極限 (圏論)
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/29 21:38 UTC 版)
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数学の一分野圏論において、極限とは積や引き戻しや逆極限といった普遍的な構成たちの根底にある性質を捉えた抽象概念である。双対的に余極限とは非交和、直和、余積、押し出し、直極限のような構成を一般化したものである。
極限と余極限は、強く関連した概念である普遍性や随伴関手と同様に、高度に抽象化された存在である。これらを理解するために、一般化される前の特定の概念を先に学ぶのがよい。
定義
圏Cにおける極限と余極限はC上の図式に関して定義される。形式的には、形がJであるCにおける図式はJからCへの関手
- F : J → C
のことである。圏Jは添字圏であるとみなし、図式FはCの対象と射をJの形に並べたものとみなす。Jの実際の対象や射は特に意味はなく―それらの繋がり方だけが意味を持っている。
圏Jとして使われるものは、多くの場合、小さい圏であり、有限であることもある。図式が小さい、有限であるなどは圏Jがそうであることをいう。
極限
F : J → C をCにおける形がJの図式であるとする。Fへの錐とは、Cの対象Nと、Jの対象Xで添え字付けられた射の族ψX : N → F(X)の組(N, ψ)のうち、全てのJの射f : X → YがF(f) o ψX = ψYを満たすものをいう。

図式F : J → Cの極限とはFへの錐(L, φ)であって、他のどのFへの錐(N, ψ)に対しても、一意な射u : N → Lが存在して、Jの全ての対象XがφX o u = ψXを満たすようにできるものをいう。

このとき、錐(N, ψ)は錐(L, φ)を経由して一意な分解射uにより分解されるという。射uは仲介射であると呼ばれることもある。
極限は普遍性によって特徴付けられる(下記を参照)ので、普遍錐であるということもできる。他の普遍性と同様に、上の定義は一般性が釣り合った状態であることを述べている。つまり、極限対象Lは各錐がこれを経由して分解できるほどに一般性を持ち、分解が一意であるのに十分な具体性も持っている。
極限はFへの錐の圏の終対象であると特徴付けることもできる。
図式が極限を持たないこともある。しかし、もし図式が極限を持つならば、それは本質的に一意である。すなわち、同型による違いを除いて一意である。このことがFの唯一の (the) 極限と呼ぶことのある理由である。
余極限
極限と錐の双対概念が余極限と余錐である。上の定義における射の向きを全て逆にすることで定義を得ることもできるが、ここでは実際に書いてみることにする。
図式F : J → Cからの余錐とは、Cの対象Nと、Jの各対象Xで添え字付けられた射の族
- ψX : F(X) → N
の組(N, ψ)のうち、Jの各射f : X → YがψY o F(f)= ψXを満たすもののことである。

図式F : J → Cの余極限とはFからの余錐(L,
余極限は普遍余錐であり、Fからの余錐の圏における始対象として特徴付けることができる。
極限の場合と同様に、図式Fが余極限を持てば、それは同型を除いて一意である。
他の定義
極限と余極限は図式を使わずに、対象と射の集まりが与えられれば定義することができる。この場合の定義も上と同じである(上の定義ではJの射の合成を全く使わなかったことに注意)。しかしながら、この定義は何も新しい情報をもたらさない。対象と射の集まりは(大きくなりうる)有向グラフGを定める。そして、JをGの生成する自由圏とすると、Gの像を包含する普遍的な図式F : J → Cが存在する。この図式の極限(余極限)はもとの対象と射の集まりの極限(余極限)と同じになる。
弱極限と弱余極限は極限と余極限の定義から仲介射の一意性を除いたものをいう。
例
極限
極限の定義は実際によく使われている多くの構成を十分に包摂する一般的なものである。以下では図式F : J → Cの極限(L, φ)について考える。
- 終対象。Jが空な圏である場合は、形がJである図式はただひとつであり、それは空である(集合論の空写像と同様である)。空な図式の錐はCの勝手なひとつの対象のことであり、Fの極限は他のどの対象もそれを経由して一意に分解する。これは終対象の定義そのものである。
- 積。Jが離散圏の場合は、図式FはたんにJで添え字付けられたCの対象の族である。Fの極限Lはこれらの対象の積と呼ばれる。錐を構成する射の族 φX : L → F(X) は積からの射影と呼ばれる。例えば集合の圏においては、積は直積集合であり、射影は各因子への自然な射影のことである。
- 冪。積の特別な場合として、図式Fの対象関数がCの対象Xへの定数関数であるとする。この図式の極限をXのJ乗と呼び、XJと記す。
- 等化子。Jの対象が二つであり、恒等射以外には対象1から対象2への平行な二つの射からなる場合は、形がJである図式はCにおける平行な射の対である。このような図式の極限はこれらの射の等化子と呼ばれる。
- 引き戻し。図式Fが三つのCの対象XとYとZを選び、恒等射でない射はf : X → Zとg : Y → Zのみであるとする。Fの極限Lは引き戻しまたはファイバー積と呼ばれる。
- 逆極限。Jを有向半順序集合とし(i ≤ jに対して射i → jを追加した小さな圏とみなす)、F : Jop → Cを図式とする。Fの極限は(まぎらわしいが)逆極限、射影極限、有向極限と呼ばれる。
- J = 1のとき、すなわち、ひとつの対象とひとつの射からなる圏であるとき、形がJの図式は本質的にはCのひとつの対象Xのことである。対象Xへの錐はたんにXを余ドメインとする射である。射f : Y → Xが図式Xの極限であるのは、fが同型射のときであり、またそのときに限る。より一般的に、Jが始対象iを持つ圏であるとき、形がJである任意の図式は極限をもち、それはF(i)に同型な対象のことである。このような同型はFへの普遍錐を一意に定める。
- 位相的な極限。関数の極限はフィルター極限の特別な場合であり、圏論的な極限とは次のような関係がある。Xを位相空間とし、FはX上のフィルターの集合とし、x ∈ Xを点とし、V(x) ∈ Fをxの近傍フィルターとし、A ∈ Fをひとつのフィルターとし、この節には参考文献や外部リンクの一覧が含まれていますが、脚注によって参照されておらず、情報源が不明瞭です。
- Adámek, Jiří; Horst Herrlich, and George E. Strecker (1990). Abstract and Concrete Categories. John Wiley & Sons. ISBN 0-471-60922-6
- Mac Lane, Saunders (1998). Categories for the Working Mathematician. Graduate Texts in Mathematics. 5 (2nd ed.). Springer-Verlag. ISBN 0-387-98403-8. MR 1712872. Zbl 0906.18001 日本語訳: 三好博之、高木理『圏論の基礎』シュプリンガーフェアラーク東京、2005年。 ISBN 978-4431708728。
外部リンク
- Interactive Web page which generates examples of limits and colimits in the category of finite sets. Written by Jocelyn Paine.
- Limit (category theory)のページへのリンク