飛程
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/07 15:20 UTC 版)
β崩壊後、高速で放出されるベータ粒子の流れをベータ線という。ベータ線は、アルファ線や中性子線などと同じ粒子放射線の一種で、アルファ線と同じ電離放射線である。放出されてエネルギーを失うまでの移動距離(飛程)は、β崩壊時に受け取ったエネルギーを使い切るまでであるが、同じ放射性物質から放出されるベータ粒子であっても、常に同じエネルギーを受け取るとは限らず、ほぼ全ての場合において広いエネルギーの幅(連続エネルギースペクトル)を持つ。そのためベータ粒子の飛程を表すときは、放出される最大のエネルギーを持つベータ粒子の飛程とする。また、β+線(陽電子)に於いては、低エネルギーの陽電子は直ちに周囲の電子と対消滅を起こすため観測されず、電荷の符号が逆のため、空気や放射線源中での相互作用もβ-線と異なる。そのため、β-線とβ+線は仮に最大エネルギーが同じであったとしても異なったスペクトル形状を示す。 ベータ粒子は電荷を持っているため、その移動過程で物質中の原子核や軌道電子と影響を及ぼしあう。ベータ粒子は電子そのものなので、電子と比べて非常に大きい質量を持つ原子核には影響をほとんど与えないが、ベータ粒子は原子核のクーロン場により大きな加速度を受け制動放射が発生する。 その一方、軌道電子には電離作用や励起作用を起こす。それによりベータ粒子もエネルギーを失うが、アルファ粒子の電離作用や励起作用と比べるとかなり小さく、一気にエネルギーを失うことはない。従って、アルファ粒子と比べてエネルギーを失うまでに長い距離を移動し広範囲に影響を及ぼす。下記の遮蔽対比図でアルファ粒子と比べて厚い板が必要なのはこのためである。 また、電離や励起を起こす際、斥力(電子)や引力(陽電子)の影響で運動の方向を曲げられるため、原子核や電子による影響でベータ粒子は直進できずに曲がりくねりながら進むことになる。
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