音写と五種不翻
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/05/13 14:36 UTC 版)
ウィクショナリーに関連の辞書項目があります。音写 なお、仏典を翻訳する際にいくつかの理由から漢文に訳さず、梵語の音をそのまま漢字に写した、音写(おんしゃ)という技法が用いられた。音写は今日において外来語をカタカナ表記にするのと似たような技法である。しかし、玄奘は一部の梵語を漢訳せず音写したことについて、五種不翻(ごしゅふほん)という5つの理由を挙げている。また玄奘以降の訳僧もこれらの理由から音写を用いたと考えられる。五種不翻の理由は以下の通り。 順古故(じゅんここ) - 古例という既にあった方法にしたがうがゆえ翻訳せず。中国仏教の源流を開いた摩騰迦(まとうが)や竺法蘭の時代よりの慣わしにより、すでに衆人によりその意味が知られていたもの。たとえば阿耨多羅三藐三菩提(あのくたらさんみゃくさんぼだい、略して阿耨菩提)などの語類がこれにあたる。 秘密故(ひみつこ) - 甚深微妙で不可思議なる仏の秘密語であるがゆえに翻訳せず。たとえば、般若心経の最後の一節「羯諦 羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提薩婆訶」のような真言・陀羅尼などの語類がこれにあたる。 多含故(たごんこ) - 多くの義を含むがゆえに翻訳せず。たとえば、自在・熾盛・端厳・名称・吉祥・尊貴という六義(6つの義・意味)という複数の意味を含む婆伽婆・薄伽梵(バギャバ・バガボン=バガヴァート、世尊と訳す場合もある)などの語類がこれにあたる。 此方無故(しほうむこ) - この地方(中国)にない意味や言葉であるがゆえに翻訳せず。たとえば、閻浮樹(えんぶじゅ、閻浮提にあるという想像上の大森林)、乾闥婆(けんだつば)、迦楼羅(かるら)などの語類がこれにあたる。 尊重故(そんじゅうこ) - 善を生ぜんがゆえに翻訳せず。たとえば、般若や仏陀のように、これを聞いた者は心に信念を生じるが、もし般若を知恵と、仏陀を覚者などと単純安易に訳せば、浅はかに軽んじられることが免れず、敬心を保つことが難しい語類がこれにあたる。
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