脳微小血管内皮細胞へのターゲティング
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/30 09:09 UTC 版)
「血液脳関門」の記事における「脳微小血管内皮細胞へのターゲティング」の解説
タンパク質医薬品や抗体医薬品、核酸医薬品などの高分子医薬品が中枢神経系疾患に対しても高い有効性を示す可能性が示唆されている。難治性疾患であるアルツハイマー病や脳腫瘍、脳梗塞、パーキンソン病、外傷性脳損傷などがその対象となると考えられている。しかしながら、これらの治療活性の高い候補物質が次々と見出されているものの、生体内ではそれらが単独で中枢疾患治療薬効果を発揮するには至らない。投与部位から標的である中枢神経への薬物移行性が血液脳関門により厳密に制限されていることが原因と考えられている。分子量閾値説では血液中から脳内へ移行できる薬物は分子量450Da未満と言われていた。低分子医薬品の実に95%は血液脳関門を通過することができず、高分子医薬品が血液脳関門を通過する方法は確立していない。したがって中枢神経疾患用の高分子医薬品を開発するためには血液及び脳間の薬物輸送障壁を克服し、薬物の脳送達効率を飛躍的に高める安全かつ有効な技術を確立しなければならない。そのためには血中に投与された薬物を脳微小血管内皮細胞近傍に標的化し、かつ血液脳関門の透過性を亢進させる必要がある。具体的には脳微小血管内皮細胞へのターゲティングと血液脳関門の透過性を促進させる方法が必要となる。 脳微小血管内皮細胞へのターゲティングの方法として、トランスフェリン、インスリン、レプチンおよびジフテリア毒素等の受容体を標的として、その周囲の薬物を集積させる手法が古くから試みられてきた。そのうちトランスフェリン受容体は最も重点的に研究された標的受容体である。もともと血中に存在する内因性トランスフェリンが過剰濃度で存在するためトランスフェリンをリガンドとして活用するのは難しいと考えられた。そこでトランスフェリン受容体に対してより強力な親和性活性を有する抗体もしくは人工ペプチドが設計され脳微小血管内皮細胞へのターゲティングが試みられた。トランスフェリン以外にはLRP-1も盛んに研究されている。LRP-1に対して高い親和性を有するペプチドとしてはAngiopep-2が知られている。5種の異なるリガンドで修飾したリポソームで脳微小血管内皮細胞への取り込み効率を比較したin vitro実験では全てが細胞内に取り込まれたがマウスに静脈注射したin vivoの実験ではそのうち1種類しか脳標的化作用を示さなかったという報告がある。受容体を利用した脳微小血管内皮細胞へのターゲティングだけでは血中から脳への全体の輸送を向上させるには至らないことが示唆された。
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