1987年の世界ツーリングカー選手権とは? わかりやすく解説

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1987年の世界ツーリングカー選手権

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/05/06 18:31 UTC 版)

1987年の世界ツーリングカー選手権
前年: 無し 翌年: 2005

1987年の世界ツーリングカー選手権は、1987年3月22日イタリアモンツァ・サーキットで開幕し、11月8日日本富士スピードウェイで閉幕するまで、全11戦で争われた。

概要

1987年、世界ツーリングカー選手権(WTC)が開催されることになった。これは1986年に行われたFIA・ツーリングカー選手権(TCC)を発展させたもので、ツーリングカー・レースとして初めての世界選手権であった。WTCにはBMWフォードアルファロメオマセラティがワークスチームを派遣し、ドライバーズ・タイトルはBMWのロベルト・ラヴァーリアが、チームズ・タイトルはエッゲンバーガー・フォード7号車が獲得した。

見落とされがちなことであるが、ヨーロッパツーリングカー選手権については、前年限りで消滅したわけではなく、エントリー費用がより安い(6,000ドル)選手権として、この年も存続した。CiBiEmmeスポーツなど、幾つかのチームはWTCとは別に車両やドライバーをエントリーさせたが、選手権を分割させたこの試みは混乱を助長させたのみで終わり、翌年は再びヨーロッパツーリングカー選手権(ETC)として一本化された。しかしながら、この年に引き起こされた混乱と低迷は尾を引き、ETCは1988年をもってその歴史に一旦幕を下ろすこととなる。

2005年から「世界ツーリングカー選手権(World Touring Car Championship, WTCC)」という同じ名前の選手権が開催されることとなるが、耐久レース色の強いWTCに対してスプリントレースとなっているなど、内容としては大きく異なるものである。

車両

Div. 車種 排気量・種別
3 マセラティ・ビトゥルボ 2,491cc・ターボ
フォード・シエラRSコスワース
フォード・シエラRS500
1,993cc・ターボ
ホールデン・コモドア 4,980cc・NA
フォード・マスタング 4,968cc・NA
BMW・635CSi 3,475cc・NA
トヨタ・スープラ ターボ 2,954cc・ターボ
ボルボ・240 ターボ 2,141cc・ターボ
日産・スカイラインGTS-R (R31) 2,029cc・ターボ
日産・スカイラインRSターボ (R30) 1,990cc・ターボ
三菱・スタリオンターボ 1,998cc・ターボ
2 BMW・M3 2,332cc・NA
アルファロメオ・75ターボ 1,779cc・ターボ
メルセデス・ベンツ・190E 2,323cc・NA
1 アルファロメオ・33 1,498cc・NA
日産・パルサーEN13 1,598cc・NA
アウディ・80GLE 1,596cc・NA
フォルクスワーゲン・ゴルフGT1 1,596cc・NA
ホンダ・シビック 1,595cc・NA
トヨタ・カローラGTなど 1,587cc・NA

BMWBMW・M3)、フォード(フォード・シエラRSコスワース、シエラRS500)、アルファロメオアルファロメオ・75ターボ33)、マセラティマセラティ・ビトゥルボ)が選手権にエントリーした。

ディビジョン2クラスのBMW・M3は、高いコーナリング性能を追求して前代の主力マシン・635CSiの直列6気筒から直列4気筒へとエンジン変更を行った。またスポイラーを装備して空力性能を向上させていた[1]

ディビジョン1のフォード・シエラ RSコスワースは直列4気筒エンジンにターボを装備したハイパワー・マシンで、シーズン中盤に大径ターボに換装されたエボリューションモデルのシエラ RS500が投入されると選手権におけるフォードの優位は確実なものとなった。RS500のエンジンは500馬力近いパワーを持ち、またスポイラーのモディファイなどによって大幅な競争力向上を達成していた[2]

アルファロメオは、ディビジョン2クラスの75ターボのエボリューションモデルを新たに開発した。チンスポイラー、サイドスカートを装備した75ターボのcd値は0.33を記録し、トランスアクスルによるマシンバランスの良さを美点としていた[3]。またアルファロメオはディビジョン1クラスに33もワークスカーとしてエントリーさせた。13年ぶりにワークス活動を再開したマセラティはV6・ツインターボの高性能スポーツカーのビトゥルボを投入したが、マシンのチューンの度合いが低く競争力は不足していた[4]

エントリー費用値上げの影響により前年度に参戦したチームから選手権への参戦見合わせが相次いだため、前年度参戦していた車の中で、前年のマニュファクチャラーズタイトルホルダーであるトヨタほか、メルセデス・ベンツボルボアウディフォルクスワーゲンの車両については、ワークスチームも含め選手権非参戦組のみが用いた。

タイヤは、選手権に参戦したチームを含め大部分がダンロップピレリヨコハマのいずれかを装着したが、それ以外ではブリヂストンを履いた車両(日産・スカイライン)もいた。

区分

車両区分(ディビジョン)については、排気量1,600cc以下の車両は「ディビジョン1」、1,600ccを超え2,400cc以下の車両は「ディビジョン2」、2,400ccを超える車両もしくは1,800ccを超えかつターボチャージャーを搭載している車両については「ディビジョン3」となっている(右表。太字は選手権参戦車両)。

出場車両一覧

ディビジョン3

ディビジョン2

ディビジョン1

エントリーリスト

(選手権参戦チームのみ。各チームのドライバーの配列は参戦順)

No. チーム名 車種 Div. タイヤ ドライバー
1 プロチーム・イタリア/インベルティ
Pro Team Italia/Imberti
マセラティ・ビトゥルボ 3 ダンロップ ブルーノ・ジャコメリ
アルミン・ハーネ (Armin Hahne)
マルセロ・グネッラ (Marcello Gunella)
マリオ・ヒッテン (Mario Hytten)
ニコラ・テシーニ (Nicola Tesini)
ケビン・バートレット (Kevin Bartlett)
6 エッゲンベルガーモータースポーツ
Eggenberger Motorsport
フォード・シエラRSコスワース
フォード・シエラRS500
3 ピレリ スティーブ・ソパー (Steve Soper)
クラウス・ニーヅビーズ (Klaus Niedzwiedz)
ピエール・デュドネ (Pierre Dieudonné)
7 エッゲンベルガーモータースポーツ
Eggenberger Motorsport
フォード・シエラRSコスワース
フォード・シエラRS500
3 ピレリ アンディ・ロウズ (Andy Rouse)
ティエリー・タッシン (Thierry Tassin)
クラウス・ルドヴィック (Klaus Ludwig)
ピエール・デュドネ (Pierre Dieudonné)
クラウス・ニーヅビーズ (Klaus Niedzwiedz)
8 アンディ・ラウズ・レーシング
Andy Rouse Engineering
フォード・シエラRSコスワース
フォード・シエラRS500
3 ピレリ クラウス・ルドヴィック (Klaus Ludwig)
ピエール・デュドネ (Pierre Dieudonné)
アンディ・ロウズ (Andy Rouse)
ティエリー・タッシン (Thierry Tassin)
ウィン・パーシー (Win Percy)
アルミン・ハーネ (Armin Hahne)
ベルント・シュナイダー
40 シュニッツァー
Schnitzer
BMW・M3 2 ヨコハマ イヴァン・カペリ
ロベルト・ラヴァーリア
ローランド・ラッツェンバーガー
エマヌエレ・ピッロ
42 CiBiEmmeスポーツ
CiBiEmme Sport
BMW・M3 2 ピレリ リカルド・パトレーゼ
ジョニー・チェコット
ジャンフランコ・ブラカテリ (Gianfranco Brancatelli)
マウロ・バルディ (Mauro Baldi)
43 ビガッツィ
Bigazzi
BMW・M3 2 ピレリ ルイス・ペレス=サラ
オリビエ・グルイヤール
ヴィンフリート・ヴォクト (Winfried Vogt)
46 シュニッツァー
Schnitzer
BMW・M3 2 ヨコハマ エマヌエレ・ピッロ
ローランド・ラッツェンバーガー
ロベルト・ラヴァーリア
マルクス・オストライヒ (Markus Oestreich)
ディーター・クエスター (Dieter Quester)
75 アルファ・コルセ
Alfa Corse
アルファロメオ・75 ターボ 2 ピレリ アレッサンドロ・ナニーニ
マイケル・アンドレッティ
ジャック・ラフィット
パオロ・バリッラ
ジョルジオ・ピアンタ (Giorgio Pianta)
ジャン=ルイ・シュレッサー
ニコラ・ラリーニ
76 アルファ・コルセ
Alfa Corse
アルファロメオ・75 ターボ 2 ピレリ ジョルジオ・フランシア (Giorgio Francia)
パオロ・バリッラ
ジャン=ルイ・シュレッサー
ジョルジオ・ピアンタ (Giorgio Pianta)
アレッサンドロ・ナニーニ
77 ブリクシア・コルセ
Brixia Corse
アルファロメオ・75 ターボ 2 ピレリ リナルド・ドロヴァンディ (Rinaldo Drovandi)
クラウディオ・ランジェス (Claudio Langes)
ガブリエル・タルキーニ
78 ブリクシア・コルセ
Brixia Corse
アルファロメオ・75 ターボ 2 ピレリ カルロ・ロッシ (Carlo Rossi)
アレッサンドロ・サンティン (Alessandro Santin)
79 アルバテック
Albatech
アルファロメオ・75 ターボ 2 ピレリ ヴァルテル・ヴォウラス (Walter Voulaz)
マルセロ・チプリアーニ (Marcello Cipriani)
アヴァンツォ (d'Avanzo)
マッシモ・シエナ (Massimo Siena)
80 Qレーシング
Q-Racing
アルファロメオ・75 ターボ 2 ピレリ トマス・リンドストロム (Thomas Lindström)
(Mikael Naebrink)
100 アルファ・コルセ
Alfa Corse,
Alfa Romeo Benelux,
Scuderia Autolodi Corse S.r.l.
アルファロメオ・33 1 ピレリ トビー (Toby)
ジョヴァンニ・マッジオレッリ (Giovanni Maggiorelli)
ルイス・ヴィラミル (Luis Villamil)
アラン・ティエボー (Alain Thiebaut)
ダニエレ・トッフォリ (Daniele Toffoli)
ジョルジオ・フランシア (Giorgio Francia)

開催カレンダー

開催日 開催国 開催サーキット
イベント名
総合優勝 選手権優勝
# ドライバー
周回数 / 車種
# ドライバー
周回数, 総合順位
3月22日 イタリア モンツァ
モンツァ500kmレース
5 アラン・モッファット (Allan Moffat)
ジョン・ハーヴェイ (John Harvey)
86周 / ホールデン・コモドア
79 ヴォウラス
チプリアーニ
79周, 7位
4月19日 スペイン ハラマ
ハラマ4時間レース
46 エマニュエル・ピロ
ロベルト・ラヴァーリア
ローランド・ラッツェンバーガー
150周 / BMW・M3
(同左)
5月10日 フランス ディジョン
ブルゴーニュ500kmレース
42 ジャンフランコ・ブランカテリ
ジョニー・チェコット
112周 / BMW・M3
(同左)
7月12日 ドイツ ニュルブルクリンク 7 クラウス・ルドヴィック
クラウス・ニーヅビーズ
ピエール・デュドネ *
111周 / フォード・シエラRSコスワース
(同左)
8月1日~2日 ベルギー スパ・フランコルシャン
スパ24時間レース
48 エリック・ヴァン・デ・ポール
ジャン=ミシェル・マルティン (Jean-Michel Martin)
ディディエ・セイズ (Didier Theys)
481周 / BMW・M3
43 ペレス=サラ
グルイヤール
ヴォクト
473周, 2位
8月16日  チェコ ブルノ 7 クラウス・ルドヴィック
クラウス・ニーヅビーズ
93周 / フォード・シエラRS500
(同左)
9月6日 イギリス シルバーストン 48 エンツォ・カルデラリ (Enzo Calderari)
ファビオ・マンシーニ (Fabio Mancini)
105周 / BMW・M3
46 ピッロ
ラヴァーリア
ラッツェンバーガー *
105周, 2位
10月4日 オーストラリア バサースト
バサースト1000kmレース
48 スキッピー・パーソンズ (David "Skippy" Parsons)
ピーター・ブロック (Peter Brock)
ピーター・マクレオッド (Peter McLeod)
ジョン・クルーク (Jon Crooke) *
158周 / ホールデン・コモドア
42 ブラカテリ
チェコット
154周 / 7位
10月11日 オーストラリア カルダー
カルダー500kmレース
6 スティーブ・ソパー
ピエール・デュドネ
クラウス・ルドヴィック *
120周 / フォード・シエラRS500
(同左)
10月26日 ニュージーランド ウェリントン
ウェリントン500kmレース
7 クラウス・ルドヴィック
クラウス・ニーヅビーズ
150周 / フォード・シエラRS500
(同左)
11月15日 日本 富士
インターTEC 500kmレース
6 クラウス・ルドヴィック
クラウス・ニーヅビーズ
112周 / フォード・シエラRS500
(同左)

* 斜体のドライバーは2人(3人)の正式ドライバーの中には含まれない3人目(4人目)であるため、選手権ポイントは与えられない(同一レースでも自分が登録されている他の車両で獲得したポイントは有効)。

シーズンレビュー

TCCはヨーロッパツーリングカー選手権(ETC)が改称されたものだったため、イベントの開催地はヨーロッパのみであったが、WTCではオセアニア・アジア地区でも4戦がカレンダーに組み込まれた。WTCにはBMW、フォード、アルファロメオ、マセラティがワークス参戦したが、TCCに参戦していたローバーボルボは撤退した[5]。1986年のTCCでローバーのワークス・チームとして活動していたトム・ウォーキンショー・レーシング(TWR)は、ホールデンのワークスチームとしてWTCに参戦を計画していた[6]

WTCの開幕戦 モンツァ500㎞ トロフェオ・マリオ・アンジー二は3月22日に行われたが、開幕直前になってFISAが参戦チームに1台あたり6万ドルの登録料を求めたことが波紋を引き起こした。TWRはFISAに抗議の意思を示すためにWTCを撤退を決断し、ホールデンのWTC参戦は取りやめとなった。開幕戦に出場したマシンの中で登録料を払っていたのはBMWのシュニッツァー2台、リンダー2台。アルファロメオの6台、フォード2台、マセラティ、アルファロメオ33の1台に過ぎなかった[7][8]。混乱はさらに続き、フォード・ワークスのエッゲンバーガーのシエラRSコスワースはインジェクションがレギュレーション違反とされ開幕戦を欠場し、決勝で1位から6位までを独占したBMW M3もレース後にトランクリッドの材質がカーボン製であることが違法とされ失格になった[9]。決勝レースはオーストラリアから遠征してきたアラン・モファットのホールデン・コモドアが優勝したが、選手権未登録のためポイントは与えられず[10]、登録車中最上位でゴールした7位のアルファロメオ75が40ポイントを獲得し、最下位に終わったマセラティが登録車中2位に該当したため30ポイントを得ることになった[10][11]

第2戦 マールボロ・ハラマ4時間ではBMWワークスのシュニッツァーがピロ/ラヴァーリア組46号車、カペリ/ラッツェンバーガー組の40号車の順で1‐2フィニッシュを達成した。またビガッツィのサラ/グルイヤール組も3位に入りBMWが表彰台を独占した。予選でフロントローを占めたエッゲンバーガーは決勝では4、5位に終わった。続くフランス・ディジョンで開催の第3戦 ブルガンディ500でもBMWのシビエムのチェコット/ブランカテリ組42号車、シュニッツァーのラヴァーリア/カぺリ/ピロ組40号車の順で1‐2フィニッシュでゴールした。エッゲンバーガーのシエラは3、4位でゴール、アンディ・ロウズのシエラも5位に入賞した[12]

ニュルブルクリンクで行われた第4戦 ADAC トゥーレンハーゲンGPにはTWR・ホールデンがスポットで出場した。またアルファロメオとマセラティは、新たな公認パーツを投入しマシンの競争力を向上させた。特にアルファロメオはリアアクスルとギヤボックス、フロントサスペンションが改良され足回りの強化が図られた[13][11]。レースはエッゲンバーガーのルドヴィック/ニーツビーツ組7号車が初優勝し、BMW M3勢が2位から7位に続いた[14]

第5戦 スパ・フランコルシャン24時間ではRASスポールのトヨタ・スープラがデビューした。レースは予選を1‐2で終えたエッゲンバーガー勢が決勝でもレースをリードした。この2台を追っていたシュニッツァーのラヴァーリア/カぺリ/ピロ組の40号車は11時間が経過した233周目にエンジントラブルでリタイアすると、エッゲンバーガーの優位は確実になった。しかし徐々にデュドネ/ソーパー/ストレイフ組の6号車が遅れだし18時間目、332周でエンジントラブルでリタイアした。替わって2位に浮上したラッツェンバーガー/クェスター/オストライヒ組のシュニッツァー46号車もエンジントラブルで後退した。首位を走っていたルドヴィック/ニーツビーツ/ブーツェン組の7号車だがロウズ/タッサン/パーシー組のロウズ・シエラ8号車と接触した際に冷却系を壊してしまい20時間目・406周でレースを終えた。優勝したのは地元ベルギーのドライバーを揃え、予選14位から順位を上げていたシビエムのM3で、ビガッツィ、フランスのガレージ・デュ・バックのM3が2位、3位でゴールした。出走は61台、完走は28台だった[15][16]

第6戦 ブルノ・グランプリではフォード・シエラ RSコスワースのエボリューションモデル、シエラ RS500がデビューした。予選でフロントロウを独占したエッゲンバーガーのシエラRS500は決勝でもBMW勢を圧倒し、3位以下を周回遅れにして1‐2フィニッシュでデビューウィンを飾った。BMW勢が3位から5位に続き、アルファロメオのトーマス・リンドストローム/スティーブン・アンドスカー組がBMW勢から1周遅れの6位でゴールし、新パーツ投入によるマシンの性能向上を証明した。

続く第7戦 ツーリスト・トロフィーでもエッゲンバーガーとアンディ・ロウズ、ウルフ・レーシングのシエラ RS500が予選で上位を独占した。しかし決勝レースではフォード勢にメカニカルトラブルが重なり上位入賞を逃してしまった。フォード勢の後退後ビガッツィのサラ/グルイヤール組の43号車が首位に浮上したが、残り2周でスピンアウトし、替わってトップに立った選手権未登録のシビエムM3が優勝した。ラヴァーリア/ピロ/ラッツェンバーガー組のシュニッツァー46号車が選手権登録車中最上位の2位でゴールした。アルファロメオ・75ターボは、フランチア/シュレッサー組の79号車が優勝マシンと同一周回の3位でゴールして、初の表彰台を獲得した[17]。しかしアルファロメオは、1989年からのプロカーの開発と予算の問題を理由にツーリスト・トロフィーを最後にWTCから撤退した[18][11]。第7戦終了時のポイントランキングはチームズ・タイトルの1位はエッゲンバーガー7号車で165ポイント。2位は144ポイントのシュニッツァー46号車で、118ポイント獲得のシュニッツァー43号車が3位で続いていた。ドライバーズ・タイトルは165ポイントのルドヴィック、151ポイントのニーツビーツとフォード勢が1、2位を占め、シュニッツァーのラヴァーリアが140ポイントを獲得し3位となっている。

シエラ RS500のポテンシャルは他車を凌駕しており、第8戦 ジェイムズ・ハーディー1000でもエッゲンバーガーが1‐2フィニッシュを決め、3位にピート・ブロックのホールデン・コモドア、4位に地元チームのM3、5位にピーター・ジャクソンのスカイラインRSターボと地元オセアニア勢が続いた。日本から遠征した中谷明彦/ゲイリー・スコット/ジョン・フレンチ組のスタリオンターボも7位でゴールした[19]。しかし、その後エッゲンバーガーのシエラ RS500はフロントオーバーフェンダーの寸法違反で失格となりホールデンが優勝、以下各車の順位が繰り上がった。エッゲンバーガーはこの件に抗議したため、FISAによる裁定が出るまで第8戦のリザルトは暫定結果として扱われた[20][21]

第9戦のカルダー500㎞でもエッゲンバーガーが予選でフロントローを独占し、決勝でもデュドネ/ソーパー組の6号車が優勝したが、ドライバーズ・タイトルを争うルドヴィック/ニーツビーツ組は12位(選手権登録車中5位)に終わった。2位から4位に2台のシュニッツァーとシビエムのM3が続き、5位にスカイラインRSターボ、6位にもコモドアの地元勢が入賞した。中谷/スコット組のスタリオンターボは9位でゴールした[22]。エッゲンバーガー・シエラは続くニュージーランドウェリントンで開催の第10戦 ニッサン/モービル500もルドヴィック/ニーツビーツ組の7号車がポールトゥフィニッシュで制し、シュニッツァー・BMWのラヴァーリア/ピロ組は前戦に続いて2位でゴールしポイントを加算した[23]

両タイトル争いは最終戦 インターTECまでもつれ込んだ。BMWはナンバー1ドライバーのラヴァーリアをチャンピオンにするため、シュニッツァーの3台とシビエムの2台をBMWモータースポーツ名義でチーム名で登録し、レース中最上位で走行しているマシンにラヴァーリアを搭乗させる作戦を採用した[24]。決勝レースはルドヴィック/ニーツビーツ組のエッゲンバーガー6号車が優勝し、全日本ツーリングカー選手権(JTC)で活躍するオブジェクトTのトランピオ・シエラも46号車と同一周回の2位と好走した。シュニッツァーのラヴァーリア/ピロ組の46号車は3位でゴールした。日本車トップはリース、/星野薫組のトヨタ・スープラで9位だった[25]。最終戦終了後、第8戦の失格に関するエッゲンバーガーの抗議は却下され、1987年WTCのリザルトが確定した。ドライバーズ・タイトルを獲得したラヴァーリアは、1953年のアルベルト・アスカリ以来のイタリア人世界チャンピオンとなった[26]

シーズンが佳境を迎えていた10月上旬、FISAはWTCの廃止を決定し、ツーリングカーの世界選手権は1年で終了することになった[27]

ランキング

ドライバー

順位 ドライバー 車両
ITA

SPA

FRA

GER

BEL

CZE

GBR

MPC

CPR

NZL

JPN
ポイント
1 ロベルト・ラヴァーリア BMW・M3 DSQ 1st Ret 2nd Ret 4th 1st 3rd 2nd 2nd 2nd 269
2 クラウス・ルドヴィック フォード・シエラRSコスワース
フォード・シエラRS500
DSQ 4th 4th 1st Ret 1st 4th DSQ 5th 1st 1st 268
クラウス・ニーヅビーズ フォード・シエラRSコスワース
フォード・シエラRS500
DSQ 5th 3rd 1st Ret 1st 4th DSQ 5th 1st 1st 268
4 エマニュエル・ピロ BMW・M3 DSQ 1st Ret 2nd Ret Ret 1st 3rd 2nd 2nd 2nd 244
5 ピエール・デュドネ フォード・シエラRSコスワース
フォード・シエラRS500
DSQ 4th 4th Ret Ret 2nd 7th DSQ 1st 3rd 4th 193
スティーブ・ソパー フォード・シエラRSコスワース
フォード・シエラRS500
DSQ 5th 3rd Ret Ret 2nd 7th DSQ 1st 3rd 4th 193
7 オリビエ・グルイヤール BMW・M3 DSQ 3rd 4th 1st 3rd Ret 2nd Ret 6th 164
8 ジョニー・チェコット BMW・M3 DSQ 6th 1st Ret Ret 5th Ret 1st 4th Ret 5th 158
ジャンフランコ・ブランカテリ BMW・M3 6th 1st Ret Ret 5th Ret 1st 4th Ret 5th 158
10 ローランド・ラッツェンバーガー BMW・M3 DSQ 2nd Ret 3rd 6th 4th Ret Ret 3rd 4th 146
11 ルイス・ペレス=サラ BMW・M3 DSQ 3rd 4th 1st 3rd Ret 6th 134
12 ジョルジオ・フランシア アルファロメオ・75 ターボ
アルファロメオ・33
Ret Ret 6th 7th 5th Ret 2nd Ret 6th 5th 130
13 マルクス・オストライヒ BMW・M3 DSQ Ret 3rd 6th Ret Ret Ret 3rd 4th 3rd 118
14 ダニエレ・トッフォリ アルファロメオ・33 Ret 9th Ret 6th 5th 8th 99
15 ヴァルテル・ヴォウラス アルファロメオ・75 ターボ 1st 7th 10th Ret 4th 9th 8th 94
マルセロ・チプリアーニ アルファロメオ・75 ターボ 1st 7th 10th Ret 4th 9th 8th 94
17 ジャック・ラフィット アルファロメオ・75 ターボ 10th 7th 6th 3rd 8th 5th 86
18 カルロ・ロッシ アルファロメオ・75 ターボ 2nd Ret 9th 9th Ret 7th 3rd 80
アレッサンドロ・サンティン アルファロメオ・75 ターボ 2nd Ret 9th 9th Ret 7th 3rd 80
20 アルミン・ハーネ マセラティ・ビトゥルボ
フォード・シエラRS500
4th DNQ Ret Ret Ret 11th 6th Ret Ret 7th 79
21 ヴィンフリート・ヴォクト BMW・M3 DSQ Ret 1st 2nd Ret Ret 70
22 パオロ・バリッラ アルファロメオ・75 ターボ Ret Ret 6th 3rd 8th 5th 67
23 イヴァン・カペリ BMW・M3 DSQ 2nd 2nd Ret 60
24 アレッサンドロ・ナニーニ アルファロメオ・75 ターボ 3rd 10th 7th 5th 59
25 アンディ・ラウズ フォード・シエラRSコスワース
フォード・シエラRS500
Ret 8th 5th 5th Ret Ret Ret Ret 58
ティエリー・タッシン フォード・シエラRSコスワース
フォード・シエラRS500
Ret 8th 5th 5th Ret Ret Ret Ret 58
27 リナルド・ドロヴァンディ アルファロメオ・75 ターボ Ret 8th 8th 2nd 10th Ret 54
ジャン=ルイ・シュレッサー アルファロメオ・75 ターボ 6th 7th 3rd 54
29 アラン・ティエボー アルファロメオ・33 Ret 9th 8th 45
30 ガブリエル・タルキーニ アルファロメオ・75 ターボ Ret 8th 2nd 10th Ret 43
31 ブルーノ・ジャコメリ マセラティ・ビトゥルボ 4th DNQ Ret Ret Ret 11th Ret 42
マルセロ・グネッラ マセラティ・ビトゥルボ 4th Ret 11th 42
33 クラウディオ・ランジェス アルファロメオ・75 ターボ 8th 2nd 41
34 ディーター・クエスター BMW・M3 6th 3rd 39
35 アルトフリート・ヘーガー BMW・M3 DSQ 2nd Ret 30
ニコラ・ラリーニ アルファロメオ・75 ターボ Ret 2nd 30
トマス・リンドストロム アルファロメオ・75 ターボ 9th 12th 10th Ret 6th DNS 30
38 マイケル・アンドレッティ アルファロメオ・75 ターボ 3rd 24
39 カルロ・ブランビラ アルファロメオ・33 Ret Ret 9th 22
40 マリオ・ヒッテン マセラティ・ビトゥルボ 6th 21
ニコラ・テシーニ マセラティ・ビトゥルボ 6th 21
42 マッシモ・シエナ アルファロメオ・75 ターボ 4th 20
43 スティーブン・アンドスカー アルファロメオ・75 ターボ Ret 6th DNS 16
ベルント・シュナイダー フォード・シエラRS500 7th 16
45 ミカエル・ネーブリンク アルファロメオ・75 ターボ 9th 12th 10th Ret 14
46 ブルーノ・ディ・ジオイア アルファロメオ・75 ターボ 11th 3
ジェラール・フェブロ アルファロメオ・75 ターボ 11th 3
結果
金色 優勝
銀色 2位
銅色 3位
ポイント圏内完走
青灰色 ポイント圏外完走
周回数不足 (NC)
リタイヤ (Ret)
予選不通過 (DNQ)
予備予選不通過 (DNPQ)
失格 (DSQ)
スタートせず (DNS)
エントリーせず (WD)
レースキャンセル (C)
空欄 欠場
出場停止処分 (EX)

* 各レースの総合順位(選手権ポイントの獲得資格がないチームを除く)と各ディビジョンでそれぞれ上位から20点-15点-12点-10点-7点-6点という形で、6位までにポイントが与えられその合算となる。仮にレース総合で3位で、属するディビジョンで1位だった場合、3位12ポイントと1位20ポイントの合計で32ポイントを得ることとなる。すなわち、1レースにおいて獲得可能な得点は最大で40ポイントとなる。

チーム

順位 チーム ディビジョン Rd 1 Rd 2 Rd 3 Rd 4 Rd 5 Rd 6 Rd 7 Rd 8 Rd 9 Rd 10 Rd 11 合計ポイント
1 Eggenberger Texaco Ford No 7 3 - 30 25 40 - 40 30 - 23 40 40 268
2 Schnitzer BMW M3 No 46 2 - 40 - 27 12 25 40 - 35 35 35 249
3 Schnitzer BMW M3 No 40 2 - 30 30 35 - - - 24 27 25 27 198
4 Eggenberger Texaco Ford No 6 3 - 23 32 - - 30 16 - 40 27 25 193
5 Bigazzi BMW M3 No 43 2 - 24 - 22 40 32 - 30 - - 16 164
6 CiBiEmme Sport BMW M3 No 42 2 - 16 40 - - 20 - 40 22 - 20 158

参照

  1. ^ 三「グループAを彩った名マシンたち」『グループAレース クロニクル』、モーターマガジン社、2024年、138頁。 
  2. ^ 大内明彦「DIVISION 1&2 CARS FORD,SIERRA RS500」『JTCグループAマシンのすべてグ』、三栄書房、2023年、040頁。 
  3. ^ 「グループAに強力なニューカマー」『CAR GRAPHIC』第314号、二玄社、1987年、268‐269。 
  4. ^ 「RACE DIARY」『Racing On』第014号、武集書房、1987年、133頁。 
  5. ^ 「WORLD NEWS NETWORK」『Racing On』第009号、武集書房、1987年、38頁。 
  6. ^ 「WORLD NEWS NETWORK」『Racing On』第010号、武集書房、1987年、38頁。 
  7. ^ ジョー・サワード「WTC MONZA 500km」『Racing On』第014号、武集書房、1987年、90頁。 
  8. ^ ジョー・サワード「1987 REVIEW WORLD TOURING CAR CHAMPIONSHIP」『Racing On Year Book 1987-1988』、武集書房、1988年、81頁。 
  9. ^ サワード 1987, p. 88.
  10. ^ a b サワード 1987, p. 90.
  11. ^ a b c サワード 1988, p. 81.
  12. ^ 「RACE DIARY」『Racing On』第015号、武集書房、1987年、128頁。 
  13. ^ 「WTC第4戦 ニュルブルクリンク」『オートスポーツ』第480号、三栄書房、1987年、52‐53。 
  14. ^ 「RACE DIARY」『Racing On』第017号、武集書房、1987年、134頁。 
  15. ^ 高橋二朗「時の壁」『Racing On』第018号、武集書房、1987年、68-69頁。 
  16. ^ 「RACE DIARY」『Racing On』第018号、武集書房、1987年、141頁。 
  17. ^ 「RACE DIARY」『Racing On』第019号、武集書房、1987年、139頁。 
  18. ^ 「WORLD NEWS NETWORK」『Racing On』第020号、武集書房、1987年、39頁。 
  19. ^ 「RACE DIARY」『Racing On』第020号、武集書房、1987年、143頁。 
  20. ^ AS492 1987, pp. 30‐31.
  21. ^ 村瀬 1988, p. 68.
  22. ^ 「RACE DIARY」『Racing On』第020号、武集書房、1987年、145頁。 
  23. ^ 「RACE DIARY」『Racing On』第021号、武集書房、1988年、144頁。 
  24. ^ 「INTER TEC」『Racing On』第021号、武集書房、1988年、69頁。 
  25. ^ 「RACE DIARY」『Racing On』第021号、武集書房、1988年、145頁。 
  26. ^ 「NEWS NETWORK」『Racing On』第022号、武集書房、1988年、39頁。 
  27. ^ 「RACING ON」『WORLD NEWS NETWORK』第020号、武集書房、1987年、36頁。 

関連項目

外部リンク




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