地雷 地雷除去

地雷

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/28 08:55 UTC 版)

地雷除去

ゴラン高原地雷原標識、シリア陸軍によって40年以上前に設置されたもの

戦乱のあった地域では、一旦地雷が埋設されると残存し、戦争終結後も一般市民への事故(傷害事故だけではなく死亡事故も多い)が後をたたない。世界では正確な数は不明だが、いまだに「7000万個とも1億個とも言われる対人地雷が埋設」[6]されていると考えられている。

戦後の復興には、安全な土地の保証がかかせない。その地域の国家が地雷除去の能力に不足する場合など、他国の部隊やNGOが対人地雷除去を人道援助として行うことがある。対人地雷だけでなく対戦車地雷でも、放置されることでバスのような民間車両が被害を受けて多くの人命が失われている。

除去方法

陸上自衛隊施設科装備の89式地雷探知機
検知部・本体部・操作部・ハンドル・受話部などからなり、地中の金属を探知する機器。地雷や不発弾を探知する目的で使用する。
柄の先に設けられた検知部を地上数十cmの高さに浮かせて動かし、地中に金属反応がないか探る。検知部を下げ過ぎると対人地雷の信管に触れるおそれがあり、逆に上げ過ぎると金属検知が難しくなる。

地雷の除去方法は未だに効率が悪く、地雷1個の除去に、その地雷の製造費の100倍は費用がかかるといわれている。また、危険を伴う人力作業が一般的である。しかし、紛争の傷跡が残る国では失業率が高いことが多く、地雷除去作業は雇用対策としての側面もある。

世界的に地雷の問題が注目を集める中で、危険な人力による除去方法の代替となり得る機械を用いた除去方法が世界各国で研究されているが、貧しい国は機械を購入したり運用する負担に見合わないと考える事が多く、援助以外での普及は進んでいない。また、機械により物理的な外力で起爆を誘う対人地雷の除去方法は、人手より確実性に劣り、特に金属性の部品をほとんど含まない非金属性地雷では、極めてローテクに属する人手に頼った除去方法以外に有効な手段がない。旧式の地雷は、長年土中に埋まっていることで金属筐体腐食信管/爆薬劣化といった経年変化による機能喪失が期待できたが、近代的な地雷ではプラスチックの採用を含む兵器としての性能向上によって、意図的に有効期間を短くしない限り何十年経っても機能を保ち続けるという特徴がある

世界発の除去活動

戦後復興における地雷処理に関してのノウハウ蓄積は、周辺国との紛争をくり返してきた南アフリカに一日の長がある。『Mine Detection Vehicle (MDV)』と呼ばれる、ロードサイドの地雷を探査する耐爆構造の探査車両が開発されており、南ア製の『Meerkat[7]』、『Husky[8][9]』は、イラクアフガン米軍IED探査に活用されている。 日本などの国では、地雷を除去するためのロボット開発が進んでいる。また、ブルドーザーショベルカーを改造した地雷除去用重機[10][11]も有り、一部高い効率で地雷を処理しているが、あまり普及していない。

アフリカタンザニアでは、ベルギー人のバート・ウィートジェンスが創設したNGOであるAPOPOが、ネズミ(嗅覚の鋭いサバンナアフリカオニネズミ英語版)の嗅覚をトレーニングして地雷を発見するという活動を行っている。と同等の探知能力を誇りながら、より安価に地雷の有無を調査できるという利点がある。トレーニングされたネズミはヒーローラッツと呼ばれ、チェンジ・メーカー、世界一受けたい授業など、日本のメディアでもたびたび取り上げられている。これらのネズミは、2019年までに10万個以上の地雷を発見している[12]。中でも活躍したマガワは、2020年9月に勇敢かつ献身的な動物に送られるPDSAゴールドメダルを授与されている[13]

ノルウェーのNGOであるノルウェージャン・ピープルズ・エイド(NPA:The Norwegian People’s Aid)は、1992年に地雷除去の活動を開始し、カンボジアモザンビークアンゴラボスニアなどで不発弾処理、地雷回避教育、地雷犬訓練を実施するなど、重要な役割を果たしている。


日本発の除去活動

日本ODAは、地雷除去を進めるNGOにも「日本NGO支援無償」として資金協力している。

人道目的の地雷除去支援の会(JAHDS)
1998年設立。カンボジアタイで地雷除去プロジェクトを実施(2006年活動終了)。
日本地雷処理を支援する会(JMAS)
2002年自衛隊OBが中心となって設立されたNGOで、「日本NGO支援無償」による援助を得てカンボジアで地雷・不発弾処理活動を行った。
日本紛争予防センター(JCCP)「人道的地雷除去プロジェクト」
実際の人道的対人地雷除去作業を日本の組織として初めて単独で行ったのは、外務省のNGO支援無償資金協力により活動資金を得て、元陸上自衛官の辰巳竜悟が中心となって2004年1月にスリランカで開始した日本紛争予防センターの対人地雷除去プロジェクトである。
NPO法人国際地雷処理・地域復興支援の会(imccd)
日本のPKO活動第1陣としてカンボジアへ派遣された元陸上自衛官の高山良二が設立した団体。「日本地雷処理を支援する会(JMAS)」より独立。

また、難民を助ける会が行う地雷回避教育や被害者の義足作成支援など、日本の非政府組織NGOによる対人地雷除去を後方から支援する活動も盛んに行われている。また、地雷により皮肉にも義足の需要が急激に増えており、義足などを無料で配布するボランティアなども多く存在している。

2001年に、坂本龍一が中心となり、N.M.L.(NO MORE LANDMINE)というユニットを結成、地雷撲滅のチャリティーソング「ZERO LANDMINE」を発売した。このCDの収益は地雷除去活動を支援するために使われた。


注釈

  1. ^ ただし、多種多様な形や色をしていて比較的小型な地雷は、子供におもちゃと誤認されやすい要素をもっていることから、子供を死傷のリスクに晒しやすいことが報告されている[4]。さらに、子供は身長が低く被爆しやすいことが死亡リスクを高めている[5]。ソ連軍のアフガニスタン進駐等で使用されたとする記事も多いが、実態は空中撒布式のバタフライ型地雷PFM-1であったようだ。不発弾を発見しやすくするための明るい色や、撒布時に適度な空気抵抗を得るための独特な形状を見ておもちゃと誤解した子供が触れたのを、手の込んだ罠であると解釈した事例が多い。
  2. ^ 白檀の粉(0.45kg)、鉄錆(酸化第二鉄)(85g)、白炭(生石灰)(140g)、柳炭(57g)、紅棗(170g)、糠(85g)などが配合されていた。この材料は20日から30日間、消えずに燃え続けることができたという。

出典

  1. ^ CMC - 地雷の恐ろしさ - 「悪魔の兵器」地雷”. cmc-net.jp. 2022年9月18日閲覧。
  2. ^ Demining | United Nations”. web.archive.org (2017年9月3日). 2022年9月18日閲覧。
  3. ^ a b c 赤十字国際委員会原著、難民を助ける会ボランティア訳、『対人地雷 味方か?敵か?』、自由国民社、1997年12月25日第1刷発行、ISBN 4426892015
  4. ^ 子どもたちを死へと誘う「悪魔のおもちゃ」 ユニセフ、地雷の製造中止を訴える”. www.unicef.or.jp. 日本ユニセフ協会 (2004年12月2日). 2020年9月26日閲覧。
  5. ^ 対人地雷除去機の開発”. www.hitachi.co.jp. 日立製作所 (2005年). 2020年9月26日閲覧。
  6. ^ 古田勝久「対人地雷探知除去の研究開発の総括をして」 (PDF) 『JISTEC REPORT Vol.74』(2010年冬季号)、社団法人 科学技術国際交流センター、p.2 、2010年8月22日閲覧
  7. ^ Meerkat Mine Detection Vehicle (MDV)”. 2010年2月24日閲覧。
  8. ^ Husky Metal Detecting and Marking Vehicle”. 2010年2月24日閲覧。
  9. ^ Husky(動画)”. 2010年2月24日閲覧。
  10. ^ 「地雷廃絶への挑戦」-アンゴラの地雷原に挑む-”. Film.hitachi.jp. 2010年2月24日閲覧。
  11. ^ 「地雷廃絶への挑戦」(前編)-大地に実りを、子供たちに笑顔を-”. Film.hitachi.jp. 2010年2月24日閲覧。
  12. ^ Karen, Brulliard (2017年12月21日). “These heroic rats detect land mines. Now they might help save an endangered anteater” (英語). Washington Post. https://www.washingtonpost.com/news/animalia/wp/2017/12/22/these-heroic-rats-detect-land-mines-now-they-might-help-save-an-endangered-anteater/ 2019年3月7日閲覧。 
  13. ^ 地雷を見つけるネズミに金メダル 救命活動に貢献のお手柄 BBC
  14. ^ トランプ氏、対人地雷の規制緩和を表明 オバマ政権の方針覆す” (2020年2月1日). 2020年2月1日閲覧。
  15. ^ a b c d e f g h i j k l m n Mike Croll (2008). “Landmines in War and Peace: From Their Origin to Present Day”. The Journal of ERW and Mine Action 15 (2). ISBN 9781844158416. https://commons.lib.jmu.edu/cisr-journal/vol15/iss2/33/. 
  16. ^ Mike Croll (2011). “Landmines in War and Peace: From Their Origin to Present Day”. The Journal of ERW and Mine Action 15. ISBN 9781844158416. https://commons.lib.jmu.edu/cisr-journal/vol15/iss2/33/. 
  17. ^ a b Needham, Joseph『Science and civilisation in China』Cambridge University Press、ケンブリッジ、1987年。ISBN 0-521-05799-XOCLC 779676https://www.worldcat.org/oclc/779676 
  18. ^ a b c d e Engineer: The professional bulletin for Army engineers』U.S. Army Engineer School、1998年。OCLC 992713445https://usace.contentdm.oclc.org/digital/collection/p16021coll8/id/2679 
  19. ^ Roger L. Roy; Friesen, Shaye K. (1999). “HISTORICAL USES OF ANTIPERSONNEL LANDMINES: IMPACT ON LAND FORCE OPERATIONS”. RESEARCH NOTE (DEPARTMENT OF NATIONAL DEFENCE CANADA) 9906. https://web.archive.org/web/20080626141634/http://213.162.22.164/fileadmin/pdf/review_conference/regional_conference/amman/Historical_Uses_Study.pdf. 
  20. ^ デンマークで地雷撤去を強いられた元ナチス・ドイツ少年兵の実話『ヒトラーの忘れもの』”. webDICE. 2022年9月19日閲覧。
  21. ^ ベトナム、国際社会とともに地雷の被害を克服”. ベトナムの声放送局 (2021年4月8日). 2022年9月19日閲覧。
  22. ^ 不発弾地帯… 戦乱続いたイラク、負の遺産”. www.afpbb.com. 2022年9月19日閲覧。
  23. ^ “Global death toll of landmines rises due to mines laid by militants”. Reuters. (2019年11月27日). https://www.reuters.com/article/us-landmines-iraq-idUSKBN1Y11Q5 
  24. ^ Landmines in Iraq: Questions and Answers (Human Rights Watch background Document, December 2002)”. www.hrw.org. 2022年9月19日閲覧。
  25. ^ Spiers, Edward M. (1989). Chemical Weaponry : a Continuing Challenge. (2nd ed ed.). London: Palgrave Macmillan Limited. ISBN 978-1-349-19881-8. OCLC 1085226353. https://www.worldcat.org/oclc/1085226353 
  26. ^ Barnaby, Frank (1992). The role and control of weapons in the 1990's. London: Routledge. ISBN 978-0-203-16831-8. OCLC 646717833. https://www.worldcat.org/oclc/646717833 
  27. ^ OPCW by the Numbers”. OPCW. 2022年9月19日閲覧。
  28. ^ Bird, Matthew D (2008-04). “Nuclear History Note US Atomic Demolition Munitions 1954–1989” (英語). The RUSI Journal 153 (2): 64–68. doi:10.1080/03071840802103306. ISSN 0307-1847. http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/03071840802103306. 
  29. ^ AP, Paul Srubas, Green Bay (Wis ) Press-Gazette via the (2019年1月14日). “The horrifying purpose of Special Atomic Demolition Munition units: ‘We all knew it was a one-way mission, a suicide mission’”. Army Times. 2022年9月19日閲覧。
  30. ^ British army planned nuclear landmines”. New Scientist. 2022年9月19日閲覧。
  31. ^ Landmine Monitor
  32. ^ [1][リンク切れ]
  33. ^ 旧軍の改造地雷 家屋も80戸損傷『朝日新聞』1974年3月3日朝刊、13版、19面
  34. ^ https://www.takaratomy.co.jp/release/pdf/i080528.pdf






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