ウクライナ紛争 (2014年-) ロシア政府の対応

ウクライナ紛争 (2014年-)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/06 09:41 UTC 版)

ロシア政府の対応

ロシア連邦政府は、クリミア半島については編入を宣言して実効支配しているものの(ロシアによるクリミア・セヴァストポリの編入)、ウクライナ本土東部2州の紛争については「ウクライナ国内の問題」という立場をとっている。ただし、後述するように、ウクライナ政府や独仏とこの問題に関する交渉を行っているほか、2019年4月24日にはウラジーミル・プーチン大統領が、親露派支配地域の住民が希望すればロシア国籍を付与する大統領令に署名した[18]。2022年2月21日には、ウクライナ東部の「ルガンスク人民共和国」「ドネツク人民共和国」を国家承認するなどし、欧米諸国から批判されている。 2022年2月24日、プーチン大統領はウクライナ東部住民保護を名目に「特別な軍事作戦を実施」と実質的な宣戦布告をし、ロシア軍は侵攻を開始。軍事施設や空港を巡航ミサイルで精密攻撃を行いウクライナの防空システムを制圧した。これに対し国連及び欧州諸国は激しく非難をした。

同年2月25日キーウ北側に位置するチェルノブイリをロシアが占拠した。

国際社会の反応

親露勢力がウクライナ本土東部2州で独立を宣言したドネツク人民共和国ルガンスク人民共和国によるノヴォロシア人民共和国連邦は、ロシアを除き、いずれの国際連合加盟国からも国家承認されていない[注 1]

欧米による調停や対ロ制裁

米国欧州連合(EU)加盟国などはロシアに対して経済制裁を実施する一方で、外交交渉を継続している[19](後述)。

ドイツフランスは東部ウクライナ2州についてウクライナとロシアを仲介し、2015年2月に停戦に合意したが(ミンスク合意)、その後も散発的に戦闘が続いている[20]

欧州安全保障協力機構(OSCE)が2014年から停戦を監視している。2017年4月、OSCEの装甲車がルガンスク州の親露派支配地域で地雷によるとみられる爆発に巻き込まれ、アメリカ人救急医療隊員1名が死亡、ドイツ人女性とチェコ人男性が負傷した。OSCEメンバーの犠牲は初めて[21]

アメリカ空軍は、ウクライナの要請を受けて同国上空で、オープン・スカイズ条約に基づくC-130偵察機型(OC-135B英語版)による監視飛行を2018年12月と2014年3月に実施した。これはカナダやヨーロッパ諸国の要員も乗り込んで行われた[22]

ICJは2017年4月19日、ウクライナ政府が求めていた「ロシアによる親露勢力への支援の認定」を、証拠不十分として退ける決定をした。ロシア外務省は「(ロシアによる)『侵略』や『占領』といったウクライナ側の主張は支持されなかった」とコメントした[5]

EUは2017年6月19日、ロシアのクリミア編入宣言に関する制裁の1年延長を発表[23]アメリカ財務省は2017年6月20日、ウクライナ東部紛争への関与を理由とする制裁対象に、ロシア政府当局者を含む38の個人・団体を追加した[24]

政府以外の動きとしては、西欧中欧諸国(ドイツフランスイタリアオーストリア等)や南北アメリカ各国のネオナチなどの極右過激派が、ウクライナ東部2州においてウクライナ側と親露勢力側の双方で「参戦」している。実戦経験を積むことや強権的なプーチンへのシンパシーなどが理由とされる[25]

4カ国協議

2019年12月9日、フランスのマクロン大統領、ドイツのメルケル首相の仲介で、ウクライナのゼレンスキー大統領とロシアのプーチン大統領がエリゼ宮にて会談を持った。5時間半に及んだ会談により、年内に捕虜の相互解放と停戦の履行を確認する共同声明が発表された[26]

ウクライナ社会への影響

ウクライナ南西部のロシア系住民が多く住む都市オデッサでは2014年5月2日、ウクライナの極右団体がロシア系の労働組合事務所に放火し38人が殺害された[27]

ウクライナの多くの地域で反ロシア的な世論が強まり、キリスト教ロシア正教会からのウクライナ正教会 (2018年設立)の正式な独立につながった。しかし、ウクライナ正教会の独立を承認したコンスタンティノープル総主教庁と、それに反発したロシア正教会モスクワ総主教庁による断交宣言は、世界中の正教会を巻き込んだ深刻な対立に発展しつつある(「モスクワとコンスタンティノープルの断交」参照)。

また歴史的に反ロシア感情が強い西部のリヴィウ州議会は2018年9月18日、ロシア語による歌曲を公共の場で流したり、書籍を出版したりすることを禁じる条例を可決した [28]


注釈

  1. ^ 両国を承認している南オセチア共和国は、ジョージアから事実上独立しているが、極めて限定的な国家承認しか得られていない。ロシアのプーチン大統領は2022年2月に独立を承認する大統領令に署名した。

出典

  1. ^ 【プーチンのロシア ウクライナ危機5年】(1)やまぬ砲撃 傷深く毎日新聞』朝刊2019年3月18日(1面)2019年3月20日閲覧。
  2. ^ NATO allies to provide more weapons to Ukraine, Stoltenberg says” (英語). Reuters (2022年2月26日). 2022年2月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年2月27日閲覧。
  3. ^ 欧州各国が相次ぎ武器供与 戦闘激化でウクライナ支援強化”. 時事通信社 (2022年2月26日). 2022年2月27日閲覧。
  4. ^ Snyder, Timothy (2018). The Road to Unfreedom: Russia, Europe, America. New York: Tim Duggan Books. p. 197. ISBN 9780525574477. https://books.google.com/books?id=l9KMDwAAQBAJ&q=timothy+snyder+road+to+unfreedom. "Almost everyone lost the Russo-Ukrainian war: Russia, Ukraine, the EU, the United States. The only winner was China." ; Mulford, Joshua P. (2016). “Non-State Actors in the Russo-Ukrainian War”. Connections 15 (2): 89–107. doi:10.11610/Connections.15.2.07. ISSN 1812-1098. JSTOR 26326442. ; Shevko, Demian; Khrul, Kristina (2017). “Why the Conflict Between Russia and Ukraine Is a Hybrid Aggression Against the West and Nothing Else”. In Gutsul, Nazarii. Multicultural Societies and their Threats: Real, Hybrid and Media Wars in Eastern and South-Eastern Europe. Zürich: LIT Verlag Münster. p. 100. ISBN 9783643908254. https://books.google.com/books?id=MhspDwAAQBAJ&q=%22Russo-Ukrainian+war%22&pg=PA134 
  5. ^ a b “国際司法裁判所 ウクライナ紛争の露支援を「証拠不十分」”. 朝刊. (2017年4月21日). https://mainichi.jp/articles/20170421/k00/00m/030/063000c 
  6. ^ (ロシア語)Большинство украинцев считают ситуацию в Донбассе войной с Россией 2014年10月6日
  7. ^ 「ウクライナ緊迫再び/艦艇拿捕/戒厳令 露との対立新局面」『読売新聞』朝刊2018年11月28日(国際面)
  8. ^ 「ウクライナ「クリミア奪還」初会議/米独 首脳級出席見送り『読売新聞』朝刊2021年8月24日(国際面)
  9. ^ a b 「クリミア問題で対ロ圧力 ウクライナ、連携狙う 44の国・機関招き首脳会議/米、対立懸念で慎重」日本経済新聞』朝刊2021年8月24日(国際面)同日閲覧
  10. ^ ウクライナ議会、東部2州の「再統合」法案可決『毎日新聞』朝刊2018年1月19日
  11. ^ Sergiy Karazy,Matthias Williamsによる現地レポート。ロイター/INSP。日本語記事「ウクライナ、新たな大統領はコメディ俳優 希望の見えない紛争地帯に平和は訪れるか?」は『ビッグイシュー359号掲載(2019年6月15日閲覧)
  12. ^ 「ウクライナ東部 緊張緩和/政府軍、親露派 前線から兵力撤退/露独仏と首脳会談再開も」『毎日新聞』朝刊2019年11月13日(国際面)2019年11月14日閲覧
  13. ^ 【地球コラム】新ウクライナ危機、プーチンの真意は 時事通信(2022年1月7日閲覧)
  14. ^ a b c 「露軍への備え ウクライナ加速/抵抗運動法施行■NATOと協議へ」『読売新聞』朝刊2022年1月5日(国際面)
  15. ^ 大統領は、一時的に占領されたクリミアの占領と再統合のための戦略を承認(2021年5月4日閲覧)
  16. ^ 米露首脳がオンライン会談 バイデン大統領「次は対面で会いたい」”. 毎日新聞 (2022年1月8日). 2022年1月8日閲覧。
  17. ^ 米露首脳、30日に電話会談へ ウクライナ情勢を協議”. 産経新聞 (2022年1月8日). 2022年1月8日閲覧。
  18. ^ 「ウクライナ住民にロシア国籍付与/東部地域 新政権揺さぶる狙い」朝日新聞』朝刊2019年4月26日(国際面)2019年4月26日閲覧
  19. ^ “EU露外相会談 ウクライナ問題を協議”. 毎日新聞ニュース. (2016年4月24日). https://mainichi.jp/articles/20170425/k00/00m/030/044000c?ck=1 
  20. ^ “ウクライナ紛争解決ほど遠く 停戦合意1年”. 『毎日新聞』朝刊. (2016年2月12日). https://mainichi.jp/articles/20160212/k00/00m/030/090000c 
  21. ^ “OSCE監視団に初の犠牲 ウクライナ東部で爆発”. 産経新聞ニュース. (2017年4月24日). https://www.sankei.com/photo/daily/news/170424/dly1704240010-n1.html 
  22. ^ 「米軍がウクライナで監視飛行 クリミアでの動き牽制か」『産経新聞』朝刊2018年12月7日(国際面)2018年12月26日閲覧
  23. ^ “EU、クリミア制裁を1年延長”. 『日本経済新聞』夕刊. (2017年6月20日). http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM20H06_Q7A620C1EAF000/ 
  24. ^ “米、対ロシア制裁 強化ウクライナ巡り”. 『日本経済新聞』夕刊. (2017年6月21日). http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM21H0T_R20C17A6EAF000/ 
  25. ^ 欧州極右、ウクライナへ実戦 経験狙い」『毎日新聞』朝刊2020年9月10日(国際面)2020年10月6日閲覧
  26. ^ ロシアとウクライナが首脳会談、ウクライナ東部の停戦で合意”. CNN (2019年12月10日). 2019年12月10日閲覧。
  27. ^ 38 die in fire lit by Right Sector radicals at Odessa trade union council buildingイタルタス通信(2014年5月3日)2021年8月24日閲覧
  28. ^ 「旧ソ連圏、強まる反露感情 ロシア語離れ加速」『産経新聞』朝刊2018年9月30日(国際面)2019年1月10日閲覧


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