自然環境保全地域
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/29 17:44 UTC 版)
規制
主に自然環境保全地域について記載する。都道府県自然環境保全地域については、各都道府県の条例で定められる。
下記のとおり、特別地区は、対象となる行為についての許可制で、普通地区は、対象となる行為についての行為についての届出制である。これは、自然公園における特別地域(許可制)と普通地域(届出制)に類似する。
なお、対象となる行為の禁止が規定されている原生自然環境保全地域については、#原生自然環境保全地域を参照されたい。
特別地区で許可が必要な行為
普通地区で届出が必要な行為
- 建築物の新築・改築・増築等
- 宅地の造成、土地の開墾等
- 鉱物の掘採や土砂を採取
- 埋立てや干拓
- 周囲の特別地区内の河川、湖沼の水位や水量に増減を及ぼすこと
届出といいながら、それを受理する側が、行為を制限、禁止することが可能とされており、自然公園法(普通地域)、自然環境保全法(普通地区)の特徴的なものである。
原生自然環境保全地域
原生自然環境保全地域(げんせい-)とは、自然環境保全法に基づき指定される地域で、まず「その区域における自然環境が人の活動によつて影響を受けることなく原生の状態を維持しており、かつ、政令で定める面積以上の面積を有する土地の区域であつて、国又は地方公共団体が所有するもの…のうち、当該自然環境を保全することが特に必要なもの」(自然環境保全法第14条)が対象とされる[注 3]。ここで指定された区域は、国立公園、国定公園、都道府県立自然公園の区域に含まれないこととする規定がある(自然公園法第71条、同法81条)。
選定の基準としては、極相ないしそれに近い植生及び動物相が人による影響を受けていない地域、またかつて人の影響を受けたことがあっても自然状態に復元がなされている地域で、生態系を維持保全するために国ないし地方公共団体が所有する土地で1000ヘクタール以上の面積が確保できる場所であり(周囲が海に面した地域では300ヘクタール以上)、かつ周辺も自然度が高い場所を原生自然環境保全地域に指定することができる[10]。
原生自然環境保全地域においては、日本の自然保護区の中で最も厳格な自然保護体制が取られ、下記のとおり土地利用の制約が極めて大きい。この指定をしようとするときは、環境大臣は、あらかじめ、関係都道府県知事及び中央環境審議会の意見をきかなければならず、さらに、あらかじめ、当該区域内の土地を、国が所有する場合にあっては当該土地を所管する行政機関の長の、地方公共団体が所有する場合にあっては当該地方公共団体の同意を得なければならないものとされている(自然環境保全法第14条)。原生自然環境保全地域は現在5ヶ所指定がなされておりている[11]。
行為の制限
禁止される行為
自然環境保全法第17条第1項は、「してはならない」行為を列挙している。「建築物その他の工作物を新築し、改築し、又は増築すること」(同項第1号)にはじまり、「木竹を植栽すること」(同項第8号)、「動物を放つこと(家畜の放牧を含む。)」(同項第11号)などがあり、農業、林業、畜産業にも大きな制約となる。こうした禁止の規定は、自然公園法にはない。
立入制限地区
原生自然環境保全地域の中で特にその自然環境を保全するために必要がある場合、環境大臣は立入制限地区を設けることができる(自然環境保全法第19条)。立入制限地区は「何人も立ち入ってはならない」地域とされ(同条第3項)、例外としては自然保護に関わる調査等を行う場合や遭難者救助などといった事情に限られる[12]。なお現在、自然環境保全法により立入制限地区とされているのは南硫黄島のみである。
指定地域
環境大臣が指定するもの[13]。
原生自然環境保全地域
地域 | 面積 | 指定年月日 | 関係自治体 | 特色 |
---|---|---|---|---|
屋久島 | 1,219 ha | 1975年5月17日 | 鹿児島県熊毛郡屋久島町 | スギを主とする温帯針葉樹林、屋久杉の巨木、照葉樹林 |
南硫黄島 | 367 ha | 1975年5月17日 | 東京都小笠原村 | 木生シダの林、雲霧林の発達する熱帯・亜熱帯植生、海鳥、独特な動物相 |
大井川源流部 | 1,115 ha | 1976年3月22日 | 静岡県榛原郡川根本町 | 典型的な植生帯の垂直分布、ニホンカモシカ・オコジョ・ヤマネ等の哺乳類 |
十勝川源流部 | 1,035 ha | 1977年12月28日 | 北海道上川郡新得町 | エゾマツ・トドマツを主とする亜寒帯針葉樹林 |
遠音別岳 | 1,895 ha | 1980年2月4日 | 北海道斜里郡斜里町 目梨郡羅臼町 |
ハイマツを主とする高山性植生 |
自然環境保全地域
地域 | 面積 | 指定年月日 | 関係自治体 | 特色 |
---|---|---|---|---|
稲尾岳 | 377 ha | 1975年5月17日 | 鹿児島県肝属郡肝付町、錦江町、南大隅町 | イスノキ・ウラジロガシを主とする照葉樹林 |
早池峰 | 1,370 ha | 1975年5月17日 | 岩手県宮古市 | 高山・亜高山性植生、蛇紋岩山地植生、アカエゾマツ天然林 |
利根川源流部 | 2,318 ha | 1977年12月28日 | 群馬県利根郡みなかみ町 | 高山風衝低木林、ブナ・ミヤマナラ天然林、雪田植生 |
大平山 | 674 ha | 1977年12月28日 | 北海道島牧郡島牧村 | 北限に近いブナ天然林、石灰岩地植生 |
白髪岳 | 150 ha | 1980年3月21日 | 熊本県球磨郡あさぎり町 | 南限に近いブナ天然林、ノリウツギ低木林 |
大佐飛山 | 545 ha | 1981年3月16日 | 栃木県那須塩原市 | ブナ・オオシラビソ天然林 |
和賀岳 | 1,451 ha | 1981年5月21日 | 岩手県和賀郡西和賀町 | ブナ・ミヤマナラ天然林、ハイマツ群落、雪田植生 |
笹ヶ峰 | 537 ha | 1982年3月31日 | 愛媛県新居浜市、西条市 高知県吾川郡いの町 |
ブナ天然林、南限のシコクシラベ天然林 |
崎山湾・網取湾 | 128 ha | 1983年6月28日 | 沖縄県八重山郡竹富町 | アザミサンゴの群体、サンゴ礁 |
白神山地 | 14,043 ha | 1992年7月10日 | 青森県西津軽郡鰺ヶ沢町、深浦町、中津軽郡西目屋村 秋田県山本郡藤里町 |
日本最大級のブナ天然林、クマゲラ等稀少動植物相 |
出典
- ^ 自然公園においても、特別地域、海域公園地区、普通地域等の区分けがある。一方で、自然公園特別地域における第一種から第三種までのような細分化は、自然環境保全地域の特別地区には規定されていない。
- ^ 環境省は、『自然環境保全法の運用について』で、「原生自然環境保全地域及び自然環境保全地域は、自然環境を適正に保全し、将来の国民に継承していくという性格の地域であり、すぐれた自然の風景地を保護するとともにその利用を増進を図るという性格の地域である自然公園とは、その性格を異にする」としている。
- ^ 自然環境保全法第14条では、「森林法(中略)第二十五条第一項 又は第二十五条の二第一項 若しくは第二項 の規定により指定された保安林(同条第一項 後段又は第二項 後段において準用する同法第二十五条第二項 の規定により指定された保安林を除く」とも規定されている。)の区域を除く。
- ^ 『生態学からみた野生生物の保護と法律』35頁など多数
- ^ a b c d 環境法入門 143 - 144頁
- ^ 環境省生物多様性センター『自然環境保全基礎調査とは』2010年12月26日閲覧
- ^ 『生態学からみた野生生物の保護と法律』39 - 41頁
- ^ a b 『自然環境保全法の運用について』
- ^ 南硫黄島原生自然環境保全地域の例:林野庁『「小笠原諸島」を世界遺産一覧表に記載するための推薦書の提出について』2010年1月18日
- ^ 各都道府県知事あて農林大臣官房長通達『自然環境保全法による都道府県自然環境保全地域の指定等と農林漁業との調整等に関する方針について』1974年12月20日 2010年12月16日閲覧
- ^ 文化庁『文化行政のあらまし 過去の会議・計画等 文化振興マスタープラン 他省庁における文化に関連する施策(概要)』
- ^ 国土交通省国土計画局『国土数値情報 自然保全地域データの詳細』
- ^ 環境省『自然環境保全地域等選定要領について』2010年12月12日閲覧
- ^ インターネット自然研究所『原生自然環境保全地域』2010年12月12日閲覧
- ^ “自然環境保全法施行規則(昭和四十八年総理府令第六十二号)”. e-Gov法令検索. 総務省行政管理局 (2019年11月1日). 2020年1月27日閲覧。 “2019年12月14日施行分”
- ^ 各指定地域の特徴
- 自然環境保全地域のページへのリンク