M-3SII 8号機
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/02 16:36 UTC 版)
「M-3SIIロケット」の記事における「M-3SII 8号機」の解説
「EXPRESS (人工衛星)」も参照 第8号機の地球再突入実験機「EXPRESS」は、予定の軌道投入に失敗した。8号機のノーズフェアリング内重量は、カタログ上の低軌道打ち上げ能力ギリギリであるEXPRESSの重量765kgにキックモーターKM-Mが上乗せされるという過去に経験したことのないものであった。しかも、飛翔マニューバーは、前例の少ない「第三段を軌道上に乗せず、海上に落とす」ものであった。 M-3SIIの第3段とキックモーターは無誘導であるため、キックモーターの使用は「無誘導に無誘導を重ねる」事となり、軌道誤差が大きくなる。そこでM-3SII 7号機まででは、第3段までで最低限の地球周回軌道成立を保証し、キックモーターで軌道成立後の追加加速を行うように飛翔マニューバーを設計していた。このマニューバーでは、キックモーター燃焼後に時間を掛けて衛星側のスラスタで軌道誤差を修正すれば予定軌道投入に対するロバスト性を確保できる(実際「ひてん」では第3段とキックモーターの製造バラツキに起因する軌道誤差のため、軌道投入後、運用計画自体が大変更されている)。しかし、8号機では、後述するように近地点がぎりぎりの軌道であるにも関わらず、第3段とキックモーターを重ねてダイレクトに軌道投入する予定であった。よって、8号機の飛翔にあたっては、軌道設計の面で余裕が無く、不測の事態が発生した際のロバスト性が確保されていない事が懸念されていた。 軌道設計面におけるロバスト性のみならず、8号機はノーズフェアリング内重量と地上との風との兼ね合いにより、M-3SIIの飛翔制御能力におけるロバスト性も確保されていなかった。8号機は、順調に飛翔したとしても、飛翔中にロケットが風に流された結果、第1段のTVC燃料が尽きて第1段の燃焼後半が無誘導状態となり、この飛翔誤差を第2段のTVCを限界まで駆使することにより修正する事態すら予定されていた。つまり、不測の事態が発生しなくとも、第1段と第2段のTVCの燃料はそれぞれギリギリであったと言える。このようにISAS側では、「8号機は、軌道設計の見地からも、飛翔制御の見地からも「不測の事態」が許されず、何もかもが余裕の無い飛翔マニューバーである」ことが事前に解っており、危惧の声があった。 しかし8号機は文部省と通産省との共同プロジェクトであるため、強引に押し切られてしまった。そのような危惧のもとで打ち上げられた8号機では、あまりに重いノーズフェアリング内重量のため、第2段目と第3段目の結合部を中心に機体が予期しない震動を起こし、この震動を制御するために噴射した第2段誘導装置のTVCの噴射間隔(噴射間隔は固定であり可変できなかった)と震動周期が偶然共振した。このため震動を制御できないまま第2段燃焼中にTVCの燃料が尽きて一時的に第2段が無誘導状態となってしまった。その結果、衛星の近地点高度が計画値より約100km程低下した。 一般に衛星軌道が成立するためには最低でも約 200km程度の高度が必要である。元々EXPRESSで予定されていた近地点高度は 210 kmというぎりぎりの計画であったが、打ち上げ後にEXPRESSの電波の受信に成功したことから衛星軌道は成立したと考えられた。しかし2周目の電波は確認できなかったことから、EXPRESSは地球を2、3周したのち太平洋に落下したとISASは予想した。機体は10ヶ月後にガーナで発見され、大気圏再突入は成功が確認されたが、一方でEXPRESSがどのような軌道を辿ったかについては謎を残した。
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