閲覧。[リンク切れ]
  24. ^ 新城 2006, p. 17.
  25. ^ 新城カズマ 『ライトノベル「超」入門』 ソフトバンク〈ソフトバンク新書〉、2006年、ISBN 4-7973-3338-3
  26. ^ 新城 2006, pp. 35–50.
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  29. ^ ライトノベル研究序説, pp. 27–30.
  30. ^ 新城 2006, p. 69.
  31. ^ 新城 2006, pp. 100–104.
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  33. ^ 新城 2006, pp. 109–116.
  34. ^ 大森望、三村美衣『ライトノベル☆めった斬り!』太田出版、2004年。ISBN 9784872339048 
  35. ^ 【第2回】角川歴彦とメディアミックスの時代 | 最前線 - フィクション・コミック・Webエンターテイメント
  36. ^ 「オタク出版の研究」『出版月報』、2007年9月。
  37. ^ 続々創刊、ライトノベル」『コラム』 出版科学研究所、2007年10月10日、2022年3月13日閲覧。
  38. ^ ガガガ文庫とルルル文庫 Archived 2007年10月16日, at the Wayback Machine.」 全国書店新聞、2007年3月21日。
  39. ^ "なろう系". デジタル大辞泉プラス. コトバンクより2020年7月9日閲覧
  40. ^ 大橋 2014, p. 49.
  41. ^ 新城 2006, p. 52.
  42. ^ “『ビブリア古書堂の事件手帖』に続く大ヒット作は出るか? いま「キャラクター文芸」がアツい”. ダ・ヴィンチNEWS (KADOKAWA). (2015年3月4日). https://ddnavi.com/news/229282/ 2016年6月1日閲覧。 
  43. ^ マンガのような主人公が活躍、「キャラノベ」が人気のワケ - 日本経済新聞
  44. ^ 「ライト文芸」現代の中間小説 漫画世代に向け創刊ラッシュ - 朝日新聞デジタル[リンク切れ]
  45. ^ 『ファウスト2006WINTER Vol.6』 2005, p. 362.
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  48. ^ CHiNGWiN Novel[リンク切れ]
  49. ^ 田泰昊 (2016). “韓国のライトノベル――その輸入と進化”. ライトノベル・フロントライン : 95-103. 
  50. ^ gomanga.com「SEVEN SEAS ENTERTAINMENT LAUNCHES NEW "LIGHT NOVEL" IMPRINT」
  51. ^ TOKYOPOP - 「Romane」参照。
  52. ^ manga carlsen[リンク切れ]
  53. ^ Словарь Аниме-Терминологии(アニメ用語事典)の「ранобэ」を参照。[リンク切れ]






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