阻止能の定義とブラッグ曲線
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/13 01:06 UTC 版)
「阻止能」の記事における「阻止能の定義とブラッグ曲線」の解説
粒子は物質を通過するときにエネルギーを失う。これは荷電粒子であるか非荷電粒子であるかによらないが、以下では主に荷電粒子について考える。ある材料の阻止能 S は移動距離 x 当たりに失うエネルギー E と等しい。 S ( E ) = − d E / d x {\displaystyle S(E)=-dE/dx} 右辺の負符号により、エネルギーの損失( dE/dx < 0 )に対して阻止能 S は正になる。阻止能は放射粒子の種類とエネルギー、通過する材料の性質によって決まる。 イオン対(通常は陽イオンと電子の組)の生成には決まった大きさのエネルギーが必要なので(たとえば乾燥空気中では33.97 eV:305)、移動距離当たりの電離数は阻止能に比例する。 上式で定義される線阻止能は国際単位系でNの単位を持つが、MeV/mmなど別の単位で表されることが多い。同じ物質の気体と固体を比較すると、密度の違いのみから線阻止能に大きな差が生まれる。そこでしばしば阻止能を材料密度 ρ で割った質量阻止能 S/ρ が用いられる。この量はSI単位系でm4/s2の単位を持つが、通常はMeV/(mg/cm2)のような単位で表される。質量阻止能は材料の密度にほとんど依存しない。 通常、阻止能は飛程(英語版)(粒子が停止するまでに飛ぶ距離)の終端に近づくにつれて増加し、最大値(ブラッグピーク)に達した直後にエネルギーがゼロに低下する。阻止能を材料深さの関数として表した曲線をブラッグ曲線と呼ぶ。放射線治療ではブラッグ曲線は実用上大きな意味を持っている。 5.49 MeVのアルファ粒子が空気中を飛ぶ間に阻止能が増加して最大値に達する様子を右上図に示す。このエネルギーの値は空気中にわずかに存在する気体状の天然放射性同位体ラドン (222Rn) が放出するアルファ放射に相当する。 阻止能の逆数をエネルギーで積分すると、「連続減速近似(CSDA)」における平均飛程が求められる。 Δ x = ∫ 0 E 0 1 S ( E ) d E {\displaystyle \Delta x=\int _{0}^{E_{0}}{\frac {1}{S(E)}}\,dE} ここで E0 は粒子が最初に持っていた運動エネルギー、Δx は飛程、S(E) は線阻止能である。 物質内でイオンがたどった全経路長にわたって阻止能を積分することで、周囲に与えられたエネルギーの総量が得られる。
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