北井一夫 北井一夫の概要

北井一夫

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/17 01:05 UTC 版)

きたい かずお
北井 一夫
生誕 (1944-12-26) 1944年12月26日(79歳)
満州鞍山
国籍 日本
職業 写真家
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人物

1965年横須賀港原子力潜水艦寄港反対闘争をテーマとした写真集『抵抗』を自費出版する。「私の写真は『抵抗』を撮ったことからはじまった」と自ら語っている[2]。『抵抗』は、北井が1964年20歳の時に「社会と写真の秩序への反抗を写真に定着させよう」という試みで出版。これが北井の写真の始まりとなる。あえて教科書的な名作写真とは正反対の「ダメ写真」を狙い、被写体を手ぶれやピンボケ、粗粒子、すり傷だらけで撮影、処理し、1年以上高温多湿な場所に放置したフィルム現像することで、乳剤面がはがれ張り付いたままのマチエール全学連デモを表現した[1]

1965年から1968年には、新左翼学生運動の全学連学生の運動を撮影。全国の大学で大学民主化を要求する組織全共闘による大学バリケード封鎖が勃発。在学中であった日本大学芸術学部校舎もバリケードで封鎖されたが、ストライキ学生たちと4ヶ月間寝食を共にし撮影。校舎内は学生らの衣食住の場と化し、非日常空間から日常空間へと変化する様子を記録[1]

1969年から1971年まで、『アサヒカメラ』に新東京国際空港建設反対闘争を取材した写真(『三里塚』)を連載するなど、ドキュメンタリー写真家として活動。当時、多くの同世代の写真家は「写真は都市論だ」として、新宿渋谷を撮っていたが、北井は若者の熱気にむせ返る都会を好きになれず、あえて経済成長とともに崩壊に向かう日本の農村の生活、風景をテーマにとることを決意。欧米では都市生活をドロップアウトしたヒッピーらが田舎生活を目指した時期と重なる。成田空港反対闘争の農村三里塚をリアリティを持たすために広角レンズで被写体に近づき撮る[1]

1970年から1973年にかけては、見知らぬ町や村を訪ね歩き、地方での生活者や風景をテーマに撮影。都会を目指し村を捨てる人たちや、農閑期出稼ぎで人気がなく年寄りと子供ばかりの村の風景を記録するが、父と別居した母の姿を見ることが少なかった自分自身の幼少期に近似性を感じる。北井にとって、撮影行は旅先の風景の中に幼児体験の記憶に残る残像を探し、失われた過去を呼びもどし、作り直す作業となる。これらは『いつか見た風景』(蒼穹舎、1990年)として結実する。

日本の農村の暮らしぶりに迫った『村へ』(1974年1977年)などの連載がある[3]。1970年代初頭には、漫画家のつげ義春らとともに、下北半島青森県)や国東半島大分県)などの僻地への撮影旅行を繰り返し、アサヒグラフに発表。その後、単行本『つげ義春流れ雲旅』(朝日ソノラマ 1971年、共著 絵:つげ義春、文章:大崎紀夫、写真:北井一夫)として刊行。すでに失われてた日本の原風景や昭和の日本人を記録するなど当時写真が都市を志向する中、「村」にこだわる強い姿勢を示した[4]。また、北京を撮影した写真集を発表したり中国の写真家を日本に紹介するなどの活動も行っている[5]

北井の作風は、見る者に新鮮でありながら懐かしい感情を想起させるものが多いが、その理由はどんなテーマであれ、そこに内在する「日常」に目を向けるとともに内側からの目線で表現されたものである。写真家団体やグループには一切所属せず、他の写真家との師弟関係も有せず、独自にキャリアを重ねてきた。昭和、平成という激動の社会の変化に翻弄されながら、個としての存在価値を模索する現代人に多く共感をされやすい身近で真実性のあるドキュメンタリー作家であるとの評価がある[1]

略歴




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