音速
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/28 01:37 UTC 版)
概説
- 固体・液体・気体と音速
物質自体が振動することで伝わるため、物質の種類により決まる物性値の1種(弾性波伝播速度)である。
音速は、特に物質の相変化による影響を大きく受け、同じ物質では、固体が最大(つまり固体中の音速が最も速く)、次いで液体、気体の順となる(つまり気体中の音速が最も遅い)。またその物質の状態(温度、密度、圧力)によっても変化し、温度は気体では正の影響を、固体では負の影響を与える。
気相中を音が伝わる場合、おおむね分子量が小さい物質ほど速い傾向を示す。たとえば、媒質が空気(平均分子量29)のときよりヘリウム(分子量4)のときの方が音速は約3倍大きく、吸入してしゃべるとかん高い声になる現象(ドナルドダック効果)が知られている(ただし、100%のヘリウムを吸入すると、窒息して危険なので、必ず空気と同等の酸素含有ヘリウム混合ガスを使用すること)。
なお、媒質中を伝わる振動の成分は、気体と液体では縦波(疎密波)だけであり進行方向と波が同じ方向になる。いっぽう固体中では横波(ねじれ波)が遅れて伝わる。これは地震波と同様であり、録音した自分の声が違って聞こえる、骨伝導による聴覚への影響の一因でもある。
21世紀の科学技術では音速を超える速度まで物体を加速することが容易になってきており、音速の壁問題などもあるため大きな基準とされる。かつてはさまざまな乗り物で音速を超える速度の最高記録へチャレンジされていたが、その過程ではさまざまな死亡事故が発生してきた。近年では記録のインフレと安全面への配慮から、同様の研究は少なくなってきた。
空気中の音速
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日常生活上での音速というのは空気中の音速であり、近似的に温度のみの一次式で表すことができ、1気圧の乾燥空気では次の式が常用されている。
つまり1気圧で0℃のとき音速は毎秒331.5メートルであり、温度が1℃上がるごとに音速は0.61 m/s速くなる。 なお上の式は、気体中の音速の式の摂氏0度での接線をとった近似式である。
多くの分野で音速についていうとき、常温として15℃を採用することが一般的であり、その場合 340.5(m/s)となる。それで一般に、音速を15℃で秒速340mとしている[1][2]。高校の物理の教科書や試験問題などでも「音速を340 m/sとする」という文章が添えられていることが一般的である[3]。
空気中の音速を直感的にとらえやすい現象として、雷や打ち上げ花火の発光から爆音が届くまでの時間差や、山間部で山彦が発生し音が反響して聞こえるものがある。
マッハ、標準大気中の音速の「km/h」表示
音速の倍数がマッハ数である。 速度単位の「マッハ」は気圧や気温に影響される。このため、超音速機のスペックを表す場合などは、標準大気中の音速 1,225 km/h が便宜上使われている。
なお雑学だが、英語の sonic(ソニック)は「音の」「音波の」から転じて、音のように速い=「音速の」という意味を表すが、本来は音速そのものを指す言葉ではない。
海水中の音速
海水中の音速の具体値は 1513 m/s といわれている。つまり、1秒でおよそ1.5km先に伝わる。
より正確には、海水中の音速は水温・圧力・塩分濃度により変化し、次式で近似される[4]。
- ここでc は音速 (m/s)、T は水温 (°C)、P は圧力 (kg cm−2)、S は塩分 (psu) である。
海面近くでは水温が高いため音速は高く、一方水深が深いと圧力が大きいためにやはり音速は高くなる。そのため中層で音速極小層(SOFAR層)が生じ、フェルマーの原理より海中の音波はSOFAR層の近くに束縛されて2次元的に伝播するという特性をもつ。
地殻中の音速
地殻における音速は5-7 km/sである。これは地震の初期微動速度と等値である。
- その他、各物質中の音速については#物性値の例で説明
定義と公式
音速には位相速度と群速度があるが、一般的に音速というときは位相速度のことをさす。
気体
気体中では、音速は比熱比、平均分子量、温度に依存する。圧力はほとんど影響しない[5]。ここで κ を気体の比熱比、R を気体定数、T を気体温度、M を気体の平均分子量とすると音速 c は
と表される。なお、この関係から、音速測定によって気体定数を求めることもある[6]。
もしくは、気圧 p [N/m2] と密度 ρ [kg/m3] を用いて
とも表せる。
湿り空気
通常、空気中の音速は湿度を無視して乾燥空気に対する近似式で求められるが、湿度の影響を加える場合は以下による[5]。まず、温度から乾燥空気中の音速を求め、c とする。ついで、気圧 H 、水蒸気圧 p 、水蒸気の定圧比熱と定積比熱との比 γw 、乾燥空気の比熱比 γより、その水蒸気圧における音速 c' は、
となる。
液体
物質の違いにあまり影響されず、おおむね 1000-1500 m/s の範囲に集中している[7]。多くは高温ほど遅いが、水は74℃までは上昇し最高速を示す[7]。また、水銀では周波数による差が知られており、高いほど速い。
液体中では、体積弾性率を K として、
とされる。
気泡を含む液体
小さな気泡を多数含む液体の音速は、両者の中間値にならず、より小さくなる。これは、質量の大きい液体が、体積弾性率の小さい気体をばねとして振動するためである[8]。これはお湯に粉末を溶かしたときに発生する気泡によって容易に確かめることができる(ホットチョコレート効果)[9]。
液体の密度をρw、体積弾性率を Kw、気体の密度を ρa、体積弾性率をKa、体積分率を α とすると、混合流体の音速は、
または Kw >> Ka 、ρw >> ρa と仮定し、α→0, 1 の場合を除く近似式として
で表される。液体を水、気体を空気とすると、音速の最小値は α= 0.5 のとき c = 23.7 m/s まで小さくなる。
固体
固体の場合、伝播される振動が複数あり、速度も異なる。また、物体の形状や構成(純物質では結晶構造、混合物では成分比など)によって影響される[10]。このほか、結晶方向と伝播方向による差や、周波数による差も大きいなど、固体の音速は非常に複雑となっている。
基本式は、弾性率を M 、密度を ρ とすると、
となる。
縦波
気体や液体と同じ縦波(疎密波)は、固体の音速で最も速く、等方的で無限に広がっている十分に大きな物体で、剛性率 を G、体積弾性率を K とすると、次の通り[11]。
横波
かなり遅く、物質によっては縦波の半分以下となる。縦波同様に、次の通り[11]。
棒の縦振動
縦波と横波の中間よりやや速く、物質によっては縦波とほぼ同じとなる。物体の形状が波長に対して十分に細いとき、ヤング率を E とすると、次の通り[11]。
表面波
物体表面(境界)で観測され、レイリー波とラブ波が知られている。横波と同程度か、やや遅い。
屈曲波
物体が板状で、波長に対して十分に広いときに出現し、速度が振動数の平方根に比例する。ヤングの弾性率を E、振動数を f、厚さを t、ポアソン比を δ とすると、次の通り[12]。
注釈
出典
- ^ [1]
- ^ 航空機や飛行などに関する解説本でも、15℃で340(m/s)として解説するのが最も一般的。
- ^ 物理の教科書でシェアが特に高い数研出版を含め、いずれの教科書でも一般的。また参考書類でも同様。
- ^ 関根義彦『海洋物理学概論』成山堂書店、2003年、8頁。ISBN 4-425-53045-4。
- ^ a b 理科年表 平成22年 p. 420。
- ^ Atkins, P. W.『アトキンス物理化学』 上、千原秀昭・中村亘男訳(第6版)、東京化学同人、2001年、20頁。ISBN 4-8079-0529-5。
- ^ a b 理科年表 平成22年 p. 421。
- ^ 平尾雅彦『音と波の力学』岩波書店、2013年、77-78頁。ISBN 978-4-00-005129-3。
- ^ Frank S. Crawford, May 1982, "The hot chocolate effect", American Journal of Physics, Volume 50, Issue 5, pp. 398-404, doi:10.1119/1.13080 (Abstract only)
- ^ 理科年表 平成22年 p. 422。
- ^ a b c 理科年表 平成22年 p. 423。
- ^ 社団法人日本騒音制御工学会 Dr.Noise 用語解説
- ^ 理科年表 平成22年 pp.420-423
- ^ 西條(2001) p.85
- ^ 西條(2001) p.84
- ^ ハント(1984) p.45
- ^ ハント(1984) pp.33-34
- ^ ハント(1984) pp.34-35
- ^ a b ハント(1984) pp.134-135
- ^ 西條(2001) pp.85-86
- ^ 早坂(1989) pp.14-15
- ^ ハント(1984) p.136
- ^ 西條(2001) pp.85-87
- ^ ハント(1984) pp.136-137
- ^ ハント(1984) p.152
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- ^ 西條(2001) pp.89-90
- ^ 東山(2010) p.55
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- ^ ハント(1984) p.166
- ^ ニュートン、河辺編(1971) pp.399,401
- ^ a b ニュートン、河辺編(1971) p.400
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- ^ a b c d e 西條(2001) p.92
- ^ ダンネマン(1978) pp.457-458
- ^ ダンネマン(1978) p.458
- ^ 西條(2001) p.94
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