共謀
『青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)』(河竹黙阿弥)3幕目「雪の下浜松屋の場」 武家娘(=実は弁天小僧)と供の若党(=南郷力丸)が、呉服屋浜松屋をゆする(*→〔ゆすり〕1)。そこへ玉島逸当という武士が現れ、「その娘は男であろう」と言って2人の正体をあばき、店から追い払う。しかし玉島逸当は、大盗賊の日本駄右衛門であった。駄右衛門・弁天・南郷は同じ一味で、浜松屋に駄右衛門を信用させるために、芝居をしたのだった。
『大鏡』「時平伝」 過差(=贅沢)の制の厳しい折、左大臣藤原時平が禁制を破った華やかな装束で参内した。醍醐帝がこれを見咎め、「ただちに退出せよ」と命じ、時平は恐懼して1ヵ月ほど謹慎する。実はこれは、世間の過差を鎮めるため、時平と帝が心を合わせてしたことだった〔*『心中宵庚申』(近松門左衛門)上之巻「城主饗応」に類似の物語がある〕。
『東海道中膝栗毛』(十返舎一九)「発端」 弥次郎兵衛と女房おふつの家を、駿河武士とその妹が訪れる。武士は「妹と弥次郎兵衛はかつて国元で密かに通じていたゆえ、是非2人を夫婦にさせる」と言うが、弥次郎兵衛は「女房おふつを捨てて新たに妻を持つことなど、できぬ」とはねつける。2人のやりとりを聞いたおふつは、自ら身を引く決心をし、去り状を取って出て行く。実は武士も妹も弥次郎兵衛の仲間で、おふつを離縁するために、3人で一芝居打ったのだった。
『不連続殺人事件』(坂口安吾) 歌川一馬の山邸に、文学者・画家・女優など10余名が呼び寄せられる。画家土居光一は、一馬の妻あやかと同棲していたことがあるが、今では光一とあやかは犬猿の仲で、罵りあい派手な喧嘩をする。しかしそれは人々の目を欺く演技であり、2人は共謀して連続殺人を犯す。その最終目的は、一馬を殺して財産を2人のものにすることだった。
『義経千本桜』2段目「渡海屋」 義経一行が船問屋・渡海屋銀平のもとに身を寄せ、船出の日和(ひより)待ちをする。北条の家来・相模の五郎主従が来て、「義経征討のため船を貸せ」と言うが、銀平は「先客もあるゆえそれはできぬ」と断り、争った末に相模の五郎たちを追い払う(*→〔漢字〕3)。実は銀平は平知盛、相模の五郎はその手下で、彼らは芝居をして、義経が銀平を味方と思うよう仕組んだのだった。
*友達どうしである赤おにと青おにが、けんかのふりをする→〔鬼〕8の『泣いた赤おに』(浜田広介)。
*免罪符売りと警吏が、対立するふりをする→〔守り札〕5の『ラサリーリョ・デ・トルメスの生涯』第5話。
『ぐるでだます』(昔話) 旅の男Aが、「雄の三毛猫がいたら高値で買いたいので、入手してほしい」と言って、手付金10両を、金持ちの婆に渡す。翌日、Aの仲間であるBが、雄の三毛猫を40両で売りに来る。婆は40両をBに払って猫を買い、それをもっと高くAに売ろうと考える。ところがいくら待ってもAはやって来ない。婆は10両を得て40両を失った。
*架空の5千ドルを当てにして、8百ドルを失う→〔売買〕3bの『豚の教え』(O・ヘンリー)。
*架空の3百万円を当てにして、80万円を失う→〔結婚〕8の『支払いすぎた縁談』(松本清張)。
『耳袋』巻之9「多欲の人かたりに逢ひし事」 男が菓子商人の店で饅頭2百文を買い求め、「代金を忘れたので取って来る」と言って、脇差しをカタに置いて去る。その後に、侍が菓子折を注文しに来てその脇差に目を止め、「これは百両もする名刀だ」と商人に教える。商人は欲にかられ、饅頭の代金を持って来た男に30両を支払って、脇差しを買い取る。実は、男と侍は仲間だった。2人は、安価な脇差しを高く売りつけるべく芝居をしたのである〔*『半七捕物帳』(岡本綺堂)「仮面(めん)」が、道具屋の古面を巡って、途中までこれと同様の展開をする〕。
『裏切り者と英雄のテーマ』(ボルヘス) 革命の指導者キルパトリックが裏切り行為をして、同志たちから死刑を宣告される。しかしキルパトリックの卑劣さが外部に知られると、革命運動そのものが挫折するので、「英雄キルパトリックが暗殺者の銃弾に倒れる」という筋書きを作り、大勢がそれを演じる。キルパトリックも、自らの死を栄光あるものにするため熱心に演技し、筋書きどおりに殺される。
『オリエント急行殺人事件』(クリスティ) 極悪人カセティがアームストロング家の幼女を誘拐して殺し、その両親をも死にいたらしめるが、証拠不十分で釈放される。アームストロング家の縁者12人が復讐を誓い、名前を偽り職業を変えて、カセティが乗るオリエント急行の寝台車に偶然乗り合わせたようによそおう。12人は短剣でカセティを一刺しずつ刺して殺し、互いのアリバイを証明し合う。
★5a.茶番。仲間同士が示し合わせ、大勢の人がいる所で仇討ちや身投げなどの騒ぎを起こし、最後にオチをつけて、「何だ。芝居だったのか」と皆を驚かせ面白がらせる趣向。江戸時代後期に流行した。
『花暦八笑人』(瀧亭鯉丈)初篇1~2 遊び人たちが、人殺しの浪人・仇討ちの巡礼・旅の六部(=修行者)などの扮装をして、花見客でにぎわう飛鳥山へ行く。浪人と巡礼が斬り合い、そこへ六部が仲裁に入って、笈の中から酒や肴を出す。皆は仲良く酒盛りをして花見客を驚かす、という趣向である。ところが六部の来るのが遅れ、おまけに本物の武士が現れて巡礼に助太刀する。浪人も巡礼も逃げ出し、茶番は失敗に終わる。
『花見の仇討ち』(落語) 遊び仲間たちが上野の花見に繰り出して、仇討ちの茶番を演じる。ところが仲裁の六部が来る前に、本物の武士が現れて助太刀を申し出るので、敵(かたき)役の浪人はもとより、仇を討つはずの巡礼も、こわがって逃げる。武士が巡礼に「逃げるには及ばぬ。勝負は五分(ごぶ)と見えたぞ」と呼びかけると、巡礼は「肝心の六部が見えませぬ」。
『銭形平次捕物控』(野村胡堂)「花見の仇討」 商家の若主人と仲間たちが、花見時の飛鳥山で仇討ちの茶番(*→〔共謀〕5a)を演じる。若主人に恨みを抱く者がこれを利用し、敵(かたき)役の虚無僧姿になり、天蓋で顔を隠して、巡礼役の若主人を斬り殺す。犯人は茶店の娘で、犯行後、父親の茶店に身を隠して着替えた。
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