背腹軸
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/26 20:28 UTC 版)
背腹軸(はいふくじく、dorso-ventral axis)も動物の体制の基本となる体軸で、背側と腹側を結ぶ軸である。背腹軸は副軸である。厚軸(こうじく、独: Dickenachse)、矢状軸(しじょうじく、sagittal axis、独: Pfeilachse)とも呼ぶ。 多くの動物では、細胞外に放出されるBMP(骨形成因子)というリガンドとコルディン (Chordin) などのBMP拮抗因子によってつくられるBMP活性の濃度勾配によって形成される。特に、扁形動物、節足動物、棘皮動物、脊椎動物において、BMPが背腹軸の形成に関与していることが示されており、外胚葉はBMP活性が高いと表皮に、低いと神経に分化する。19世紀前半から脊椎動物と他の動物では背腹軸に沿った器官配置が反転していることが指摘されていたが、実際に脊椎動物でBMPが腹側で発現し、背側でコルディンなどが発現しており、節足動物では背側でBMPに相同な分子が、腹側でBMP拮抗因子に相同な分子が発現していることが分かっている。ショウジョウバエ(節足動物)では背側を決めるのが、TGF-βスーパーファミリーに属しBMPと完全に相同なDpp (Decapentaplegic) タンパク質の濃度勾配とスクリュウ (Scw, Screw)である。Dppの濃度勾配の境界はDpp/Scwに結合して活性を阻害する、コルディンと相同なSogを介して形成される。逆にショウジョウバエにおける腹側を決めるのはdorsal遺伝子で、細胞性胞胚期において腹側に転写因子ドーサルタンパク質 (Dorsal) が多く分布し、背側への分化を抑制する。昆虫の卵では背腹軸は受精前から決定されているのに対し、両生類(脊椎動物)では背側は受精の際、精子の侵入と反対側に灰色三日月環が形成され、そこから原腸陥入が起こって背側となる。将来の背側領域でWntシグナル伝達系のディシェベルド (Dsh, Dishevelled) が活性化して他の因子を活性化し、反応の下流でオーガナイザーを誘導する。 さらに、脊椎動物の神経管の背腹軸は、胚の背腹軸形成の完成後に進行するが、神経管の腹側領域(フロアプレート)や脊索でShh (sonic hedgehog) タンパク質、Wnt拮抗因子、BMP拮抗因子が発現し、これらの濃度勾配によって神経管内で下流標的因子の発現活性が活性化または抑制されることで種々の神経細胞が分化する。最もBMP活性が高い背側ではMsx陽性の神経前駆細胞、続いてGsh陽性の神経前駆細胞、更にShhが発現する最も腹側ではNkx陽性の神経前駆細胞が背腹軸に沿って形成される。これらの発現パターンは左右相称動物の中枢神経系で広く保存されている。
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