マイスタージンガー マイスタージンガーの規則と詩学

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マイスタージンガー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/19 08:01 UTC 版)

マイスタージンガーの規則と詩学

タブラトゥーア

タブラトゥーアは歌学校の規則で、ラテン語で「表(Tabula)」を意味し、数字式記譜法を表す音楽用語タブラチュアからその名がとられた。 タブラトゥーアは各都市により違いがある[16]。確認できる最古のタブラトゥーアは、1540年にニュルンベルクで定められたものである[2]。ニュルンベルクのタブラトゥーアには、他にザックスの弟子アダム・プッシュマンが記した1571/74年版も残っている[16]

ニュルンベルクのタブラトゥーアには、序に当たる「歌之掟(Leges Tabulaturae)」、それにつづく一般的規則、減点対象となる33の禁則が記されている[16]

バール形式

マイスタージンガーの詩型は「バール形式」による。バール(Bar)は、A-A-Bの3部構成が基本となる。複数行からなる「詩行(Vers, Verse)」Aをシュトレン(Stollen)と呼び、行数、韻律、押韻パターンとも同型のシュトレンを二つ並べたA-Aを「アウフゲザング(Aufgesang)」と呼ぶ。それに続く複数詩行Bは、アウフゲザングとは異なる形で「アプゲザング(Abgesang)」と呼ぶ。歌全体は、バール(A-A-B)の3連、ときには5 - 7連で構成する[17]

また、ゲゼッツ(Gesätz, Gesetz)は、詩節(Strophe)のまとまりのことである[20]。なお、アウフゲザングを指してゲゼッツとする場合もあり、ニュルンベルクのタブラトゥーアでは、A-A-B構成によるバールをゲゼッツとし、詩全体をバールと称するなど、この語の用法に関しては曖昧さが見られる。

マイスタージンガー自身は、バールと言う語を詩節(連)の集合である歌(Lied, Lieder)の意味で使っていたと思われる[21]

シュトレン(A)とアプゲザング(B)の行数規定については諸説あって一致しない。ただし、ニュルンベルクのタブラトゥーアには明文規定がないものの、6行以下は「過小の調べ(Überkürzer Ton)」、全体で100行を超える詩は「過大の調べ(Überlanger Ton)」として認められなかった[16]

詩と歌唱

の性格は、韻律と押韻によって決定される。これらの要素にはさまざまな名前が付けられている。

韻律
母音を1個含む音の最小単位が音節(Silbe)」であり、性質の異なる音節の組み合わせによって構成される言語リズムを「韻律(Maß)」[22]という。
音節の性質には、長短(例:Tag - Sachs)、硬軟(例:Gott - Tod)、明暗(例:母音e, i - 母音o, u)などがあるが、ドイツ語の詩ではアクセントの強弱により「強(揚)音節(Hebung)」と「弱(押)音節(Senkung)」に分けられる。この強弱の音節の組み合わせによって、韻律の最小単位「脚(Fuß)」を形成する。脚の例として、「ヤンブス(弱強、例:Verbot)」、「トロカイオス(強弱、例:Vater)」、「ダクテュルス(強弱弱、例:Heilungen)」などがある。音節数と1行中の脚数を「音数(Zahl)」と呼ぶ。
押韻
行末の「韻(Reim)」は、1音節による「男性韻(鈍い韻)」(例:Duft/Luft)と2音節からなる「女性韻(響く韻)」(例:Wonnen/ersonnen)に大別される。
行同士を押韻するときには、韻律のところで述べた「音数」をそろえなければならない。
隣接する行同士の押韻を「対韻(Paarreim)」、1行おきの押韻を「交差韻(Kreuzreim)」と呼ぶ。アプゲザングのように、詩節中では韻を踏まないが、他の詩節の行と押韻するものを「穀粒(Korn)」、まったく押韻しないものを「孤児(Waise)」と呼ぶ。
また、例えば冒頭で1音節だけの短い行が末尾でやはり1音節だけの行と押韻することを「休止(Pause)」、詩節の中間に並ぶ2音節からなる2行が押韻するものを「打ち付け韻(Schlagreim)」と呼ぶ[16]

こうした韻律・押韻による詩に音楽旋律をつけた「マイスターの調べ(Meisterton)」は、歌詞や譜面を見ずに単旋律で歌われる。 2つのシュトレンは同じ旋律によって歌うこと、また、マイスター歌の1行は息継ぎなしで歌われるため、13音節を超えてはならないと定められていた[16]


  1. ^ a b スタンダード・オペラ鑑賞ブック p.125
  2. ^ a b c d e 三宅・池上 p.219
  3. ^ 高津春久編訳『ミンネザング(ドイツ中世叙情詩集)』郁文堂 1978年、361-362頁。引用362頁。
  4. ^ 高津春久編訳『ミンネザング(ドイツ中世叙情詩集)』郁文堂 1978年、368-369頁。
  5. ^ Manessische Liederhandschrift. Vierzig Miniaturen und Gedichte. Edition Stuttgart im VS Verlagshaus Stuttgart 1985, S. 146-149.
  6. ^ 尾野照治『中世ドイツ再発見』近代文芸社 1998(ISBN 4-7733-6254-5)、248-270頁、引用254頁。
  7. ^ 尾野照治『中世ドイツ再発見』近代文芸社 1998(ISBN 4-7733-6254-5)、248-270頁、引用260頁。
  8. ^ Manessische Liederhandschrift. Vierzig Miniaturen und Gedichte. Edition Stuttgart im VS Verlagshaus Stuttgart 1985, S. 154-157.
  9. ^ Manessische Liederhandschrift. Vierzig Miniaturen und Gedichte. Edition Stuttgart im VS Verlagshaus Stuttgart 1985, S. 102-105. -『タンホイザー』の9.2「ヴァルトブルクの歌合戦の伝説」を参照。
  10. ^ 岸谷敞子・柳井尚子『ワルトブルクの歌合戦 伝説資料と訳注』大学書林、1987、12頁。
  11. ^ 当時のパリは人口10万人である。三宅・池上 p.214
  12. ^ 三宅・池上 p.214
  13. ^ a b 三宅・池上 p.217
  14. ^ それぞれほぼそのままの名前でオペラに登場するが、ケットナーのみはコートナーとなっている。
  15. ^ a b c d e 三宅・池上 p.220
  16. ^ a b c d e f g 三宅・池上 p.222
  17. ^ a b c d e 三宅・池上 p.221
  18. ^ ダヴィデは芸術、とりわけ音楽の守護者として知られ、マイスタージンガー組合のシンボルとして崇められた。三宅・池上 p.15
  19. ^ 組合は市当局の監視下にあった。
  20. ^ Die deutsche Literatur. Texte und Zeugnisse, II = Spätmittelalter, Humanismus , Reformation 2, Herausgegeben von Hedwig Heger. München (Beck)1978(ISBN 3-406-02247-2), S. 525.
  21. ^ Lexikon des Mittelalters. Bd. I. München/Zürich: Artemis 1980 (ISBN 3-7608-8901-8), Sp. 1426-1427. - Lexikon des Mittelalters. Bd. VI. München/Zürich: Artemis & Winkler1989 (ISBN 3-7608-8906-9), Sp. 486-488.- Jacob und Wilhelm Grimm: Deutsches Wörterbuch. Band I. Leipzig (S. Hirzel) 1854. = Nachdruck Band 1. München (Deutscher Taschenbuch Verlag) 1984 (ISBN 3-423-05945-1). Sp. 1121.
  22. ^ Maßはギリシア語mertonの訳語。詩の韻律法(Metrik)は音楽の拍節法(Metrik)に通じている。


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